異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 振り絞る戦い

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 ……何も見えない。
 でも、手に取る様に分かる。
 自分でも恐ろしい程敏感だ。
 だが不思議と痛みの感覚は弱い。
 これは……なぜだろう。
 この小さな手に守られている、安心感だろうか。
 本当に小さくて……優しい手だ。

 その思いに水を差すような呼び声が、頭の中に兒玉する。
 これは……周囲からじゃない。
 まだ、やるべきことがある。地上へ飛び降りろ……か。
 無茶を……言ってくれるな。

「メルザ……どうやってここに」
「ルイン? 起きたのか?」
「ここは、既にバルフートの腹じゃ……無いな。俺を助けてくれたのはメルザだったんだ
な。これじゃ立場、逆だな……」
「俺様、カルネに言われて助けに来たんだ。その、待ってるように言われてたのにごめんよ」
「いいんだ。有難う。心配、掛けたな。ベリアル、頼みがある……俺を、戦場に落としてくれ」
「何言ってやがるんだてめえは。死ぬつもりか!?」
「違う、頼む。止血はいい。ベリアルはメルザを守ってくれ。傷はきっと、大丈夫だから」
「ばっ! ルイーーーーン!」

 ごめんよメルザ。せっかく助けてくれたのに。
 俺を呼んでるのは……メイショウだ。
 どうやってやってるのかは分からない。
 だが、とにかく急げと俺を呼んでいる。

「来ました! 瞑想樹林八手の流活!」

 高い空からメルザを振り払い、転げ落ちるようにして地上へと下りたその体が、柔らか
いクッションにでも包まれるような感覚に陥る。
 ずっと俺を追っていたのか? こいつはまだ分からないことが多い。
 それにしても、何に包まれているのか分からないが、体が熱い。
 みるみる傷が塞がっていくのが分かる。

「すみません。私は、あなたに助けられたようです。そして、この大陸も今、あなたに救
われようとしている。バルフートの進撃でこの大陸は両断されるはずだったのに」
「……メイショウ。いいところだったのになぜ呼び出した? 戦いは、こちらの勝ちで終
わる。そうだろう?」
「いいえ。これだけでは終わらないのです。後一手、不足しています」
「なぜそんなことが分かる? お前には、未来が見えるとでもいうのか?」
「私は……私が何故覚者と呼ばれるか、ご存知ですか?」
「確か、勇者だと聞いた」
「私は、未来から過去へ転生してきたものです……とはいえ信じてはもらえないのですが」
「未来から……転生? つまりこの出来事は実際に起こった話なのか」
「もう随分と違う形へと変わっています。ですがこの大陸は今日、バルフートと、あるも
のにより消滅するはずだった。私があなたたちに危害を加えるか考えたのは、この日を見
届けるためなのです。そして、確信しました。あなたはただ、守りたいだけの魔族だった
と。騙されていたのは愚かな私だ。そして私を騙したものも恐らく……未来からの転生者
なんです! 私があなたという存在に辿り着いてから、ずっと懸念を抱いていた。ですが
あなたは……大切な家族を守りたいだけの、心優しい人だった! 私は、何ということを……」

 首謀者はこいつじゃないのは分かっていた。
 ルッツの攻撃を防いだのもこいつだと聞いた。
 俺は、恨んでなどいない。メルザもカルネも無事で、俺もまだ生きている。
 まだ分からないことが多い。一体これから何が起こるっていうんだ。
 この戦場、まだ激しい戦いが続いている。
 傷が癒えたなら加勢しに向かいたいんだが。

「落ち着け。自責の念に駆られる前に、何が起こるのか、俺に何が出来るのかを説明してくれ」

 明らかに焦燥感に駆られているメイショウ。
 そしてこいつは……勇者と呼ばれるだけはある。責任感の塊のような奴だ。
 傷をこんなに短時間で癒してもらえたのは有難い。
 いっそシュイオン先生と医者でもやってくれないかな。
 ことが済んだら打診してみよう。
 ……その余裕が果たしてあるかは分からないが。

 ――冷静になったメイショウから話を聞くと、驚くべき内容だった。
 歴史が変わった未来から来た者に遭遇したというのだ。
 そいつの話により、俺が絶対神の庇護下にあることまで知っていたらしい。
 そして、メイショウの及ぼした影響により、俺とメルザがやがて世界を破滅に導く存在
となることを告げた。
 放置すればゲンドールは塵となるだろう……とのことだった。
 未来からの転生者が、自らの行いで世界崩壊へ導いたかもしれない……という隙を突かれ
たのか。
 そもそもそいつだって今の未来がどうなっているかなど、分かるはずもないだろうに。
 それを鵜呑みにはせず大会に参加し、様子を確認し……そして協力者であるルッツに裏
を取られた。
 ルッツは拾われた魂であり、その者が産み出したホムンクルスにより衝動的に動いてい
る。
 そして闘技大会での事態、なるほど……合点がいった。

「襲って来るのはその……えーと何て呼べばいいんだ? 預言者?」
「そうですね、預言者と呼ぶ方がしっくりきます。ですが、預言者が襲って来るわけでは
ありません。そちらはもし、この難局を乗り越えたら……いえ、私が解決せねばならぬ問題
です。今はそれよりも……覚者としての力を一時的にあなたへ授けます。きっと、あなたな
ら勝てると信じています」
「だから、何が来るって……」
「バルフートの兄弟。天空より舞い降りる銀色の生物、バルシドニアが」
「バル……シドニア?」
「時間がありません。樹林二十四手の流活、我が生命の源よ、光鎧と化し彼の者に流れ
よ!」

 メイショウの両手が俺の肩に乗せられる。
 その手から暖かい光が俺の身体に流れていく。

「何だ、これは……生命力そのものを流してるのか? お前、そんなに流せば死んじまうぞ!」
「未来で編み出された最大級の禁忌術です。一時的とはいえ、絶対神の力を流用するわけですか
ら、当然その報いは私に返ってきます」
「お前……」
「もっと早く、あなたと出会いたかった。もっと早くあなたを信じたかった。もっと早く……愚
かな自分に気付きたかった。ルインさん、ご武運を」
「武運を願うなら、お前が死ぬようなことを、俺は許さないからな!」

 全身にみなぎるこの力はなんだ。
 体全身が……メイショウが戦闘していたときのように光り出す。
 見えなかった目も……再び見えるようになっていた。
 
「あなたはやっぱり、優しいですね」
「どうかな。それが本当かどうかも、色々終わってからあんた自身で確かめな」

 のろしが一つも無いが、この状態なら……上空に手をかざし、思い切り伝書の力を撃ってみた。
 
「ラモト、ギルアテ! ……やべ! 制御しきれない!」

 その行動は浅はかだったと撃った直後に分かった。
 青白い爆炎が空いっぱいに広がる。
 それが流れる青白い流星になり大地に降り注いだ。
 これほどの力が発動出来るのか……絶対神の力とかいってたな。
 あいつらが道理で雲の上の存在なわけだよ。
 だが、今の青白い爆炎がどこから上がっていたか、これで分かるだろう。

 俺に力を託したメイショウは、その場で倒れ込んだまま動けない。
 ここに放置しておくわけにはいかないし、きっと誰か来てくれるはずだ。

「約束は守る。だからお前も約束は守れよ、メイショウ。さぁ、どこからでも現れてき
な、バルシドニア!」

 俺がラモトをぶっ放した空。
 そこから確かに強大な気配を感じ始めていた。

「これ、もしかして空まで飛べるのかよ……」

 一時的に借り受けたメイショウの力。
 それは俺自身に神に等しい力をもたらしていたのだった。

 上空に飛翔し……戦場を見渡す。
 俺たちルーン国側勢には出来得る限り紅色を身につけるよう指示してある。
 その影響あって上空からでも理解出来た。

「すっげえ……」

 その光景は壮絶なものだった。
 多くの魂がジャンカの町に飛んでいく。
 そこにはまるで魂の受け皿とでもいうべき黒紫の球体が出来上がっていた。
 あれはタナトス、タルタロスの仕業だろう。
 そして、ルーン側の軍勢が圧倒していた。
 俺に気付いたのか、一人の将兵が持っている射撃武器を空中に打ち鳴らす。
 ビー。決着、ついたんだな。
 見届けてやれず、すまない。
 こちらも軽く合図をして、一直線に魂吸竜ギオマの下へと向かった。
 
「ギオマ、頼みがある」
「うぬゥ? お主は、誰だァ?」
「ルインだよ。見りゃ分かるだろ?」
「ルイン? 魔族の感じがせぬがァ……何があったァ!」
「それよりも、出番だぜ。バルシドニア……って言えば分かるか?」
「うぬゥ!? バルシドニアだとォ? 奴が来るというのかァ!」
「お前の力を借りたい。いや、お前だけじゃないな」
「おいてめえルイン! 俺を運びやみてえな扱いしやがって! 女王は帰還させた。
ついでにクリムゾンも途中で拾って戻しといたからな。おめえ一体何してやがった?」
「力を借りて来た。いや、これからまた借りないといけない。二人とも封印に。そーいや
ギオマはちっとも封印に戻って無かったな」
「良く分からねえが、何か来やがるのか」
「さぁて。俺もどんな奴が来るのか想像もつかないが、上を見てみろ」
「上だぁ? 雲しかねえじゃねえか」
「銀色の雲があるだろうがァ。良く見よォ! それでも竜かァ!」
「ああ!? おいギオマ。今ならおめえとだって渡り合えるんだぜぇ?」
「……あのな。ここで揉めてどうするんだよ。今の力なら俺も空は飛べる。状況を見て封印から
出して戦う。さぁ封印に戻れ、お前ら!」

 空に浮かぶ銀色の雲。あの正体こそが……バルシドニアなのだろうか。
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