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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百八十二話 現場中継のベリアル

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 ……厄介なモンを頼まれた。
 ドラゴントウマの体を得たまでは良かったが……しかしこいつぁ随分と骨の折れる依頼だぜ。
 まさかタイムリープの結界へ向かうことになるたぁ……経験が無ぇわけじゃねえが、嫌
な思い出しかねえな。

「そうそう、結界内に入ったら、彼のぬいぐるみで解除しない限り戻って来れないと思うよ」
「これだけ分厚い結界だ。一人で穿り返して戻るのは難儀だぜ。場所も分からなくならぁ。ど
の程度でループしてやがるか分かるか?」
「さぁ? でも君ならどうにか出来るでしょ。ね? タルタロス」
「あれはそうせざるを得なかったからだ。こちらを睨むな……」
「おめえまだカイロスのあれ、持ってるんじゃねえだろうな……」
「現カイロスの所有物ではないものを、持っていても仕方がなかろう。とうに消滅している」
「お前たち一体何の話をしてるんだ?」
「ルイン。言っておくがこいつは貸しだからな。行ってくらぁ!」

 全く。これならデカラビアじゃなくダンタリオンのくそ野郎になっておけばよかったぜ。
 にしても本当に分厚い結界を作りやがったな。この能力、既に管理者を超越してねえか? 
 末恐ろしいガキが生まれたもんだぜ。まぁ媒体には俺の遺伝能力もある。当然っちゃ当然か。
 しかし分からねぇもんだな。
 イネービュの奴はもっと非道な行動を取ると思ってたが……ルインの間に産まれた子供を隔離
するわけでもねえ。ただ見守るだけとはよ。

 あいつにも人間の情ってのが出来たのかね。
 まぁ神なんざ傲慢の塊みてえなもんだ。俺以上にな……。

 にしてもまだ六百層の頁あたりか。タルタロスとタナトス二人掛かりでこれなら、到底誰も突破
出来ねえな。

 ――ベリアルは深く考えていた。
 結界術とは単純に外敵から身を守ったりするだけの術ではない。
 空間を切り離し自在に操ったり、その空間に罠を仕掛け、空間内に立ち入ろうとしたりするもの
を攻撃したりするものも存在する。
 その規模や内容は結界を施した者の能力に大きく左右されるが、人であれば人の力量結界、魔族
であれば魔結界、神であれば神結界と名を変え、及ぼす効果も大きく変わる。
 
 カルネが発動させた結界は、それらのどれにも順次ない、人と魔と神の力を混合させた
人魔神結界ともいえる恐ろしい程強固な結界だった。

「これに閉じ込められたら俺でも完全にアウトだな。出る隙間が全くねぇ」

 ようやく辿り着いた結界内部でぼそりとベリアルが呟いた。
 まずは状況確認だ。
 
「おいルイン。聴こえやがるか?」
「ベリアル? ああ、本当に聴こえるもんなんだな。結界内に着いたか?」
「今着いたが、普通に試合やってんぞ」
「えっ? 試合中? 一体誰と誰の試合を? アメーダもプリマもいないのに」
「魂吸竜ギオマと雷帝ベルベディシアだ」
「……何でそうなるんだ」
「さぁな。だが随分激しい戦闘だ。こりゃ観客を盛り上げるための何かだろう」

 開始位置が悪ぃ。闘技場のリング周辺からか。
 何をやってやがるのかと思えば……随分楽しそうに戦ってるじゃねえか。

「グッハッハッハァー! やりおるな小娘ェ! 随分と成長したようだなァ!」
「あら。わたくしはまだまだ可憐な小娘のままですのよ。あなたのように老け込んで年をとったり
しないのよ。しないのね。しないに違いないのだわ!」

 ……こいつらは置いといてカルネを探さねえと。一体何処にいやがる。
 確か、暴走女とヘタレ兵士が……あいつらもいねえ。
 何で司会がこの場にいねえんだ。
 いや、待てよ。弾かれたから奴らの存在はループ外ってことか。
 しかし……こいつらに俺は認識出来てねえ。
 飛び回っては見てるが……見つからねえ。

「雷帝の閃光!」
「フヌゥ! そのような攻撃など、全て吸いつくしてくれるワァ!」

 待てよ。確かあいつは食い意地が張ってたな。
 食事処か……にしても大抵ループは数十秒なんだがな。
 随分と長い時間手回ししやがったもん……待てよ。
 カイロスの野郎はどこだ? あいつを探せば或いは……。
「今度はこちらからいくぞォ! 覚悟しろォ、小娘ェー!」
「だから小娘では無いと何度言えばいいのかしら? いい加減にするのだわ! 
真っ黒焼きドラゴンになるのよ! なるのね! なるに違いないのだわ!」
 
 ……こいつら、盛り上がってんな。

「おいベリアル。聴こえるか? 状況はどうだ!?」
「あまり良くねえ状況だ。女王が見つからねえ。何処で狙われたのかが分からねえんだ」
「メルザのことだから、食事処じゃないか?」
「それは俺も考えた。それよりカイロスを探す方が早いかもしれねぇと思ってな」
「アルカーンさんをか? あの人なら多分闘技場の外の武器屋じゃないかな」
「するってえと女王も外の可能性があるってことじゃねえか?」
「可笑しいな。さすがに外をふらつく程メルザは浅はかじゃないと思う」
「……すると手引きしたヤツがいるかもしれねえってことか」
「おいおい。そんな奴はいないだろ。監視にジェネストやクリムゾンがいるんだぞ」
「だが母親が見つかったって聞けば飛び出していくんじゃねえのか」
「一人で向かったりはしない。必ず護衛がついていたはずだ。その護衛を巻くとなると
何か手立てがないと難しいだろう」
「……ちょうど時間みてえだ。ループしたら全力で外に向かってみるか」
「ああ。アルカーンさんはきっと武器屋だ。忘れるなよ」
 
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