異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

戦パート 混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 竜焦女帝ベルベディシア

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「この光景、何故か不思議な気持ちになりますわ……」
 ジャンカの町西部、元三夜の町の南部あたりに位置するこの場所で、遠い日のゲンドー
ルを雷帝ベルベディシアは思い返していた。

 一人の可憐な少女は、妹と弟を連れ、荒れ果てた土地を逃げ回っていた。

「はぁ……はぁ……。も、もう駄目ですわ……これ以上逃げてもあの神兵からは逃げられ
ませんわ……」
「お姉様。怖いよ、もう走れないよ」
「僕が守るから、お姉ちゃんとビローネは先に行って!」
「いけませんわ。わたくしが自ら望んで奴隷になれば、あなたたちまで手出しはしないはず。
雷割絶撃! さぁ、お行きなさい!」

 ビローネ、ベロアの間に激しい雷が落ち、二人の間に大きな地面の亀裂が走る。
 持てる力を使い果たし、迫る神兵の前に両手を広げて立ちはだかるベルベディシア。

「もうこれ以上先には行かせないのだわ。わたくしをさらうおつもりなら従います。ですがこれ
以上一歩でも先に進めば、わたくしは容赦しませんわ!」
「小娘が。全員捕えろとの仰せだ。貴様一人連れ帰ったところで主が満足するわけがない。問
答無用で押し通るぞ! その娘は捕縛して連れ帰れ! もう動けんはずだ!」
『おおーー!』

 ……大丈夫、きっと逃げきれますわ。後一撃、後一撃この力を使えば……意識が無くなる。
 わたくしは奴隷となり酷い辱めを受けるに違いないのだわ。
 でも、あの子たちを逃がさないと私たちベルベット家に未来は無い。
 |血詠魔古里として、意地でも逃がしてみせますわ! 

【キュイオーーン!】
「おい、何か言ったか?」
「いえ、何も……」
【キュイオーン!】

 ベルベディシアの落雷により亀裂した地面から、突如姿を現した竜。
 その長い体は巨大蛇の如くしなやかで、あっという間に神兵たちを巻上げていく。

「な、なに……これ」
「ま、まさか! リンドヴルムだ! こんなところで……う、うわあーーーーー!」
「地中に引きずり込まれる! 退避、退避だー!」
「無理です! 何という長い巨体だ。既に囲まれている!」
「キュイオーーーーン!」

 リンドヴルム? 何て美しい竜なのかしら。
 今まで追われた竜とはまるで違う、愛らしいお顔。
 わたくしが最後にこんな竜を見れて幸せでしたわ。
 どうかビローネとベロアを守って。わたくしはもう駄目。
 この最後の落雷で、願いを叶えて頂戴。

「ら……え?」
「キュイオーーーン!」

 頭からばくっと食べられたベルベディシア。
 更にリンドヴルムはビローネとベロアを食べ、地中深くへと戻っていった。


 ――そんな光景が頭に過っていたベルベディシアは、眼前の光景を見てため息をつく。

「あの頃のわたくしたちがどれほどこの光景に恐怖を覚えたか。あなた方には到底分かり
ませんわよね。リンが神兵を倒してくれて、どれほど嬉しかったことか。別にあなた方神
兵が悪者だとは思わないですわ。あの時代、仕方が無かったことですもの。でもね……大
好きなリンが暮らす場所を荒らす行為は、断じて許せないのだわ! 雷帝の名の下に、あ
なたたちを消し炭にする位、訳ない話なのですわ! 雷轟十指の紫電線!」

 両手をかざす雷帝ベルベディシアより、紫色の電撃が十層迸る。
 それは正面にいる神兵、モンスターを貫くばかりではない。
 上空にいる飛竜種をバタバタと貫き、その名を轟かす異名通り、竜を黒焦げの消し炭に
してしまった。

 雷帝ベルベディシア。その通り名以外に幾つかの二つ名を持つ。
 その一つを【竜焦女帝】といい、魔王の間でも恐れられていた。

 進軍していた神兵は次々に逃げ出し、モンスターのみが奇声を挙げながら進軍する。
 更にため息をつく雷帝は容赦なくその場を消し炭にしていった。

 そして「……竜焦女帝、ベルベディシア殿とお見受けする。手合わせ願おう」
「あら。雷撃を受けてまだ生きてる相手がいたんですわね。いいですわよ。その怪我で何
秒持つか分かりませんけれど」
「我が名はターレキフ! 天下無槍にして、俊足無閃の……」
「……雷轟、三指の紫電衛」

 たったの三本。左手の細く美しい母指、示指、中指の先から三又の紫槍のような形をした
ものがターレキフの心臓を一刺ししていた。
 何が起こったかも分からず首を傾げるターレキフ。

「馬鹿な……笹の才蔵が破れるわけが!」

 彼は何一つ油断などしていない。
 彼女も何一つ躊躇などしていない。
 避けられないはずは無い。だが、避けられる道理も無い。
 この空間は既に、雷帝ベルベディシアの支配するエリア。
 あらゆる雷撃が必ず当たってしまう。
 それこそが、|血詠魔古里種最強最悪の能力なのだから。

「わたくし、絶魔王の中でなぜ異色と恐れられるかご存知無かったのかしら? わたくし
はね。これだと決めた標的に対して、必ずわたくしの雷撃を当てることが出来るのよ。出
来るのね。出来るに違いないのだわ! あなたの敗北は当然であり必然。わたくしの前に
平伏すがいいのだわ! オーッホッホッホッホ!」
「物凄ーく高笑いが聴こえたけど、あんた何かしたの?」
「あらごきげんようライラロさん。すばしっこい虫を退治したに過ぎませんわ」
「通信手段に雷撃を使うなんて凄い発想たけど、ちょっとびりびりするのよ、これ」
「あら。あなたは雷撃が苦手なのかしら?」
「言わなかったかしら? 私が得意なのは水術よ。あなたと相性悪いのよね」
「あらそうでしたの。みずみずしい女には見えなかったからてっきり雷術使いかと思いま
したわ」
「ちょっと何言ってるのかしら? 私はこれでも新妻で若妻。稲妻みたいなものだから雷
術使いのあんたと組まされたんでしょ!」
「そちらも何を言っているのかさっぱり分かりませんわ……でもあなたとの共闘は少し楽
しそうですわね」
「我が君! ライラロ殿はこのベロアめの手に負えませぬ! どうか交代を!」
「仕方ありませんわね。こちらの部隊はあらかた消し炭にしましたわ。わたくしがそちら
へ参ります」
「申し訳ございま……ライラロ殿! 着ぐるみを着せるのはおやめください! ウェアウ
ルフの恰好はこの戦場において危険なのです!」
「いいじゃないのよちょっとくらいーー! どうしてダーリンと似たような奴らが襲って
くるのよ! 本当あり得ないんだから!」
「……少し違う意味で騒がしい戦場となっているようですわね……」

 ベルベディシアが術を行使し終わった後の上空に、ベリアルが滑空する。
 術兵破壊部隊の状況を把握したルインは予定通りに合図を送ると地中から【キュイオー
ーン!】と高らかな声が鳴り響き出した。

「前哨戦は問題ねえな。だがまだまだ圧倒的な不利に変わりはねえ」
「南からの進軍数が町側と比較にならないな。しかも……あれはゴーレムか? 嫌な思い出が
する形態の奴が三……いや五十体はいる。本気でこの大陸を焦土と化すつもりか」
「おあつらえ向きの人形じゃねえか。あいつにゃエゴイストテュポーンも効かねえ。おまけに
あれだけでも厄介だってのに、見ろよあれ」

 ベリアルが顎で示す方向……僅かにしか確認出来ないが、リッチー系のモンスター軍。
 それを率いてる奴がいる。
 しかも本陣がこっちじゃないってのが更に厄介だ。

「中央は持ちこたえられると思うか?」
「平気だろ。メイズオルガ、ランスロット。どっちも軍勢をルーン経由で引き入れるんだ
ろ?」
「ああ。ルーン国自体は場所を大きく変更する予定なんだ。それこそ目覚めたアルカーン
さん次第なんだけど。これはまだ、お前にも秘密だよ」
「けっ。俺ぁ団子が食えりゃそれで構わねえよ。でっけえ団子御殿を立ててみな。そうだ
な……おめえの記憶にあった、ズンダって奴がいい。さてそんじゃ、ゴーレム共に奇襲と
行くぜぇ!」
「まだ分かってないな。ズンダが上手いのはただの餅にだぜ、ベリアル。最高の和喫茶を
作ってやるよ! ラモト・ギルアテ!」
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