974 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会
第八百八十話 状況、苦なれど己だけではどうにも出来ず
しおりを挟む
風斗車に乗ってやってきたライラロさん。
その顔色は悪い。
理由は聞くまでもなくあのドーム状のものだろう。
中には確実にシーザー師匠がいるに違いない。
「ライラロさん、すまない。理由あってタイミング悪くいなかったんだ」
「あんた、足あるわよね? 無事よね?」
「無事だよ。ベルドがここに来なかったか?」
「来てないわ。もしかして……北の海で爆発があったの。それかしら?」
「北の海で爆発? ……俺が居た場所はもっとずっと先だ。もしかしてそれがベルドか?」
だとしたら何かに巻き込まれたか……無事でいてくれればいいのだが。
後でライラロさんに向かってもらうか。
「その人、闘技大会参加者よね? それにその鳥は何? それにあの……怖い人だれ?」
「聞きたい気持ちも分かるが、今はそれより状況を教えてくれ。一体何があったんだ?」
「そう、聞いて! 大変なの! ベルディスが、ベルディスが……うぅっ……」
「落ち着け。ライラロさん、状況報告出来るな?」
「……うん。あの片目の男がね。女王を狙ったの。それでね……」
「何だと? メルザを狙った? メルザはルーンの国にいたはずだぞ!」
「それが、あの子のお母さんを名乗る人が現れたって。女王に伝えろって言う話が出
て、それでね。言伝だけが伝えられたみたいなの。そしたらバカ弟子はカルネちゃんを連れて
外に……」
「メルザの……母親だと? 信じられない。そんな、まさか……」
ダメだ、混乱しきっているのは俺だ。
落ち着け。まだ、話を聴かないと。
「それで、きっと狙っていたあの男……ルッツがバカ弟子を撃ったの。でもカルネがそれ
を止めようとして……力が暴発したんだと思う。カルネちゃんはにっこり微笑んで、何か
を託すように私とイビンは弾き飛ばされた。イビンには急いでカッツェルの町に行かせて
応援を呼んだのよ」
「それじゃやっぱりあのドーム状のものはカルネが……」
「バカ弟子は無事よ。でもきっとカルネちゃんは……」
「カルネが無事じゃなかったら、メルザだって無事じゃない」
何てことだ……怒りで勝手に絶魔が発生してしまいそうだ。
そう感じていたところに、無口なタルタロスが口を挟んだ。
「……いや。話を聴く限り双方無事である可能性は高い。確かここにカイロスがいたな」
「ああ。だがジャンカの町には……いや、武器屋にいた可能性は高いか」
「時と闇の防壁。あの中は時間停止しているはずだよ。私たち管理者のうちの二人も揃っ
ていたのなら、異常行動発動に、素早く対応はしているはず。それにしても、アルカイオ
ス幻魔に手を出したんだね。そうなるとやっぱり目論見は……」
「魔対戦を再び発動させるつもりか。愚かな」
「それは、どういうことだ? 確かルッツだったか。一体何を考えている」
「彼は手駒のうちの一人でしょ。いや、本人の意思である可能性もあるけど。主犯は間違
いない。メイショウだよ」
「メイショウ? 覚者っていうあの?」
「彼は、君の言葉で分かり易く言うなら勇者だよ。そして神兵を率いている可能性は高い」
「勇者? 勇者ってのは魔王を倒して世界に平和をみたいな、あの存在のことか?」
「そう。だから分かり易く言ったんだって。とてつもなく強かったでしょ?」
「ああ。闘技大会にあんな化け物が参加するとは思わなかった程に」
「私は目を瞑ってたんだけどね。関係無いしさ。でもまさか、彼がそこまで手の込んだこ
とをするなんて」
……つまりルッツがメルザを殺そうとし、カルネがそれを庇い、力が暴走。
それに共鳴してアルカーンさんが更に時を止め、一時しのぎをしている?
状況を見たライラロさんとイビンがどうにかしてくれると信じて。
メルザを狙ったのはルッツ。ルッツはメイショウの配下。メイショウは勇者という存在
で、魔対戦を発動させようと目論んでいた?
一体誰の差し金でだ? ……ロキか、或いは常闇のカイナしか思い浮かばない。
もしくは……「神兵ギルティの復活は既に始まっているのかもしれんな」
「君もそう思うかい。私もそう思うね。そしてこの状況まで予想していたとするならさ」
「ああ。確実に何かが起こる。今、このときに」
「……なぁ。もしこの結界を解いたらどうなる」
「君の娘であり元、ブレアリア・ディーンが持つ賢者の石を秘める少女の命は失われる」
「助ける、方法はあるんだよな」
「落ち着いて。大丈夫、あるよ」
「ルーンの国は、どうなってると思う?」
「そちらも時間凍結されている可能性は……高い」
「俺が出来ることは何でもする。命を差し出せと言われればそうする。だから頼む、カルネ
を助ける方法、教えてくれ……」
気付いたら、膝をつきタナトスの前へ頭を下げていた。
何時の間にか父親になったんだな、俺……ようやく実感した。
この状況、どうすることも出来ない自分が歯がゆくて仕方が無い。
地に着いた拳にギリギリと力が入り続け、血がしたたり落ちる程に、無力な父親である
ことが悔しかった。
その顔色は悪い。
理由は聞くまでもなくあのドーム状のものだろう。
中には確実にシーザー師匠がいるに違いない。
「ライラロさん、すまない。理由あってタイミング悪くいなかったんだ」
「あんた、足あるわよね? 無事よね?」
「無事だよ。ベルドがここに来なかったか?」
「来てないわ。もしかして……北の海で爆発があったの。それかしら?」
「北の海で爆発? ……俺が居た場所はもっとずっと先だ。もしかしてそれがベルドか?」
だとしたら何かに巻き込まれたか……無事でいてくれればいいのだが。
後でライラロさんに向かってもらうか。
「その人、闘技大会参加者よね? それにその鳥は何? それにあの……怖い人だれ?」
「聞きたい気持ちも分かるが、今はそれより状況を教えてくれ。一体何があったんだ?」
「そう、聞いて! 大変なの! ベルディスが、ベルディスが……うぅっ……」
「落ち着け。ライラロさん、状況報告出来るな?」
「……うん。あの片目の男がね。女王を狙ったの。それでね……」
「何だと? メルザを狙った? メルザはルーンの国にいたはずだぞ!」
「それが、あの子のお母さんを名乗る人が現れたって。女王に伝えろって言う話が出
て、それでね。言伝だけが伝えられたみたいなの。そしたらバカ弟子はカルネちゃんを連れて
外に……」
「メルザの……母親だと? 信じられない。そんな、まさか……」
ダメだ、混乱しきっているのは俺だ。
落ち着け。まだ、話を聴かないと。
「それで、きっと狙っていたあの男……ルッツがバカ弟子を撃ったの。でもカルネがそれ
を止めようとして……力が暴発したんだと思う。カルネちゃんはにっこり微笑んで、何か
を託すように私とイビンは弾き飛ばされた。イビンには急いでカッツェルの町に行かせて
応援を呼んだのよ」
「それじゃやっぱりあのドーム状のものはカルネが……」
「バカ弟子は無事よ。でもきっとカルネちゃんは……」
「カルネが無事じゃなかったら、メルザだって無事じゃない」
何てことだ……怒りで勝手に絶魔が発生してしまいそうだ。
そう感じていたところに、無口なタルタロスが口を挟んだ。
「……いや。話を聴く限り双方無事である可能性は高い。確かここにカイロスがいたな」
「ああ。だがジャンカの町には……いや、武器屋にいた可能性は高いか」
「時と闇の防壁。あの中は時間停止しているはずだよ。私たち管理者のうちの二人も揃っ
ていたのなら、異常行動発動に、素早く対応はしているはず。それにしても、アルカイオ
ス幻魔に手を出したんだね。そうなるとやっぱり目論見は……」
「魔対戦を再び発動させるつもりか。愚かな」
「それは、どういうことだ? 確かルッツだったか。一体何を考えている」
「彼は手駒のうちの一人でしょ。いや、本人の意思である可能性もあるけど。主犯は間違
いない。メイショウだよ」
「メイショウ? 覚者っていうあの?」
「彼は、君の言葉で分かり易く言うなら勇者だよ。そして神兵を率いている可能性は高い」
「勇者? 勇者ってのは魔王を倒して世界に平和をみたいな、あの存在のことか?」
「そう。だから分かり易く言ったんだって。とてつもなく強かったでしょ?」
「ああ。闘技大会にあんな化け物が参加するとは思わなかった程に」
「私は目を瞑ってたんだけどね。関係無いしさ。でもまさか、彼がそこまで手の込んだこ
とをするなんて」
……つまりルッツがメルザを殺そうとし、カルネがそれを庇い、力が暴走。
それに共鳴してアルカーンさんが更に時を止め、一時しのぎをしている?
状況を見たライラロさんとイビンがどうにかしてくれると信じて。
メルザを狙ったのはルッツ。ルッツはメイショウの配下。メイショウは勇者という存在
で、魔対戦を発動させようと目論んでいた?
一体誰の差し金でだ? ……ロキか、或いは常闇のカイナしか思い浮かばない。
もしくは……「神兵ギルティの復活は既に始まっているのかもしれんな」
「君もそう思うかい。私もそう思うね。そしてこの状況まで予想していたとするならさ」
「ああ。確実に何かが起こる。今、このときに」
「……なぁ。もしこの結界を解いたらどうなる」
「君の娘であり元、ブレアリア・ディーンが持つ賢者の石を秘める少女の命は失われる」
「助ける、方法はあるんだよな」
「落ち着いて。大丈夫、あるよ」
「ルーンの国は、どうなってると思う?」
「そちらも時間凍結されている可能性は……高い」
「俺が出来ることは何でもする。命を差し出せと言われればそうする。だから頼む、カルネ
を助ける方法、教えてくれ……」
気付いたら、膝をつきタナトスの前へ頭を下げていた。
何時の間にか父親になったんだな、俺……ようやく実感した。
この状況、どうすることも出来ない自分が歯がゆくて仕方が無い。
地に着いた拳にギリギリと力が入り続け、血がしたたり落ちる程に、無力な父親である
ことが悔しかった。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
【3部完結】ダンジョンアポカリプス!~ルールが書き変った現代世界を僕のガチャスキルで最強パーティーギルド無双する~
すちて
ファンタジー
謎のダンジョン、真実クエスト、カウントダウン、これは、夢であるが、ただの夢ではない。――それは世界のルールが書き変わる、最初のダンジョン。
無自覚ド善人高校生、真瀬敬命が眠りにつくと、気がつけばそこはダンジョンだった。得たスキルは『ガチャ』!
クラスメイトの穏やか美少女、有坂琴音と何故か共にいた見知らぬ男性2人とパーティーを組み、悪意の見え隠れする不穏な謎のダンジョンをガチャスキルを使って善人パーティーで無双攻略をしていくが……
1部夢現《ムゲン》ダンジョン編、2部アポカリプスサウンド編、完結済。現代ダンジョンによるアポカリプスが本格的に始まるのは2部からになります。毎日12時頃更新中。楽しんで頂ければ幸いです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる