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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百四十八話 アルカディアファライナ内

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 クジラモドキの中へ落ちてしまった俺たちは、海水とともに奥へ奥へと流れされていく。
 その先には地面……では無いが、立てる白い石みたいな場所をみつけ、着地に成功した。
 この場所へは、とめどなく海水が流れる広くて天井が高いヘンテコな場所だった。

「……何だここは。間違いなく可笑しなところへ出たぞ」
「だえー。助かったー?」
「これ、助かったって言えるのか? こいつが海底潜ったら助からないだろ」
「よっと! うーん、天井まで届かないね」

 勢いをつけてジャンプしてみせるタナトス。
 俺にしがみつかなくても自分で飛べただろ……考えてみれば、闘技大会で戦ってたとき
も氷柱の上に何時の間にかいたな。
 
「寝かせていいだえー?」
「ヒュー。止めた方がいいよ。こういう生物は案外寝るときに可笑しな姿勢をするものな
んだ。ひっくり返りでもしたらまた海水の餌食にされるよ」
「そういえば……こいつがクジラかどうか分からないが、クジラは腹を向けて寝たり垂直
になって寝たりするんだったか」
「あなた様。少々周囲を調べて来るのでございます」
「一人で平気か? 俺も行った方が良くないか?」
「平気でございます。アメーダは何時でもあなた様の下へ戻れるのでございます」
「そうだったな。気を付けて行ってきてくれ。多分俺たち、クジラモドキのどの噴気孔
……鼻の穴から落ちたんだよな。この白いのは一体何だ?」
「骨の上なんじゃないの?」
「骨? いや石か何かだろう。クジラモドキがクジラなら、もっと柔らかい骨のはず……
これはカチコチだぞ、ニーメが触ったら素材になりそうだと喜びそうなくらいに」
『ギュラアアアアアアアアアアアア!』

 そう話していたら、突如反響めいたクジラモドキの叫び声が聞こえる。
 どうしたものか……ひとまずこの位置なら消化されることはないか……飲み込まれたん
じゃなくてよかった。
「まずいね」
「ひとまず平気じゃないか? この先のことを考えよう。此処を脱出出来たとして……」
「急いでしがみついたほうがいいよ! 海水で流される!」
「えっ?」
「あなた様!」

「うわぁ! 毎回突然戻って来るから心臓に悪いわ!」
「奥から海水が迫ってきているのでございます!」
「何だと? アメーダとプリマは封印に一度戻れ! ヒューメリー、タナトスは俺につか
まれ!」

 そう叫んで間もなく、奥から『ドドドド』という激しい海水の音が聴こえ出す。
 これは間違いない……潮を噴射するつもりだ! 

「バネジャンプ!」

 急いで上空にへばりつき、海水をやり過ごそうとする。
 あっという間に海水が押し寄せ、下の立っていた場所を押し流していく。
 水の勢いが凄まじい。これに乗れば外に……打ち上げられバラバラになりそうな光景が
頭に浮かんだ。
 脱出方法は少し考える必要があるな…「おーーーい! この海水、何で奥から噴き出た
か分かるかーい!」

 海水の音がうるさいので、大声を上げるタナトス。

「ああ! 多分呼吸器だろう。こいつは構造がほぼクジラって生物とそっくりだ。つまり
この海水と一緒に空気の入れ替えを……風が弱いのは海水に多く含まれてるんだろうか? 
でも……おいタナトス」
「なーにー! よく聴こえないんだけど!」
「お前、本当に管理者なのか……今まで出会った管理者の中で一番平凡能力だな」
「ええーー!? 何ー?」
「この後俺たちは多分、爆風で吹き飛ぶ」
「え?」

 海水の流れが止まったのを確認し、着地して直ぐのことだった。
 とっさに硬い白い部分へつかまったが、そんなことは僅かな抵抗でしかない……「うお
おおおおおおお! こんなのつかまってられるわけねえだろー!」
「だえーー」
「うわあーーーー! でも海水よりはいいやーーー」

 余裕をかますタナトスの声に苛立ちを覚えながら、俺たちは更に奥へと吹き飛ばされて
いった。
 既に絶魔は解除されている。
 外での使用は余計だったと少々後悔しているくらいだ。
 瞬発的な爆風は奥に流されていくうちに徐々に弱まったが、まだ風に身を委ねることし
か出来ない。
「体がバラバラになりそうな突風だった」
「だえー。少し保護してたんだえー」
「そうだったのかヒューメリー。全然気付かなかったよ! ありがとな! なかったらど
うなってた?」
「全身切り刻まれて血でびちゃびちゃで汚れるだえー」
「……タナトス、お前も弟を見習え!」
「君、私には結構冷たいよね……」
「お前が俺に冷たいからだ!」
「ヒューには、ちゃんと優しくしてる」
「ターにぃは優しいだえー」
「はぁ……風に吹き飛ばされながら奥に進むなんてな。大分収まってきたが……下、見え
るか?」
「いや、真っ暗だね。君、ソフド出せないのかい?」
「試してみるよ。光剣!」

 ソフドの形をイメージしてそう唱えると、一筋の光を発する剣が目の前に現れる。
 こいつは文字通り光を発する剣でもある。
 
「……ここは肺だろうな。口から入って流されたんじゃ窒息死は免れなかっただろう
が、ここなら少し落ち着いて作戦を練れるだろう」
「本当に? また吹き出されない?」
「直ぐには無いだろう。俺の世界にいた生物と構造が同じなら、数時間……いや巨体か
らして数日は持つんじゃないか?」
「遠覗裏の鏡を使おう」
「何だ、それ」
「覚えてないんだね……ある地点にいる調べ物を見る力だよ。落ち着いたところじゃな
いと見れないけどね」
「へぇ……それは便利そうだな。それなら、なぜ外へ出る前に使わなかったんだ」
「これはね。私が調べたいものを調べるものじゃないんだ。他者が思い描くものを調べ
る道具だから」
「……それなら、メルザ・ラインバウト」
「分かってる。メルザ・ラインバウトを映せ……ダメか」
「おい、メルザに一体何があった! お前、何か知ってるんだろ?」
「正確にこれだとは言えないけれど、多重の結界に更に結界を被せてとても見え辛くし
てあるのかも」
「領域から外に出てたのか? ルーンの国……ええと、ファナ! ファーフナーはどう
だ!?」
「遠覗裏の鏡、ファーフナー……ダメだね」
「……そんな。ジャンカの町はどうなってる。ええと、シーザー師匠、それからハー
ヴァルさん、それから……」

 それから色々闘技大会に出ていた皆が映るか試してみた。
 しかし誰一人として映ることは無かった。

「……誰か、誰か状況を突き止められそうな奴……そうだ! ミレーユだ! あいつは散
策に出掛けたはずだ。まだ戻っていない可能性は十分にある」
「分かった。それじゃ調べてみるよ」
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