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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百二十四話 恐怖、絶望、後悔を

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 ハンニバル――その男はとにかくでかかった。
 二メートル以上はある巨体。
 鼻は尖り、顎も長い。目つきは残忍そうで、長髪をターバンで止めている長い髪。
 剛腕そうで、右手が銃の形をしており、左手には威光を放つ刀を持っている。

 他の奴らとは明らかに違う、見た瞬間悪そうな奴と決めつけられそうな外見だ。
 当然外見で判断するのはよくないのだが……「ここまでお頭感満載な奴、初めて
見た」
「お頭ぁー! 助けてーー!」
「助かったズリ! もうお前はお終いズリ!」
「うるせえぞ、洟垂れ共!」

 右手の銃口を上空に向けてぶっ放す。
 そうそう。頭ってのはそういう冷静さが大事だ。
 こいつは……少し苦労しそうだな。

「あんたがハンニバルか」
「そうだ。おめえは誰だ? ここへ何しに来た。俺の部下にでもやられた腹いせか何かか?」
「俺はルイン。腹いせか……まぁそれもあるかな。ここには警告に来たつもりだったが……少
し考えが変わった。お前ら、簡単に人を殺すタイプだろう」
「バッハッハッハッハァ。あたりめえだ。俺たちは空賊。殺して奪うのは当然」
「んで、これからルーン国へ向かい、大量に殺して金品を奪うのか? 或いは女王をさらって
脅迫か?」
「お頭! こいつ女王の夫だそうズリ!」
「何? つまり王自ら出向いたってのか」
「俺は王じゃない。女王の側近。子分だな」
「ほう……それほど女王の権力が強ぇってことか」
「権力? いいや、権力者じゃない。全てを見守り、慈しむ者だ」
「慈しむだぁ? 笑わせてくれるぜ。そんな甘っちょろい国なんざ直ぐ滅びそうだ」
「そうさせないためにも俺たちがいるんだよ。あいつにとっての大切な場所。それを
荒らさせたりはしたくない。俺と戦えハンニバル」
「いいぜぇ。その前に部下共をもっと端にやりな。危ねえだろ?」
「……わかった。案外部下思いなんだな」
「へへへ……」

 モード・レウスの網を少し離れたところまでもっていく。
 ミレーユとプリマはもう残ったやつらを捕縛したようだ。
 後はこいつだけなんだが……なんだ、この余裕を浮かべる表情は。
 
「おらぁ! 出てこい! 地上で仕事だ! ツチミツチ!」
「何っ!? 下からターゲットに反応! くっ、バネジャン……」

 間に合わない! 下から高速に接近していた何かに思い切り打ち上げられた。

「ぐっ……何だ、一体……そうか、こいつら地面を掘り進めようとしてたのか!」

 それは先端が渦巻くドリルのような奇妙な魚の形をした巨大なモンスター。
 どうにかしてこいつを操り、下に道を造っていやがったんだ。
 地上と上空ばかり警戒していた。まさかこんな離れた位置から……。
【真化】
「妖赤海星の吸盾」

 上空に打ちあがった俺に、ハンニバルが射撃をする。
 それらを防ぎ、魚の方をどうにかすることにした。
 
「ラーンの捕縛網、モード・ウォーラス」
「周囲を壁で囲むカベ」
「ギャシャアアアアアアアアアア」

 ウォーラスの形態に変化した捕縛網は、魚の周りを壁で囲んでいく。
 問題はこのままだと地面に潜るってところだ。

「ラモト・ネフィラ落下

 壁の囲まれた部分に青白い文字を落としていく。
 魚が地面に潜るより先にラモトが発動し、青白い炎を立てて一気に燃え上がる! 
 魚はしゅるしゅると俺へ封印されていった。

「なっ!? ツチミツチが消えただと? 何だこの魔族野郎は」
「リュシアン。至急ルジリトに連絡を頼む。既に地下を掘り進み町に迫る者多数。捕縛を
頼む。相手がこちらを殺す素振りなら、容赦はしなくていい」
「わかっただぁ。主様ぁ。帰りは平気だべ?」
「うーん。大丈夫かな。リュシアンは報告したら休んでてくれ。クウたちと遊んでてもい
いぞ」
「本当だか? 嬉しか! 一杯可愛がってくるだよ!」
「あ、ああ。ちゃんと休みもとれよ」

 直ぐさま飛んでいくリュシアン。クウとレインがお気に入りらしい。
 母親ごとルーン国を飛んで買い物に連れて行ったりするので大変喜ばれている。
 リュシアンをいきなり出したことにより、ハンニバルの顔が青ざめる。
 そりゃそうだろうな。いきなり竜を放出する奴なんて相手にしたくない。
 次は何が出て来るんだと驚くだろうからな。

 ……まぁ、もっと驚いてもらうか。

「死竜ドラゴントウマ、地竜アビシャフト、スノーバウルス、ガードネスクロウルよ、俺
の下に集え。あーいや待った。魂吸竜ギオマよ。ジャンカの町から西のベッツェン跡地。
今こそ俺の前へ」


 俺がこいつらに与えるべきは恐怖であり絶望であり後悔。
 もしこの大陸に攻め入ったらどうなるか。
 それを教える必要がある。

「お前の部下にさっき、俺よりプリマたちが強いと告げたが、あれはあくまで一対一ならの
話だ。多対一で今の俺とやり合うなんざ、はっきり言って誰でもご免だろうね」 
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