異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百八十七話 戦後の状況

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 ジャンカの町に仮説された執務室にて。

「ルジリト殿! ルジリト殿はいらっしゃいますか……ええっ!?」
「どうしたのだ? 状況報告を」

 戦の状況を報告するべく、各地を駆け回った沖虎はルジリトの姿を見て腰を抜かした。
 上空にあった銀色の雲が晴れた翌日のこと。
 ルジリトは報告を待っていた。


「……ルジリト殿までハルピュイアになってしまわれたのですか?」
「ふむ。この姿も悪くない。大した高さではないが、飛行も可能。元々戦力としては弱い私も偵察
出来る上、猫眼鬼族の力も失われてはいないようだ。では報告を」
「はぁ……前向きな姿勢は私も見習わねばなりませんね。戦況ですが、それぞれの地点で
戦闘終結を確認。逃げ惑う者については追尾せぬようにと伝達しました」
「メイショウ殿、それから首謀者ルッツの状況は?」
「メイショウ殿は甚大な傷を負っている上、力は失われているようです。ルッツは現在も
逃走中で、ミズガルド殿がこれを追っています」
「追っていた……だぜ、沖虎」

 背後から声がしたので振り返った沖扉の扉の先には、少し険しい表情をしたミズガル
ド・クライヴ……通称ビーがいた。

「これは……お戻りになられたのですか。して奴めは」
「……取り逃がした。というよりも逃がされた。詳しい話はメイショウ殿から聞いたよ」
「深追いは禁止と伝えたのもある。それに、今回の戦は守るための戦。殺すのが目的ではない」
「ああ……だが、俺の手で蹴りをつけたいんだ。任命してもらって悪いが、隊長の座を降
ろしてくれないか?」
「どこで修行されるおつもりか?」
「シーブルー大陸に古い知人がいてね……旅に出るつもりだ」
「それなら僕も同行しよう」

 ルジリトとビーの会話に入って来たのは、ベルド。そして傍らにはライラロの姿もある。
 彼はトリノポート大陸に向かう途中で襲撃を受け、激しい戦闘を海上で行っていた。

「君は確か……ベルド君だったか。シーブルー大陸に用事でも?」
「僕はまだ、あの場所で調べものがある。子供が出来たから一度妻を安全な場所に連れて
行き、その後七壁神の塔で力をつけてからシーブルー大陸に戻る予定だった」
「それは随分と気になる話だな。ぜひ詳しく聞かせてくれないか。一杯おごるぜ」
「それは有難い……」
「こほん。今は戦果の最中ゆえ、ほどほどに。隊長解任の件は再度検討が必要。お二人と
もまずは休まれよ。酒も一杯だけにしておくように」
「ああ、分かってるよ。すまないな」
「ライラロ殿のご用向きは如何に?」
「聞くまでも無いでしょ? ルインは何処? バカ弟子は無事なの? ベルディスは言う
までもなく無事なんだけど見当たらないじゃない」
「お二人は現在、幻魔界におります。直ぐに戻られると思いますが……」
「ふうん。私の役割が少し地味だから、文句の一つでも言ってやろうと思ったけど。まぁ
いいわ。そうそう、私とハニーの家のことで相談なんだけど……」
「ライラロ殿。今はまだ戦果中ゆえ……少々お時間を。事後処理が多いのです」
「少しくらいなら手伝ってあげてもいいわよ?」
「であれば、ライラロ殿にはミレーユ王女の件をお頼み申す。マーヤ、アグリコラにこれ
を届けて欲しいのです」
「薬の材料かしら? 分かったわ。それじゃ家の件はお願いね! それとベルド。ミリル
にも会いたいから後d場所、教えてね」
「あ、ああ。妻も喜ぶと思うよ。その……危ない真似だけはして欲しくないのだが」
「何言ってるのよ。男がおたおたしてるだけで、女ってのは頑丈なのよね。あんたも可愛い
甥っ子を見に行ってきたらどうなのかしら?」
「そうだった。そちらもちゃんと挨拶してから出掛けるよ」
 
 執務室から一人、また一人と離れて行く。
 ようやく来客も済み、胸をなでおろすルジリト。
 その胸はハルピュイア羽毛で覆われていた。

「戦の傷跡は大きい。だが考えようによっては作り替えるいい機会かもしれぬ。南西のカ
ッツェル、ロッドの町も含め、大陸最大の都市計画を推し進めねば。それに……泉の移し替
えが本当に可能かどうか……これはやはりシカリー殿を頼るしかない」
「あらぁ。シカリーちゃんはぁ、今いないわよぉ」
「ややっ!? これは驚き申した。ラルダ殿ではありませぬか」
「ふふふ。お久しぶりねぇ。随分と面白い姿になってるわぁ……撫で撫で」
「私は子供ではないのですが……それよりシカリー殿はどちらに?」
「約束を果たすためにぃ、地底への道を用意してるのぉ。シフティス大陸にいるわぁ」
「左様でしたか……」
「でもぉ。泉を移す話なら、私でも出来るかもぉ?」
「なんと!? ではこの話は後ほど詳しく……茶菓子など用意させますので」
「あらぁ。嬉しい。妹も来れるかしらぁ?」
「アメーダ殿は現在治療中です。さすがに難しいかと」
「そう。残念ねえ。私まだまだ知り合いが少ないのよぉ。エンシュちゃんもギオマちゃんも構ってくれないしぃ」
「ラルダ殿は美しいですからな。直ぐに人気者となりましょう。さて、私はそろそろ失礼いたす。まだまだやらねばならないことが山積みでしてな……」
「うふふ。私も書記だからぁ。お手伝いするね」

 ――その頃、メルザは幻魔の領域へカルネを迎えに行っていた。
 結局最後までルインは自分を頼らなかった。
 そのことにふてくされているメルザ。
 自分は役立たずじゃないと証明してみせたのに。
 そしてその隣にいるルインは、メルザが口を聞いてくれないので困り果てていた。

「そろそろ口聞いてくれませんかー、メルザ様、いえ、メルザお嬢様……頼む、カルネ。
メルザをどうにかしてくれ。お父さんお手上げだよ……」
「メルちゃ、めっ。ツイン、お鼻」
「ふーんだ。カルネは渡さねーからな」
「あのな……メルザが助けてくれたのは嬉しいんだが、本当にメイショウが呼んでたん
だって」
「俺様よりそのメイショウって奴のほーが大事なんだろ? ふーんだ」
「メイショウは男だぞ……それに大事というより一大事だったわけだが」
「おいルイン。んなくだらねえ話より早く戻れ。まだやることあんだろうが」
「くだらなくねーぞベロベロ! 俺様は怒ってるんだからな!」
「俺をベロベロと呼ぶんじゃねえ……」
「これから戻ってキゾナの様子を確認したら地底へ向かう準備をしないといけないんだ。
後、メイズオルガ卿とランスロットさんにもお礼を言わないと……俺、そろそろ分身とか
出来るようになれないかな……」
「幾ら優秀な部下を多く抱えても、所詮おめえが動かねえとならねえことが多いってのは
……いささか俺も経験がある。少しくれえは手伝ってやってもいいがよ。それより女王よ。
おめえのあのときの力。一体何だったのか分かるか?」
「カルネの力だろ? 俺様、カルネ抱っこしたらまた小さくなっちまったし、手もまた戻って来てよ。
ほんで力もまた使えねーんだ」
「俺、そのメルザ見てないんだよな……」
「へへっ。ルインが見たらきっと俺様をもっと好きになっちま……あーーっ、何でもねー
よばーかばーか!」
「ふう。やっと口を聞いてくれた。この領域、初めて見たときは異様な場所だと思ったけど……」

 幻魔界、ここは遥か昔の日本国のような雰囲気が少し感じ取れる。
 勿論遥か昔の日本に居たわけじゃないから、想像でしかないのだが。
 何か懐かしさを覚えるような……そんな感覚がある。

「さ、そろそろ戻ろう。俺たちの国の立て直しだ」
「ちぇっ。まだ許したわけじゃねーからな。ほら、カルネが鼻引っ張りたいってよ。思い
切りやるんだぞ、カルネ」
「最近みょーーに強く引っ張られると思ったが、そう教えたのはメルザかよ……」
「ツイン、お鼻、お鼻ー」
「はいはい。今回はお前のお鼻のお陰で助けられたよ。見てろ、バネジャンプ!」

 思い切り空高く飛び発つ。既にメイショウの力は失われており、飛び続けることは出来ない。

「高い! ツイン! もっとー!」
「無茶言うな……これでもにんげ……ただの魔族なんだぞ」
「ツイン、八点」
「カルネ、お前ブレディーの頃から本当毒舌だよな……」
「カルネ、明日、お出かけ」
「うん? お出かけって何処行くんだ?」
「ツイン、連れてく。お城」
「あ、ああ……お前もお礼しにアースガルズに行きたいのか」
「一緒! メルちゃ、一緒」
「参ったな。ジェネストに切り刻まれそうだが……まぁ相談してみるよ。ほいっと!」

 軽やかに着地すると、メルザが羨ましそうに見ていたので、今度はメルザを抱えてジャ
ンプする。
 少し驚いた表情をするメルザだが、口角を吊り上げて反撃をされた。

「俺様、自力でもっと高く空飛んだんだぜー?」
「その話聞いたけど本当か? 一体どうやったんだ?」
「んー、こう、びゃーーってやってる感じだ。今なら出来そーな気がする! とぉ!」
「わ、バカ! おま」

 メルザは飛び上がった俺から勢いよくジャンプした。
 当然垂直落下は免れない。

「わぁーー! ルイン助けて!」
「空中で流星使えるわけないだろ! ベリアル!」
「ったく何やってやがんだ! 下にガキがいんだから気を付けろ!」

 ベリアルは鳥の姿からトウマの姿へと変わり、女王を受け止めた。
 それを見て一番喜ぶのはカルネだった。

「メルちゃ、ずるい。びょーんした」
「やっぱ飛べねーのかぁ。俺様の力、早く戻らねーかなぁ」
「……全く何考えてるんだ。この高さから落ちたら骨折するだろ?」
「そしたらルインが家で、面倒見てくれるんだろー……」
「おいおい。これから里帰りするってのに、骨折してたらそうもいかなくなるだろう」

 やれやれという感じでベリアルは鳥の姿へと戻り、俺の肩に止まって頭を突き出した。
 分かった、戻るって……遠目に腕組みをしてこちらを見ていたクリムゾンは、この光景
をみて、とても嬉しそうに微笑んでいた。

「平穏止むことなく、安寧を求むるは、さもこの景色を見たいと欲するが結えん……
クリムゾン・ダーシュより、殿方殿へ」
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