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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百八十八話 パモの進化待ちと戻って来たルーニー

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 幻魔界から戻ったルインは、未だふてくされているメルザをファナたちに任せると、他
の子供たちを一通り撫でまわした後にタナトスとタルタロスの下を訪れていた。
 ロキについてはタルタロスを通して、絶対神側の意見を聞くことになっている。
 イネービュの奴はあれからルーン国側へも顔をみせていない。
 ヨーゼフも海底へ赴いたままだが……本来は関われるような存在でないことは確かだ。
 つまり、リターンがあるまで俺に封印されたままということだ……。

「やぁ。遅かったね。お楽しみだったのかな?」
「何言ってんだお前。メルザがふてくされて大変だったんだぞ」
「ふーん。魔族も色々大変そうだね。それでさ、襲って来た相手側をあれに作り替えていいの?」
「人や魔族に転生させることは難しいんだろ?」
「……ああ。人も魔族も高等過ぎる生命体だ。一方的な侵略者の罪には同等の個体を与えることが
不可能。言葉が喋れない小さな生命体が限度だ」
「それならやっぱり、パルームで頼むよ」
「大量のパルームが出来るなんて、私も想像してなかったなぁ……」
「……だが、貴様の持つエンシェントパルームとは異なる存在だが、いいのか?」
「構わないよ。パモもパモっぽい友達が増えてくれたら、嬉しいだろうからな。そういえば
ずっと封印から出て来て無いが……大丈夫か、パモ?」
「もしかして、進化しようとしてるんじゃないの?」
「進化? 進化ってなんなんだ? モンスター合成じゃなくてか?」
「エンシェントパルームって進化種だったよね?」
「……ああ。ほぼ垣間見ることが無くなった生命体だが、個体によっては進化するだろう」
「それって、まさか大きくなって怪獣みたいになってしまうのか!?」
「違うよ。その子って幻術を使ってたよね? 上位の幻術を使えるようになったり、特殊な力
を備えたりするだけで、見た目はあまり変わらないと思うよ」
「……色は変わるだろう。貴様が所有者であるなら、貴様の色に染まるかもしれん」
「俺の色ねえ……」
「ところで、君もうじき地底に行くんでしょ? 私もついていくからさ」
「……俺は奈落へ戻る。地底のことはお前たちがどうにかしろ」
「相変わらずだなぁ。もっと協力してくれてもいいのに」
「そうも言っていられん。奪われたものを取り戻さねばならん」
「あー……やっぱりまずいんだよね、あれ。ネウスーフォは何か言ってた?」
「神は何も言わぬ。全ては人と魔と下位神の出来事。絶対神は関与せぬ」
「はぁ……絶対神って、何でああなんだろう」
「パルームへの転生ってのは何時終わるんだ?」
「うーん。十日位じゃない?」
「十日か……それならしばらくは俺、出かけてるぞ。こっちのことはルジリトに任せるから」
「ええ? いなくなっちゃうの? ずるいよ。私だって地上を楽しんでないのに」
「……お前は闘技大会に参加して楽しんでいただろう」
「う、ううん。全然楽しんでないよ? 君を助けにいくためにさ、苦労したんだよ」
「それには感謝しているが、随分と死に纏わる道具を集めていたように見えるが?」

 じーっとタナトスを見る。
 こいつ、俺が居ない間に何かやってたな……。
 そっぽを向いてごまかしているが、全くごまかせていない。

「そんなことより何処に行くの? 私もついてっていい?」
「目的地は三か所。キゾナ大陸とシフティス大陸、そしてレグナ大陸だ。ベリアルに乗っていくから時間は
掛からない。あいつなら襲われても返り討ちだからな」
「レグナ大陸? 何しに行くの、あんな辺鄙な場所に」
「闘技大会で悪さをしていた奴らを、国外追放しに。ついでにお詫びもたんまりもらおうかなと思ってるけど
な」
「……レグナ大陸では無茶をするな。日によってはシフティス大陸より危険な場所だ」
「どんな場所か知っているのか?」
「そりゃあね。何せ彼は、ゲンドールに絶対神が降り立ってから最初に作られた生命体だから」
「全てを知るわけではない。だが、魂の回廊で最も多く導かれるのがあの大陸というだけだ」
「つまり、命を落としやすく、命が生まれやすい……と?」
「そういうことだ。決して人や魔族という意味ではない。あらゆる生物に魂は宿る」
「そうか……忠告として受け取っておくよ。それじゃ」
「私も行くからねーー! ひっそりついていくからねー!」
「お前、ベリアルに乗せてもらえると本気で思ってるのか……」

 タナトスとタルタロスの下を離れた後、傷ついたアルカーンの見舞いに向かう。
 仮説で立てられたジャンカの町の治療院には大勢の者がいた。
 皆戦いで傷ついたが、手厚い看病を受けている。
 医者の数も多い。この恩返しの手配は既に済ませてある。

「シュイオン先生、いつも有難う」
「いいえ。戦いは避けられなかった。町を守ってくれた彼らのためなら、身を粉にして看
病いたしますよ」
「スピアは先生を守ってたけどな。先生、前線に向かって治療するって言うから」
「こらスピア。それは内緒の約束ですよ」
「メルフィールさんは?」
「すっかり、元気になりましたよ」
「出産はもっと先だけどな」
「おいおい、それも言わない約束なんじゃ……」

 これ以上邪魔しちゃ悪いな。
 照れてるシュイオン先生の肩に手をやり、アルカーンさんの部屋へと案内してもらう。

「……戻ったか。それにしても、かなりまずい事態だった」
「今回のこと、アルカーンさんがいなければどうなっていたことか……」
「分からないのだ。なぜ自分が管理者の力を個に向けて最大限行使したのかが」
「……えっ?」
「貴様と接してから、俺は変わった。それが正しいことなのか分からん。だが、あの子供
が死ねば貴様も死んでしまう。だからこそ、使ってはならないある時計を使用したのだ」
「アルカーンさん……」

 時間をループさせ続けるなんてそんな真似、世界の理を変えるような力……だ。
 もしかするとあれも、紫電級アーティファクトによるものなのだろうか。

「俺は正しいことをしたのか分からん。だが、貴様も、あの娘も生きていると知り、俺は
安堵している」
「正しさってのはその者が持つ尺度だと思います。他者がそれを正しいとする必要はない。
だから俺にはアルカーンさんの行為が正しいかなんて分からない。でも……」

 俺は跪き、最大現の感謝を込めて伝えた。

「子供を救ってくれて有難うございます、アルカーンさん。このご恩、生涯忘れません」
「ふっ……貴様には借りが沢山ある。そして、貴様に委ねたこともある。弟を……頼む」
「勿論ですよ。お義兄さん」
「調子の良いことを。そうだ、言い忘れていたが……」
「早速か……」

 この人、相変わらずだな。怪我はまだ完治していないが、元気そうではある。

「変幻ルーニー」
「ホロロローー!」
「お、おお……ルーニー! 俺のルーニーが……いませんよ?」
「ホロロローー?」
「声だけ聞こえる? 何処だー? おーい!」
「可幻ルーニー」
「ホロロロー」

 突然アルカーンさんの寝ているベッドの上に、ルーニーが現れた! 
 透明化したのか? どうなってるんだ、この鳥。いや、正確にはプログレスウェポンと
防具なんだよ
ね、この子。
 成長の最終形態とでも言えばいいのか? 
 もう原型留めてませんけど。
 一番最初は時計だったんだよな。

「こいつはもう、ただの夢幻級アーティファクトではない。既に魂が宿っている」
「どうりで感情豊かだと思った……」
「あらゆる細工を施してあるぞ。これに書いてある。後で読んでおけ」
「分かりました……って分厚いな。リルのフェルドナージュ様解体新書を思い出す……」
「それと、言い忘れていたがレンブラント・カーィに貴様の新たな装備を頼んである。
帰りにでもよっておけ」
「新しい装備? 武器はこれ以上手に入れても使いようがないんですけど」
「武器ではない。装飾具だ。貴様の星の力を制御するためのものらしい」
「へぇ。それは興味がありますね。俺も色々と出来るようになったことをまとめないと
自分で技を使っててパンクしそうで」
「能力に振り回されるのは、昔から変わってないようだな」
「う……その通りです。今回は特に手に入った力が強すぎて……」
「地底に出発する前に、俺も協力してやる。今はもう少し休みたい」
「ええ。そのときはよろしくお願いします。そうだ、他の管理者と話は?」
「既に済ませた。出来ればタナトスとは会いたくなかったのだがな」
「やっぱあいつ、嫌われてるんだなー……」

 アルカーンさんに感謝も告げられた。
 これから忙しくなる。
 直ぐ出発をしよう。
 ……余計な奴もついてきそうだけど。
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