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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

戦パート 始動、混沌のロキ勢力VS両星のルイン勢力 宣戦布告

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 幻魔界から再びジャンカの町へ戻った俺とメルザ、リュシアン。
 泉前のこの場所にはルジリトが待機していた。

「お戻りになられましたか。ジャンカの町はひとまず沈静しました」
「ルッツやメイショウはどうした?」
「それが、転移術を持つやつめに連れ去られ、取り逃がしました……」
「いや、町中で暴れ続けているのでなければ、ひとまずは構わないさ。だが、危険な
奴に違いはない」
「その点について、ミズガルド、ビーよりお話があるようです」
「後ほど聞こう。今はそれよりも……ロキについてだ。奴はいたか?」
「いえ、代わりにリトラベイと名乗る者にお伝えしておきました」

 リトラベイ……ロキの手先か。
 転移を使える者が複数いるなら厄介だな。
 アルカーンさんが倒れている以上、町の機能は停止しているに等しい。
 防衛策の要が命を懸けてカルネを守ってくれた。
 そのお陰で町が危険に……。

「アルカーンさんの容体は? 後、タルタロス、タナトスもだ」
「アルカーンは重症で意識不明です。両名は、主殿を待つと、別の場所に待機しており
ます」
「町の者の避難はもう済んでいるか?」
「抜かりなく。戦う意思の無い者も町から退避させるか、ルーン国へ移動させておりま
す」
「十分だ。戦う意思のある者を闘技場へ集めてもらえるか」
「……入りきりませぬ」
「何だって? そんなにいるのか」
「ジャンカやルーン国の者だけではありませぬ。更に軍勢は増える可能性があります。メ
イズオルガ卿とバーニィ卿お二人より支援の要請を受けております」
「相手の軍勢確認は取れたか?」
「……現在この地に何時の間にか起きた地殻変動により防がれておりますが……海から
地上へと向かう魔獣・神兵軍勢がおおよそ三万、空中からこちらへ向かう軍勢おおよそ八
千を確認しております。また、転移による攻撃も想定されますが、そちらは重厚な結界に
より、内部進入を防ぐ手立てを講じました」
「直ぐに部隊編成をしよう。闘技場へ向かうぞ!」

 俺はメルザを抱えたまま闘技場へと向かった。
 もうこいつを離すわけにはいかない。
 少し恥ずかしそうにしているが、気にしている場合じゃない。

 闘技場へ入ると、直ぐに一羽の鳥、ベリアルが肩に乗って来るのを不思議そうに見るメ
ルザ。
 まだベリアルのことを詳しく知らない者も多いんだったな。
 だが今はそれどころではない。

 反響用の道具を用い、その場にいる大勢の者へ言葉を発する。
 この役目はメルザじゃない。俺の役目だ。

「聞いて欲しい。今から多くの敵軍勢が攻めて来る。相手は混沌の神ロキ率いる
魔獣の軍勢と……奴の神兵。うち一人と対峙したが、恐ろしく強い相手だ。他に
も敵将と言える屈強な奴らがいるだろう。奴の狙いはこの大陸そのもの、そして
ここにいるメルザ、そして俺自身だ。俺は奴に屈するつもりも、この大陸を明け
渡すつもりもない。命を懸けて戦う。そう決めた。だが皆まで巻き込みたくはない
とも思っている。俺と共に戦う者だけ残ってくれて構わない。だがもし共に戦って
くれるなら、この町を更なる良い町とし、皆が笑って暮らせるような、そんな場所
にしたいと思っている。俺と共に、ついて来る者はいるか!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 ……大歓声だ。聞くだけ野暮だふざけんなって声まで聞こえてくる。
 これまで多くの旅をしてきた。
 多くの者と知り合い、苦楽を共にし、生きて来た。
 こいつらを誰一人として死なせたくはない。
 だからこそ、生き抜くために最大の采配を取る必要がある。

「皆、有難う。相手の軍勢は多い。だがこちらは精鋭揃いだ。各々の能力を活かせるよ
う、こちらにいるルーン国の頭脳、ルジリトに遺憾なく能力を発揮してもらおう」
「ルジリトと申す。僭越ながら主に変わり部隊編成を行う。部隊は歩兵、騎兵、術兵、空
兵の主に四種類となる。そこから更に誘導兵、工作兵、破壊兵、奇襲兵と切り分ける。指
揮官はこちらで任命いたす。戦場となる位置は恐らく三か所か四か所程と思われる。直ぐ
に編成へと移る!」
「クリムゾン、ベリアル。メルザを少しだけ頼めるか……どうやら来客のようだ」
「お、俺様は一人でもへーきだ! でも、何処にいくんだ? あんなにしがみついてたって
のによ」
「……そういうことか。おいおい、さすがに幻影だろうよ」
「いいや、あれは本体だろう。だが恐らくここで争うつもりはない」

 俺の瞳に映っていたもの。それは紛れもない、ミレーユの姿をしたロキ。
 ミレーユはまだこちらへ戻って来ていないし、それに今はハルピュイアの姿だ。
 こんな場所、しかも上空に浮かんでいるはずはない。
 ……「ギオマ。少し頼めるか」
「ふぬゥ? 良いだろう。我に乗れェ!」

 近くにいたギオマに大きさを調整してもらい、上空に映るロキの前に赴いた。
 相変わらず、ずっとこちらを見て笑っている。

「うふふふふ……気付いてくれたんだね。嬉しいよ」
「決着をつけにきたのか?」
「決着? 少し遊んだだけじゃない。そんなに怒らないでよ」
「感情を逆なでしようとしても無駄だ」
「あんなに怒ってたのに? うふふふ、本当に君はからかうと楽しい。でも役者を
連れて来てくれたね。彼らも戦いに参加させるんだろう?」
「タナトスとタルタロスのことを言ってるのか。ああ、参加するだろうな。一つだけ聞か
せろ。軍を引く気は無いのか?」
「それはこっちも尋ねたいな。動き出すのが随分早かったけど、何時から気付いてたの?」
「闘技大会が始まる一か月前からだ。各地を転々として情報を集めていた。タイミングは
お前の狙い通り、最悪だった。正直やられたよ。俺がタナトスに連れられるところまで想
定済みだったってわけか」
「ふうん。つまらないなぁ。もっと驚かせようと思ってたのに。軍を引く気はないか? 
だったね。別に引いてもいいよ? 君が私の配下になって、あちこちの大陸で殺しまくる
んだ。五億人位はね。それとね、君の女王は神への献上品がいいな。後はね……」
「ラモト、ギルアテ!」

 正面に青白い巨大爆発を吹き起こす。反吐が出る、それ以上喋るな……。

「うふふふふ……せっかく優しい条件を教えてあげたのにさ」
「お前は誰一人救うつもりもない。各地で争いの火種を起こして遊んでるだけだ」
「そうだよ。だってそれが楽しいんじゃない。人間も魔族も殺し合えばいい。それが神と
しての役目だろう?」
「違うな。お前はゲンドールを破壊したいだけだ。そしてそれを命令させてるのはお前
じゃない。背後にいるのは神兵ギルティだろう」
「……タナトスから聞いたのかい? 余程信頼されてるんだねえ。でも勘違いしてる
かな。ギルティだけじゃないよ、動いているのは。ゲンドールの闇は深い。まずは私
の軍団を退けてみなよ。話はそれからさ……宣戦布告、確かに受け取ったよ」

 ――打ち込んだギルアテの煙が消えた先に、奴はもういなかった。
 あんなもので倒せないのは分かってる。
 神に挑む魔と人。既にこれが魔大戦の再来なのかもしれない。
 
「ルインよォ。あの神は一体何を考えているゥ? あれを滅するには骨が折れるぞォ」
「分かってるよギオマ。お前の力だけでどれくらい相手を抑えられそうだ?」
「分からぬがァ。恐らく対策はされていよう。だが……我々には貴様がいるからなァ。
さァ、戦の支度に戻るぞォ!」

 
 再びメルザの場まで戻ると、ルジリトより報告を受ける。
 部隊編成、もう終わったのか。半端じゃない早さだ。
 あらかためぼしをつけていたのだろう。
 
「こちらの軍勢振り分けですが歩兵、騎兵、術兵、空兵の主に四種類を振り分けました。
術兵が少々不足しておりますが」
「騎兵はナチュカとアースガルズにあったあの妙な乗り物の部隊か」
「はい。まず北の部隊配置に空兵、歩兵を多く配置します。西より迫る軍勢を
三手に分かれるよう誘導するのが騎兵部隊の役目。術兵は後方待機させます」
「空兵の主はルクス傭兵団、歩兵は幻妖団メルからだな」
「相手の魔獣は大型から小型までおり、小分けに編成などはされておりませんでした。
それと……雷帝殿も出陣下さるそうです」
「ベルベディシアが? 先陣を切って戦うと?」
「はい。リンの住処を荒らすものを速やかに排除する……と」
「それなら俺は、奇襲部隊の空兵位置に配置してくれるか」
「ご冗談を。大将が先陣を切るおつもりですか!?」
「うちの大将はメルザだ。護衛にクリムゾン、白丕、沖虎、彰虎を」
「……御意。留めても主殿は突き進んでしまわれますからな。ただし! このルジリトも
同行いたしますぞ」
「分かった。参謀がいるのは心強い。指揮系統として腕を振るうのはメイズオルガ卿と
バーニィ卿以外誰かいるか?」
「ええ。そちらも抜かりなく……揃っております。こちらを」
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