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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百八十一話 地殻変動

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 カルネの知らせを聞いたその直後のことだった。
 突然グラグラと地面が揺れ出し始める。
 決して俺が地に拳を着けて力を込めていたせいではない。

「何だ? 何が起こってる?」
「地面が、隆起している。地殻変動か」
「規模が大きすぎない?」
「……嘘だろ?」

 突然の激しすぎる揺れの後、まるでエレベーターに乗って上階へ向かうかのような
何ともいえない感覚を味わう。
 地殻変動? そんなレベルじゃない。大陸がまるごとぶちあがって変形した? 
 

「大陸全土に防壁が張られたようだ。これは、絶対神の力だろう」
「そっか。流石に守ろうとしてるんだね。イネービュかな。でも意思は感じないね。事前
に準備していたのか」
「そうだろうな。ネウスーフォやウナスァーが動くとは思えん」
「どういうことだ?」
「さっきも言ったけど、狙われたのはアルカイオス幻魔でしょ。ゲンドールの地上そ
のものが無くなる可能性があるから、守ろうとしてるんだよ」
「地上が無くなると……どうなるんだ」
「全員もれなく地底落ち。留め金が無くなった宇宙は膨張を続け、やがては消滅する」
「は? そんなことしたら誰も生きていけないだろ?」
「……それを望んでいるのが、神かもしれんな」

 そんな恐ろしいことを考えているのか。
 自らの存在を消滅させたいのか? 
 確かに絶対死なない存在に意思があるのなら、そう考えるのかもしれない。
 寿命がある生命体には到底理解出来ない考えだが。

「この状況、一体どうすればいいんだよ、タナトス」
「まずはあの結界前へ行こう。結界が張られたまま中に入れる方法が分かるかもしれない」
「分かった。ライラロさん、頼みがある」
「嫌よ。私だけ置いて違うことさせようっていうんでしょ?」
「今、頼れるのはライラロさんしかいない。あの結界周囲の人はカッツェルの住民だった
な。そちらは俺が避難指示を出す。ライラロさんはベルドの安否確認と……ミレーユを助
けて欲しいんだ」
「どういうこと?」
「ミレーユはハルピュイアに襲われて、姿がハルピュイアになってしまったようなんだ。
応援にアメーダを向かわせたが、無理をさせて深手を負っている。頼むよ」
「仕方ないわね。いい? ちゃんとベルディスを助けてよね。後、一つ貸しだから」
「分かったよ。よろしく頼む」
「それとイビンに言伝よ。それはルインに任せるからって言っておいて」
「……よく分からないが、伝えておく」

 再び風斗車に乗り、爆発があったと思われる方面へ走っていくライラロさん。
 最後のはよく分からなかったが……ひとまずあの結界へ向かおう。


 ――結界前へ到着すると、直ぐに顔見知りのカッツェルの住民が話しかけてきた。
 協力してくれたことに感謝を伝え、避難するように告げた。
 一通り避難指示を終えると遠くからイビンがやって来る。

「ルイーーン! 良かった、無事だったんだね。大変だよ!}
「詳しい話はライラロさんから聞いたよ。イビン、やっぱりどうにもならなそうか?」
「うん。ごめんね。僕たちじゃどうにもならないんだ。町の外に居た人たちの救援は
住んでるよ。ミドーに頼んでカッツェルまで運んでもらったから」
「そうか……ミドーも役に立っているようで嬉しいよ。後ライラロさんから言伝だが、後
はルインに任せるって」
「ええっ? 勝手だなぁ。これなんだけど」
「ん? 何だこれ。生物か?」

 それは青色のぬいぐるみ? のようなものだった。
 カルネにこんなもの、買った覚えはないが……。

「これはね、僕たちがカルネちゃんに弾かれたときに持ってたんだ。それでライラロさん
が調べてた最中だったんだけど……」
「ぬいぐるみには詳しくないぞ、俺……でも何か手掛かりになるかもしれない。預かろう」
「うん。あのー……そっちの物凄く怖い人、誰なの?」
「タルタロスか。奈落の管理者で、いうなれば地獄の番人みたいなものだ」
「うひゃーー! 怖いよぉ! こっちを睨まないでー!」
「……何もしていないのだが」
「君、真顔が怖いんだよね……さて、早速始めようか……へぇ。確かにただの結界じゃない。
転生したとはいえやるもんだね」
「転生? ブレディーは転生してカルネになったのか?」
「……おい、タナトス。それは人に伝えていい話ではないぞ」
「彼にならいいでしょ。そもそもルインが親なんだよ」
「……スイレンよ。娘は全ての記憶を宿したブレアリア・ディーンではない。だが、一部の記
憶を所持している。あれはもう、ブレアリア・ディーンではないのだ」
「それは聞いたよ。だけどこんな力を持ってるってことは、その力を強く秘めてるってことな
んだろ?」
「賢者の石の力だけで、我々が破れぬ結界は創造出来ぬ。これは、カルネという魂が持つ
力。つまりスイレンのカイオスとしての力と、原初の幻魔の血を引く娘との間に出来た子
の力によるものだ」
「俺と、メルザの力に賢者の石の力の影響?」
「そうだ。この結界、恐らく絶対神にも破れぬ力だ。破れるのであれば、イネービュはと
うに出てきているのだろう。絶対神の能力すら封じる力……そのような力を持つとは」

 ……冗談だろう? 絶対神ってのは人知を超えた力じゃないのか。
 それならカルネの存在は、人知を超えたような力を持つってことなのか? 
 馬鹿らしい。カルネはまだ産まれたばかりだぞ……もう言葉を話すけど。

「参ったね。隙間、本当に無いよ」
「……分厚いな。九百、いや、千層はある」
「一人だけ通せる隙間、作れそうかい?」
「作れても鳥一匹が精々だろうな」
「ふうん。それじゃ、役割は決まったね」
「……ああ」

 タナトス、タルタロスはそれぞれ結界に向けて手をあて、入念に何かを調べるようだった。
 そして、俺の方を振り向く。いや、正確には俺の肩の上に乗っているベリアルに、だ。

「ベリアル。君、中に入って状況探って来てよ。ついでに解決してきて」
「……適任だろう。状況把握や保有する能力を持つ貴様なら」
「あん? 一体てめえら何の話をしてやがるんだ。俺もこれほど見事な結界は見たことね
えと感心してたんだが」
「ベリアルなら中に入れるってことか?」
「そうだよ。でも、そのぬいぐるみは何で渡したんだろう?」
「少し貸してみろ……そうか。これは結界解除用の鍵だ。これでなければ解除出来ん。結界
内は恐らく、単純に時間停止した世界ではない。繰り返し事変が起こり巻き戻される世界だ
ろう」
「それを俺が変えろってことか? どうやって」
「……分からん」
「ルイン。君がそのぬいぐるみを所持しておいて、ベリアルから合図を受けたら解除させれ
ばいいんじゃない?」
『どうやってやるんだ?』
「あのね……君たち魂の共鳴者でしょ? いい加減離れてても意思疎通くらい出来るでしょ!」
「おいルイン。今俺が心に思ったことは何だ」
「……タナトスぶっ飛ばす?」
「惜しいな。タナトスぶっ殺すだ」
「……こいつを使え」
 俺たちの惨状を見かねたタルタロスが何かを投げて寄越す。
 ……そもそもそう簡単に意思疎通出来たら苦労はしない。
 封印者だって聞こえたり全然聞こえなかったりするんだ。
 渡されたのは指輪二つ。
 いや、ベリアルは鳥だから指輪はめられないんだけど。

「これをはめろ」
「ベリアルにはどうやってもはまらないだろ?」
「私がつけてあげるよ! ……よし」
「てめぇ! 何しやがる!」

 ベリアルの首にさっと取り付けるタナトス。
 あーあ。これじゃ竜形態には戻れないぞ。

「それで意思疎通は可能だ」
「私とタルタロスは結界を開くので手一杯だから。頑張ってね」
「ちっ。仕方ねえ……状況はルイン。てめえを通して伝えろ。やばくなったら作戦を教えな。
おめえはとんでもねえことを良く思いつくからな」
「分かった。カルネを……みんなを頼む、ベリアル」
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