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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百三十六話 両腕のアザ

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「はっ! メルザ!? カルネ? ……ここは、病室? あれは、夢か? いや
絶対夢じゃない……」

 全身に冷たい汗をかいている。
 二人が殺される姿を見て、俺は……。

「おいこらお前! そんな大きな声出すな」
「スピアか。悪い、直ぐに領域へ向かう」
「おい。まず薬飲め」
「う……わかった。有難う……スピアはすっかり助手っぽくなったな」
「当たり前だろ。先生の片腕だからな」
「お前の生きる道、しっかりと見つけられてよかったよ」

 あれ、顔真っ赤になってしまった。
 褒めたんだけどな……ってそれどころじゃない! 

「先生には後で礼を言うから! それじゃ!」
「あ、おい! おーーい!」
 
 急がないと。酷い光景を見せられた。
 こんなところでじっとしてられるか。

「神魔解放! ……ってあれ? 神魔解放! 解放! 解放! 使えない? 
一体何故だ? いや、体が神魔解放状態だ、これ」

 どうなってるんだ? 神魔解放せずとも体が異常に軽い。
 あいつに何かされたせいか。常時神魔解放状態? そんな馬鹿な。
 考えてても仕方ない! 
 
 闘技場内にある泉への通路へダッシュする。
 まだ早い時間だし、誰もいない。
 泉前へは直ぐに辿り着くことが出来た。

 ルーン国へ戻り、自分の家へ走る。
 急いで部屋を開けると……メルザとカルネがいた。

「二人とも! 良かった……無事……か。あれ? どうした、そんな顔して」
「うわーーーーー! ルインの変態!」
「ツイン、パンツ、だけ」
「うわっ! なんで俺裸なんだ?」
「知らねーよばーかばーか! 早く服着ろ!」
「ツイン、服、見える」
「あれ? そういえば昨日……」

 俺はあのタナトスとかいう奴の領域で黒衣を身に纏ったような……。
 あれはやっぱ夢だったのか? いやいやそれにしてはリアルだった。
 何せ目の前でメルザとカルネを爆散させられたんだ。
 あいつは死の管理者で、殺したりしないと言っていた。
 それでも目の前でメルザたちがそんな目にあわされた光景を見て、俺は
可笑しくなった。
 しかし……「あれ、何だこの腕のアザ……」
 着替えながら自分の体を確認すると、両腕に変なアザが出来ていた。
 押しても痛くない。
 目はすっきりとしていて良く見えている。
 他に体の変化は……ないな。翼も生えていない。
 寧ろ、常時神魔解放している影響からか、体の調子はすこぶる良い。
 怪我の回復が早まるわけだし、この状態は願ったりなのだが。
 
 着替え終わると再びメルザの許へ行く。
 少しだけぷいっと横を向いて、「カルネに変なもの見せるんじゃねーぞ!」と釘を刺さ
れた。
 ……仰る通りです。返す言葉も無い。

「んで、もう体はへーきなのか? 俺様もカルネも心配したんだぞ」
「ああ。酷い夢のようなものを見せられて……心配で飛んできたんだ」
「ひでー夢? カルネと同じこと言ってるな」
「ツイン、カルネ、目」
「目!? どうした、まさか目が見えないのか?」
「ちあう。カルネ、目、目」
「目……賢者の石のことか? 特に異常は無い……いや異常ではあるんだけど
変わりは無いか……ん? いや、賢者の石に本が映ってる! メルザ、見てみろ」
「え? 俺様には何も見えねーぞ」
「何?」
「それよりルイン、その目……へーきなのか? ひでーくらい充血してるぞ」
「えっ? 俺の目がか?」
「ああ。ほんとにだいじょぶか?」
「体は何ともないんだ。すこぶる調子はいい。しかし……明らかに昨日と違う
感じはする」
「なんともねーならいいんだけどよ……俺様心配だよ」
「……メルザ。カルネ。お前たちを失ったら俺は、絶対可笑しくなってしまう
だろう。だから危ないことだけはしないでくれ」
「それ、お互い様っていうんだぞ。ルインに何かあったら俺様たちだって可笑
しくなるに決まってるじゃねーか。だからよ。あんまりあぶねーことはしない
でくれよな」
「カルネ、平気。カルネ、つおい」
「カルネは本当に強くなりそうだけど、まだゼロ歳なんだぞー。よしよし」
「ツイン、お鼻、お鼻」
「いでででで……どうしてお前はそんなにお鼻が好きなんだ。取れる、取れる」
「にはは! 取っちまえカルネ! そうすりゃちっとは大人しくしてるだろ」
「恐ろしいこと言うなよ……さて、俺は闘技場に行ってくる。今日はビローネの
戦闘が見れる日だ。メルザたちはこっちにいてくれ」
「ああ。帰りに海焼き買って来てくれよ!」
「わかった。クウたちはいるか?」
「あいつら全員忙しいみてーだぞ。ルインの子、可愛がりてーっていう奴が多く
てよ。取り合いだ」
「そ、そうか。俺もしっかり顔出しはしてるんだけどな……金をしっかり稼いで
きて! と強く言われる。まぁ五人いたら金貨五千枚でも一人洗米だからな。頑
張らないと」
「カルネは直ぐに自分で稼ぐんじゃねーかな。俺様より直ぐ賢くなりそーだぜ。
へへっ」
「それでも五歳くらいまでは大人しくしていて欲しいなー……よし、行ってくる」

 ――家を出て再び闘技場へ向かう。
 あんなもの見せられた後だから、本当に心配でならない。
 俺は参加者側だから、リングの直ぐ近くで見られる。
 これは参加者特典のようなものだ。
 敗退した選手もここで見ることが出来るから、参加する意味はそれだけでもある。
 
 全く――「やあ。昨日ぶりだね」
「うわあーーーーー!」
「うわっ! そんなに驚かなくてもいいだろう」
「驚くわ! 何なんだあんた一体! どいつもこいつも俺を驚かせるのが好きな奴ばっか
りだな」
「まぁ、その反応を見たら驚かせたくてゾクゾクするね」
「……タナトス。お前一体俺に何をした。いや、その前に」

 ガツンとゲンコツを頭に落としてやった。

「いたっ。 何するんだい? 唐突過ぎて避けれなかった……」
「偽物とはいえメルザとカルネを殺そうとした報いだ」
「ああ……それなら昨日受けたんだよね。ほら」

 といって俺に腹の傷を見せるタナトス。
 バッサリ開いた綺麗な傷口で、斜めに見事入っている。
 そこからは黒い鳥の目がこちらを睨むように見ている。
 これ、あのとき上から見ていた鳥だ。

「痛みは感じないけど、これほど深手を負ったのは久しぶりだ」
「これ、俺がやったの?」
「やっぱ覚えてないんだね、全然」
「ああ。お前のせいだ」
「私のせいなのか? 覚えてないのは君の性能のせいだろう」
「うるさい黙れ死ね……あれ? 何で俺は今、お前に死ねって言ったんだ?」
「昨日散々言ってたよ……ことあるごとに死ねって……」
「そうか。なら問題無いな」
「大ありでしょう……」
「それよりお前に聞きそびれたことがある。あのとき檻に入れてた女は何者なんだ。それと俺の
ベルト知らないか? パモやトウマを入れっぱなしだったベルトだ」
「それ、彼女毎殺そうとしてた君が聞く?」
「それはあれだ。俺じゃない何かだから。俺はそんなことしない」
「はぁ……それより試合、そろそろでしょう。終わったら全部話すよ」
「おっと。この試合は見逃せない。あいつ自身が何者かも気になってたんだ」
「メイショウの片腕、ルッツ君か。人じゃないね」
「見ればわかる。ウェアウルフだろ」
「そういうことじゃないんだよね……さ、じっくり観戦しようか」

 俺は何故か死の管理者タナトスと並んで、試合を観戦することとなった。
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