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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百六十九話 最悪の出迎え

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 ベリアルが示した方向には、複数名の奴らが立っていた。
 こいつらとは……面識がない。
 
「侵入者か。おや……?」

 全身黄褐色の鎧を身に纏い、如何にも強者という雰囲気だけがある。
 顔も何もみえないが、長い青龍偃月刀のようなものを引っ提げている。

「あれが、アルケーなのか?」
「……ルイン。構えろ。参ったぜ、こいつがおかしくなってんなら一大事なわけだ」
「もう見抜いたの? 驚いたね。神の目すら届かぬこの冥府や奈落において、どんな察知
の仕方してるんだい、ベリアルは」
「どういうことだ? 話がよく……」
「ふ、ふっふっふっふっふ。ハッハッハッハッハ! まさかまさか、貴様の方からこちら
へ来てくれるなんて全く思ってもみなかった。向かう手間が省けたなぁ? ルイン・ライ
ンバウト。いや、ベルアーリの方がいいか」
「お前と会ったことはないはずだが?」
「ちっ。ここじゃ元の体に戻れねえ。どうにかして奴を奈落の奥へおいやれ、いいな!」

 そう告げると、ベリアルはタナトスの肩へ移り、臨戦態勢を取る。
 こいつはタルタロスの部下なのだろう? 速攻で襲って来る敵なのか? 

「そっちの奴は気付いたみたいだな。そうかタナトス……貴様が引き込んだんだな。
ご苦労なことだ」
「まぁ、そうだね。ルイン。彼を倒すのは君の役目だよ」
「何でだ? 何故戦う必要がある。出来れば話し合いで解決しても……」
「君、戦いがうやむやになっている相手に心当たりは無い? 地底に連れられて封印されたものにさ」
「まさか……博打打ちのベルーシン、か?」
「ほう。覚えていてくれて嬉しいぜ……今日は先生助けてーって呼び出したりしねえのか? 
おっと呼べねえんだったなぁ。クククク、やっとだ。やっと復讐出来る……この」

【絶魔】
「妖赤星の大海嘯!」
「ちっ。うざってえ。話を聴かねえクズが!」

 一気にベルーシンを押し流す。こちらも直ぐ流星で移動すると、調整が上手くいかないの
もあってか、一足先に奈落と思われる場所まで、俺とベルーシンのみが出た。
 

「へぇ。随分と強絵術を使うようになったじゃねえか。だがおめえ、不用心過ぎやしねえ
か? 霧爆霊!」

 モヤ状の零体が無数俺を取り囲み、爆発しだした。
 しかし、大した威力じゃない。この黒衣、随分と防御力が高いのは感じていたが……。
 すぐさま青龍偃月刀で斬りかかってくる奴と斬り結ぶ。
 激しい打ち合いの後大きく後方へ押し戻した。
 問答無用なのはお互い様だろうが! 


「おいベルーシン。お前……もしかしてそのアルケーって奴より弱くないか?」
「ああ!? 何抜かしやがる、てめえ! ぶち殺してやるぜ! 霧爆霊!」
「図星な上にまた同じ手か……なっ!?」

 ベルーシンは俺では無く、後ろから追いついて来た自身の味方と思われる奴らを爆発させる。
 そうだった……こいつは残虐のベルータスでもあった。

 残虐の行為を重ねると、こいつは強くなる。
 だが……「もういいだろ。お前のしつこさは分かったよ。けど、お前の時代じゃない」

 やっと追いついて来たか。タナトスの奴、若干嫌がらせしているようだ。

「そーいうことだぜ。お呼びじゃねえんだよ。因縁を終わらせてやる。それにベルアーリは俺
の方だ、ゴミクズが! このトウマが秘める力を思い知りな!」

 おいついたのはベルーシンの手の者だけじゃない。タナトスとベリアルもだ。
 奈落の広いスペースに出たベリアルは、元の……トウマの姿に戻ると、大きく顎を上げ猛
烈なブレスを正面にお見舞いした! 
 余裕をみせるベルーシンは両腕を腰に当てたまま全身でそれを受け止めるつもりだ。
 こいつ、相当自分の存在に自信があるんだな……。
 
「バカめ! ただのブレスなぞ俺に効くわけ……はがっ!? ばかなぁーー、なっぜ……」
「……ゲホッ。畜生まだ慣れねえな竜の体ってのは。それ、ブレスじゃねえぜ。エゴイス
トテュポーンを引き延ばして撃った」

「気付かないとは馬鹿な野郎だぜ。いや、竜といえば
息ってのは俺ら単純な魔族の考えか。俺もこいつと長くいすぎたせいで、可笑しくなった
のかもな」

 放出されたブレス状のエゴイストテュポーンにより、ベルーシンは完全に飲み込まれてしまう。
 こいつの狙いは恐らく、俺の肉体を手にすることだったのだろう。
 アルケーをどのようにして乗っ取ったのかは分からないが、計算狂いもいいところに違いない。

 それにしても……エゴイストテュポーンを引き延ばす? そんな使い方も出来るのか。
 確かにそういった工夫は人間っぽい発想だ。
 長く一緒に居過ぎた……か。ははっ。
 ベルーシンの因縁……ベリアルとベルアーリに纏わる終止符。
 最後は、あっけないものだったな。

「ベリアルは気付いてたの? この事態に」
「そうじゃなきゃおめえが禁足を破って地上に来たりしねえだろ」
「知恵が回り、魔に強く、傲慢で支配欲が強い。そして何より闘争的で誰にも服従しない。そんな奴だと
思ってたけど、変わるものだね」
「あーうるせえうるせえ。アルケーの野郎も一発殴ろうと思ってた相手なんだよ!」
「一発殴るって、消滅させちゃったよね?」
「させてねえ。俺が取り込んだんだよ。クックック」
「ええ? アルケー、部下にしちゃったのかい?」
「ああ。まぁな。部下とは違うが契約みてえなもんだ。返すことは出来るが……クックック」
「それ、タルタロスに怒られるんじゃないのかなあ。まさか君、取引を……」
「その肝心のタルタロスはもっと酷ぇ状態なんだろ?」
「俺、完全に置いてけぼりだよプリマ……」
「それはプリマも同じだぞ。はぁ……」

 状況を整理してみよう。
 ベルーシンを打ち滅ぼしたのがベリアルのエゴイストテュポーンブレス。
 そのブレスで飲み込ませた対象を取り込み、呼び出せる……のだと思う。
 俺が言うのもなんだが、恐ろしい技だ。
 互いの持つ切り札が対象を取り込み放出するような力か。

 一緒に育ってきただけはある。
 俺のものとは取り込み方が違うようだが。

「なぁベリアル。もしかすると、ベオルブイーターってのも何かにとり憑かれたような存
在なのか?」
「……何故そう思った?」
「お前が魂吸竜ギオマを仲間にしたときに、ベオルブイーターを倒すと言ってただろ? 
ギオマは文字通り魂を吸う恐ろしい竜だ。そうでもしないと倒せるような相手じゃないっ
てことかなと」
「いい勘してやがるな」
「つまり、ギオマ無しで攻略は不可能。どのみち地上にも戻らないといけないんだな」
「タルタロスなら恐らくだけど、どうにか出来るよ」
「あの野郎なら確かにどうにか出来るだろうな」
「一体どんな能力者なのか……いや、それは会いに行けば分かるか」
「いいか、茶番のようにはいかねえ。あいつが本気で襲ってきたら、今の俺でも勝てねえ」
「私とヒューはこのために来たんだ。今度は最大限協力する」
「だえー」

 ベルーシンがいたのなら、タルタロスがどうなっているのか。
 もう予想はついている。神の目が届かぬ場所で進行した力。

「俺、ベリアル、タナトス、ヒューメリー、プリマ。五人もいるんだぜ。そう簡単に
負けるわけない。プリマは封印に、ベリアルは鳥になってくれ。行くぜ、バネジャンプ!」
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