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第二章 地底騒乱

第九百四話 渦中にありて尚、繋がりを知る

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「おい時間だ。表に出ろ」
「……はい」
「お前が二千二十四番か。皇国で働けるのを有難く思うんだな」
「はい。それはもう」
「うむ、良い心構えだ。基本は朝、食事をしてから坑道へ向かう。その後指定された
場所で採掘を行う。道具は食事を下げたときに支給される。いいな」
「朝食を頂けるのですか」
「当たり前だ。労働の基本は食事を摂取せねば出来ん。偉大なるフェルドナーガ様は
人材を大切にされるお方だ。きりきり働けよ」

 早朝迎えに来たのは何の特徴もない、至って普通の妖魔だ。
 昨日を反省し今日から活動を開始する。
 現状把握を食事処に向かいながら行おう。

 まず俺は今、あらゆる能力を封じられている。
 両手、両足、首に枷のようなものがつけられており、これが恐らく何かしらの影響を
及ぼして能力が使えないのだろう。
 ベリアルの首にも同じようなものがはめこまれている。
 取り外そうにも取り外せないし、うかつに外して爆発でもしたら困る。
 この状態の俺は術が使えない。
 当然真化も絶魔も出来ないし、神魔解放状態でもない。
 ただの……何も無い頃の俺だ。
 鍛え抜かれた身体能力はあるが、モンスターの技は使えない。
 目の力については不明だ。試したら自殺になり兼ねない。
 
 そして、この何処かには絶魔王、雷帝ベルベディシアもいるはずだ。
 だが、意識を失った後彼女がどうなったかも分からない。
 ここへ連れて来てしまった責任は俺にある。
 彼女も助けなければならない。
 
 現在地はノースフェルド皇国の北側に位置する鉱山だ。
 巨大な鉱山であり、大掛かりな採掘現場となっている。
 何を掘るのかはまだ知らされていないが、きっと貴重な金属などが掘れるのだろう。

 俺の装備は薄手の灰色の地味な服一枚。
 いわゆるただの布切れというやつだ。
 つまり、能力も装備も何もない状態でこの苦難を乗り切らねばならない。

 だが、目は見えている。
 これだけでも乗り越えられる気がしてくるのは不思議だ。

「……おい! おい! 聞いているのか!」
「……はい。すみません、慣れていない場所でぼーっとしてしまって」
「昨日連れて来られたばかりと聞いている。無理もあるまい。まぁ直ぐになれるだろう。
貴様の食事場所は番号と同じ二千二十四番だ。さぁいけ」
「はい。あの……」
「何だ?」
「ここまで連れて来てくれて有難うございます」
「……うむ。不敬罪も入っていると聞いたが、どうして。素直な奴じゃないか」

 丁寧にお辞儀をすると、相手の妖魔から笑みがこぼれる。
 敵陣にありて敵を敵と思うな……か。
 食事の席に着くと、周りにはどうみても戦闘向きでない妖魔が沢山いた。
 監視の目が多いからか、皆静かに食事を取っている。
 味気ないスープと穀物、それに……魔物の肉か。
 今は食えるだけで有難い。
 食事を取りながら少し周囲を探るが、ベルベディシアの姿はない。
 男女別にされているようだ。
 ここには男しかいない。
 
「なぁあんた。見たところかなり強そうだが、何やったんだ?」
「列車に勝手に乗車しただけだ」
「妖魔導列車に? ありゃまだ試運転中なのに、無茶したな」
「あんたは?」
「俺は何もしてないよ。ここにいる奴らは殆ど敵国の捕虜さ」
「そうか……それじゃ俺の顔を知ってる妖魔もいるかもな」
「あんたどこの国出身なんだ?」
「フェルス皇国……かな」
「そうか、フェルドナージュ様の……お可哀そうにな」
「何か知ってるのか?」
「しっ……監視に気付かれるといけない。長話は止めよう」

 そこで隣の奴との話を一端打ち切った。
 やはりここでの会話はリスクがある。
 なるべく避けて坑道で探りをいれるか。
 食事を終えた後多少の休息を許されるらしい。
 ギリギリまで粘ってみたが、監視がいなくなることは残念ながら無かった。

「お前らで最後か。もう少し早く食ってくれねえかな」
「すみません。今日入ったばかりで」
「新入りか。それじゃ新入りより遅い後ろの奴は何してたんだ?」
「いやぁ……ちょいとねぇ……」
「変な奴だ。さあ前だけ見てさっさと進め! 振り返って話始めたりするんじゃ
ないぞ!」
「分かりました」

 言われた通り先へ先へと続く道を真っすぐ進んでいく。
 あれ? 何か引っ掛かるな。
 何だ? この感覚は。

「クルッピー?」
「ああベリアル。お前が肩に乗ってるのに怒られないから違和感があるのか」
「ベリアル!? その鳥の名前かねえ?」
「後ろの人か。喋ってると怒られるぞ」
「まぁ、怒られるだけで済むなら構わないんだけどねえ」
「初日から問題起こしたら、大変だから。話なら作業し始めたらにしてくれよ」
「そうしようかねえ」
「……?」

 何だこいつは。俺に何か言いたいことでもあるのか。
 もしかしたらフェルス皇国の町民かもしれない。
 それならフェルドナージュ様のことなんかを聞けるかもしれないな。

「なぁあんた……名前を教えてくれないか?」
「そうだねぇ……瞬剣のジオ。そう言えば伝わるんじゃないかねぇ?」
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