上 下
923 / 1,085
第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百二十九話 動く雷帝

しおりを挟む
 困ったものですわね。
 大陸で大人しく監視しているだけかと思ったら、こんなところまで追いかけて来るなんて。
 余程暇なのかしらね。
 それにしても……わざわざ闘技大会なんて出場しているから、どんな可笑しなことをす
るのかと思えば。
 たった一つの力だけ使用して負けるなんて、無様ですわ。
 笑いに行って差し上げましょう。

「入りますわよ。あら、鍵が掛かっていますわね。まぁわたくしには関係ありませんけど」

 あら。少し電撃を発しただけで扉が黒焦げになってしまいましたわ。
 まぁいいでしょう。簡単に黒焦げになる扉がいけないのですわ。

「あ、やばい女王がきたぞ、先生」
「……あのー、扉を壊して入って来るのは遠慮していただきたいのですが」
「オーッホッホッホ。わたくしに破壊されるなんて運がいい扉ですわ」
「扉に運ってあるのか?」
「スピア。少々下がっていなさい。こちらは患者がいる場所です。室内ではお静かに。面
会ですか? まずは消毒を」
「あら。わたくしは雷帝。毒なんてわたくしにはつきませんわよ」

 バチバチと迸る電流をみて、大きくため息をつくシュイオン先生。
 
「いいですか。消毒は電撃に関係なくしてもらいます。これは決まりですからね」
「……分かりましたわ。メイショウへ面会をしたのだけれど」
「彼にですか? ルインさんにではなく?」
「ええ。彼の方が重症ではなくて? メイショウならあの程度、なんともないはずよ」
「どういうことです? まだ意識が……あっ。雷帝さん!」
「大丈夫。少々お話をしたら直ぐ離れますわ」

 やはり狸寝入りをしていますのね。何を考えているのかしら。
 医者としては優秀でも、お人好しが過ぎる人物ですわね。

「ここですわね。メイショウ、あら……あなたでしたの」
「ふん。雷帝か。こいつに何のようだ」
「狸寝入りしているのを起こして問い詰めようとしただけですわ」
「ちっ。お前が大人しく魔王城に引きこもってれば、こいつも出て来る必要なんざ無かった」
「ウェアウルフの分際でわたくしに対してそのような口を利くのは許せないのだわ。試合前に
消し炭になりたいのかしら? ウェアウルフのホムンクルスちゃん」
「てめぇ!」
「あら。騒がない方がいいのではなくて? あなたの目的は彼に命令されただけでなく、お金
なのでしょう? 試合前に失格となりますわよ」
「……俺はもう行く」
「ええ。そうしてもらえるかしら」

 メイショウの片腕、ルッツ。わたくしの敵ではないのだけれど、高い能力を持っている
のは間違いないのだわ。
 ビローネとの試合、精々頑張ることね。

「さて、メイショウ。そろそろ狸寝入りは止めて、話すのだわ。話すのよ。話すのね。話すに違い
ないのだわ!」
「……何時から気付いていたんですか。雷帝」
「何時? 何時っていうのはあなたが試合に参加していること? それとも王女を殺そうとしている
こと? それとも試合中ずっと迷っていたことかしら?」
「全て、お見通しだったとでも言うのですか」
「あなたの力なら大会なんて参加せずとも、彼も、他の者を利用して王女をおびき出すこ
とも、もっと簡単に出来たのではなくて? 勿論わたくしが止めましたけど」
「君に止められなくても、ただ殺すだけなら難しくは無かった。私は快楽殺人者などでは
無いのですよ」
「では、何をしていたというのですか?」
「観察です。本当に危険な人物なのか。あなたと協力して何をしようとしていたのか。彼
は何故あれほど力を身に着けたのか。雷帝が何故彼に従うのか。知りたかった」
「わたくしのことはいいのよ。それで、彼を殺すつもりなのかしら?」
「いいえ。彼に謝らなければならない。彼の言う通りだ。ここに来て、彼の行動、町の様
子、大陸の状況などを調べました。私の心は揺らいだ。皆本当に、幸せそうだった。雷
帝。魔王は人々の心を不安にさせる。あなたもそうだった。上空に飛ぶ竜を撃ち落とすそ
の様。だが、この町も、闘技を見に来た人々も、何もかも……魔の者たちが作り上げたも
のにしてはあまりにも……美しい」
「あなた、馬鹿ですわね。ここはトリノポート大陸。必死に生きねばならない弱者の集う
最弱の大陸ですのよ? あなたたち特別な力を身に着けた人間が、忘れているだけではな
いのかしらね。どちらにしても、いいですわ。あなたたちがこの町やこの国をどうにかし
ようというのであれば、わたくしはリンのお気に入りのために、こちら側へ味方に付きま
すわ」
「リンのお気に入り? それはどういう意味ですか」
「あなたには関係ありませんわ。ところで……なぜ負けたのかしら? あなたならあの状
況でも簡単に覆せたのでしょう?」
「いいえ。私の方が先にアーティファクトを使用したのです。その時点で負けるつもりで
した」
「そういえばあの伝書を使用したときかしら。わたくしはその後だと思ったのだけれど。
彼が使った神話級アーティファクトは偶然。あなたのは必然ですわね」
「はい。ですから私の負けでしょうね。彼とはもう一度戦いたいものです。今度は制限
無しに、能力の全てを用いて」
「やっぱりあなた、馬鹿ですわ。それであなたに勝つなんて、絶魔王の誰でも不可能だわ」
「それは……どうでしょうね。すみませんがもう少し回復に注力させて下さい。医師の治療
は実に的確でしたが、私の力を注がないと早く治らないので」
「そう。いいわ。あなたが誰も殺さないということが分かりましたから。早々に帰ってもら
いたいのだけれど」

 ……驚きましたわ。魔の者を目の敵にしていると思っていたのだけれど。
 それとも彼に魔ではないものを感じ取ったのかしら。わたくしのように。
 どちらにしても運がいいですわね……いえ、運が悪すぎてこうなっているのかしら。
 少しだけ様子を見に行って差し上げましょうか。

「雷帝さん。本当に会話出来たんですか?」
「お医者さん。あなたは優秀かもしれませんけれど、目に見えること、調べて分かること
以外にもあったりするものですわよ。特にしたたかな者はね。それではルインに会わせて
もらいますわよ」
「今はちょっと……あっ」
「ななななっ! 破廉恥ですわ! 破廉恥ですのよ! 破廉恥ですわね! 破廉恥に違い
ないのですわぁー!」
「ななっ。電撃ねえちゃん!? なんでいきなり入ってくるんだ!?」
「ツイン、服、めるちゃ」
「やべ、布団掛けるから待ってろ」
「う……メルザ以外、誰か来たのか……」
「あら、あなたまさか目が……」

 どうやら最後のは代償技だったようですわね。
 あれほどの威力ですから無理がありませんわ。
 それにしても……やはり絶魔王とはなっていないようですわね。

「お加減いかがかしら」
「最悪だ。二人静を以前放ったときより代償が大きい。恐らく、目の力込みで撃ったからだ」
「目の力? 何なのかしら? それは」
「幻魔の力みてーでよ。えっと、ガラポン蛇のえーとんーと」
「原初の幻魔、ウガヤの力だ」
「あなたは妖魔ではないのかしら? 幻魔の力も行使出来るのかしら?」
「ああ。多分、メルザの力だと思ってる。メルザがいないと発動出来ないから」
「……それは可笑しいですわね。少し、話を聞いてもいいかしら?」
「な、何かルインにするつもりか? 俺様の前で?」
「メルちゃ。平気、だいじょぶ」
「カルネ……」
「わたくしとしてはじっくり調べたいのだけれど。あと、あなたもですわ。ルーン国女王。
いえ、原初の幻魔純血種さん」
「俺様を……?」
「まずは、話を聞いてからですわね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

処理中です...