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第二章 地底騒乱

第八百九十三話 ベレッタ再訪

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 シュバジギス赤火山とやらに降り立った俺たち。
 まずは周囲の状況確認と位置確認からだ。
 ここは山の中腹辺りだろうか? いくつも切り立ったツララのような剣山が見える。
 ベレッタへのルートはかなり特殊だったのと、滞在した時間は短かったために、地理に
疎い。
 無事に地底へ出られたのはいいが……この場所にはいい思い出がない。
 リルとサラが拷問を受けていたのもあの町だ。
 リルは無事なのだろうか。あの強さと技があればそう遅れは取らないと思うが、これほど
長く会っていないと心配になる。

「ちっ。面倒なのが絡んできたようだぜ」
「ターゲットに反応がある。数は八……か?」
「まぁ。大きな生物ですわ……キャーーーー! 足が一杯で気持ち悪いですわ! 雷斬鞭!」

 大声を出して叫んだ雷帝は、自らを回転させ、しなる鞭のように長い髪を操り、電撃を迸ら
せ、迫って来ていた巨大ダンゴムシのような奴らを斬り飛ばしてしまった。
 いっぱしの正しい乙女のような反応だったが……これは道中楽かもしれない。

「……あいつは跳び跳ねたりして襲ってきやがるからなかなか的が絞れず厄介なんだが……」
「あんな感じで電撃を使えたら便利だな。生物が極端に怖がるし、雷に強い生物っているのか?」
「冗談じゃありませんわ! わたくしの視界に入る前にあなたたちが倒しなさい!」
「ねえねえ。それよりも馬鹿正直に道を下っていったらこの辺りの妖魔に怪しまれるんじゃ
ないの?」
「それはもっともだが……俺、妖魔何だけど」
「君以外は違うよね?」
「使い魔ってことでベリアルはどうにかなるが……タナトス、お前外見とか変えられないの?」
「あら、わたくし変装は得意でしてよ?」
「ほう。やってみやがれ」
「髪をこう……きゅっと絞って、ほら」

 髪型を変えたのを変装だと思っているのか。
 こちらの意図をまるで理解していないようだ……。

「なんだ、それでいいならほら……」
「お前はやらんでいい! 俺もあんまり妖魔っぽくない顔立ちだが、装備でごまかせたな」
「黒衣を着てれば分からない感じにはなるかもね。黒衣なら出せるから、これ着ていこうよ」

 ……全員黒衣の集団となった。
 これはこれで物凄く怪しいと思うんだが……まぁいい。現地調達しよう。
 ゆっくりとシュバジギス赤火山を降りて行く。
 言いにくい名前の山だ……どうしてこんな名前なんだ? と、考えながら下山してし
ばらくすると……「げっ……まじかよ」
「気付いたか」
「何ですの? 先に進みませんの?」
「道のがん壁だよ。良く見ろ。擬態してるけどあれ……モンスターだ。あれがシュバジギ
スってモンスターか何かなんだろ?」
「察しがいいじゃねえか。この辺に無数生息する奴だ」

 シュバジギスをいい表すならワニ状の生物だ。だがカメレオンのように周囲の壁に擬態
している。この周囲の岩は皆赤色をしているので、こいつらも赤色だ。
 
「ターゲットに反応はないからこっちは狙ってないな」
「範囲内に入れば確実に襲って来るぜ。ここでブレスぶっ放すわけにもいかねえ。なるべく
地味に戦いな」
「かなり下山してきたからな。近くに妖魔がいてもおかしくはないか……」
「それじゃわたくしが……雷招!」

 雷帝ベルベディシアの指から電撃が銃のように放出される。
 岩に擬態していた一匹を仕留めると、どう? というようにこちらを向く。

「馬鹿野郎! 一匹狙えばおめえ……」
「ターゲットに反応、十、いや二十? こんなにいたのか!」

 一斉に周囲のモンスターが擬態状のままこちらへ向かって来る。
 数が多い! 「タナトス、足止め……あれ」
「うわあーーー! 何で私ばっかりこんなに襲って来るの?」
「わたくしの傍にいたから、あなたが攻撃したのかと思われているのですわね」
【絶魔】
「両星の殺戮群……数には数で対抗だ。食い尽くせ、ヒトデ共」

 タナトスが逃げ惑い、それを襲おうとするシュバジギスを一匹、また一匹と捕食していく。
 そのうちの一匹を封印出来た。
 大技が使えないってのは少々困ったものだ。
 幾つか試したいこともあるのだが……それはまだお預けのようだ。
 結局タナトスが釣りをしてマラソンしている間に、ほぼ捕食が完了した。
 ヒトデ共は相変わらず薄気味悪い。
 この術が使えるようになったのはブネのお陰だが……ブネの趣味だよな、この技。
 もしかしてカルネもブネのように育つのではと不安が過る。

「ベリアル。ベレッタの位置は分かるか?」
「ちょと待ってろ、見て来るからよ」
「鳥は便利ですわね。わたくしも空をゆっくり飛びたいですわ」
「魔王って大体空飛んでるイメージなんだけど……やっぱり飛べないのか」
「風術が使えれば飛べるかもしれないのだけれど。オキュペテがあれば飛べますわ」
「オキュペテって……テンガジュウってやつが乗ってたあの雲みたいなやつか」
「我が雷帝城には幾つか珍しい古代のものがありますのよ」
「そんな城を簡単に留守にしていいのか?」
「あら。わたくしは城になんて束縛されませんわ。それにあの城へ踏み入る者なんてそう
はいませんわよ。レッサーヴァンパイアなどが沢山おりますもの」
「レッサーヴァンパイア? それって吸血鬼って奴か」
「それに城にはビローネとベロアがおりますわ。アーティファクトへの宝物扉はわたくしが
城にいないと解放されませんのよ」

 再び決めポーズを取り、捕食を取り逃がした一匹に雷撃を放つベルベディシア。
 頼りになるが、いつか雷撃に巻き込まれそうでおっかない。
 全ての敵を排除し、ようやく下山を終えた俺たち一行。
 此処までは妖魔に会っていない。
 ベリアルの案内で先に進むと、しばらくして懐かしのベレッタが見えて来た。
 此処は相変わらずだ。
 
「俺が内部に入り衣類を調達してくるまで大人しく待っててくれるか」
「この黒衣で入れるでしょ?」
「念のためだ。直ぐ戻るから」

 この場所へ進入するのは二度目。
 さして難しくはない。
 衣類を調達する当てもある。
 
 バネジャンプで内部に侵入し、以前来たときと同じように行動してみる。
 妖魔はいるが……随分と強そうな妖魔が多く見えるのは気のせいだろうか。
 
 物陰に出来る限り隠れつつ、酒場まで辿り着いた。

「いらっしゃい……目立つ格好してる奴だな」
「マスター。こいつで甘みのある酒をくれ」
「ん? ああ、気前のいい客は歓迎だ。待ってな直ぐに用意する」
「ここへは二度目だぜ。以前間抜けな囚われの奴を見る前に立ち寄ったんだ」
「おお、おお。あのときか。懐かしいな。無駄三昧のビノータス様が居た頃かよ。
あの頃はまだ良かったなぁ……おっといけねえ。気前の良い旦那。ほらよ」

 俺は出された飲み物を一気に飲み干すと、更に金貨を四枚出した。
 マスターは目を丸くして金貨を見る。

「こいつぁちょいと多すぎですぜ。何かやばい依頼でも?」
「やばい依頼じゃない。服が欲しいんだよ、急用でな。男もの上下二着と女もの上下一着。
間抜けなツレがちょいとやらかしてな。全員油ひっかけちまって。急いで着替えるにも
こんな黒衣しかなくてな。怪しいだろ、これじゃ」
「確かに入って来たときゃ驚いたが……別にそこまで気にならないですぜ?」
「神経質な奴がいてな。頼めないか?」
「旦那の頼みなら断れないな。ちょいと待ってな、その代わりもう一杯飲んでってくださいよ」
「ああ。金貨もう一枚だ」
「へへっ。本当に気前の良い旦那だ。直ぐ持ってきますから、これ飲んで待っててくだせえ」

 酒場のマスターとは仲良くしておくものだ。
 ……こういったときに必ず役に立つからな。
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