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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百二十話 夜の会議

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 結局、雷帝賞はまさかのミレーユ王女に。やっぱあの場面ばっか見てたんだろうな。
 魂吸賞はベル・ガオス。俺と戦った大柄な獣人女性だ。
 そして、エルバノ賞……ではなくメイズ賞として、双剣の女性が選ばれた。
 どうやら双剣の女性は師匠に倒されたようだが、相当粘って戦ったらしい。
 これは後からでも見返したいな……。
 大会の三賞はまだ続くが、こちらは賞金として金貨百枚と、レンブランド・カーィ作
特注の青銀首飾りが授与される。
 それぞれの賞で異なる印が刻まれており、番号には当然一が付与される。
 希少価値のある一品となるだろう。金貨以上の価値があるに違いない。
 ミレーユが賞を取り、エンシュが取れなかったので、相当悔しんでいるはずだ。
 だが、エンシュはどう考えても相手が悪すぎる。あのテンガジュウにハクレイ老師と
どちらも魔王という酷い組み合わせに当たったらしい。
 その組み合わせだったら俺も一回戦で全力を出し、負けていたかもしれない。
 何せ……神話級アーティファクト頼りだった自分がいるわけで。
 ティソーナもコラーダも使えない、ましてや隠しアイテムともいえるラーンの捕縛網
すら使えないし、ルーニーもダメ。
 どんだけ装備に頼ってるんだと少々反省するいいきっかけにはなったが……今は伝書
の力もある。
 真化の力も鍛えないといけないのだが、やれることが増えて、組み合わせ修行に余念
がないところだった。

 と、そのようなことを考えつつ、俺は今、会議をするべくジャンカの町闘技場の一室
にいる。
 そろそろ来るはずなんだが……「主様ぁ、お待たせすただよ。あたすも出たかったんだ
けんども、残念だぁ」
「主欲するところにサーシュアリ。使命全うこそ至福。リュシアン。教養を身に着けな
さい」
「あれ? サーシュ。ちょっとだけ流ちょうに喋れるようになったな。リュシアンは、そ
の喋り方、悪くないと思うぞ!」
「あたすの喋りがた、こっちのほうがめんこいってみな、言うがら、こんのままでて思う
けんどもサーシュが少し直せ直せって」
「我の忠告異なれり。少し直せはあっている」
「まぁ、個性があっていいと思うぞ。うちの国は個性派揃いだ。俺もその喋り方は可愛い
と思う」
「あんれいやだよ主様ったら。恥んずかしいからやめてけろ!」
「ああ、すまない。それで……どうだった?」
「我、報告アリ。西側、元ベッツェン付近にて不審な乗り物多数アリ。
数は三、うち一機、大型の乗り物アリ」
「武装されてる乗り物だったけんども、動かす気配はなかったども、いつ来ても
おがしくねって、伝えただ」
「そうか……やっぱりフェドラートさんから聞いた通り、そっちは対処しないとな。
ただ、こちらから手を出せば宣戦布告無しでの無差別攻撃だ。それは避けたい」
「だども、あつらは攻撃する気満々だべ? いいだか?」
「良くは無い。だが先手はあちらに撃たせる。被害を出すつもりは無い」
「そげなこと、出来るだか?」
「ああ。ただ、お前たちには警告をしてもらう必要がある。ジャンカの町を領空されたら
即追い出す必要があるからな。つまりそれが攻撃と同様ってことだ」
「遠方よりの攻撃対応、不可避では?」
「いいや。この町には無数の時計塔があるんだが、アルカーンさんはその時計塔が破壊さ
れないように、ある対策を施している。そいつが勝手に機能するから、町中からじゃない
と破壊活動を大々的にするのは厳しいんだ」
「そういえばあのすと、なんが町中で念入りに調べてたな」
「あれでも世界を変える力を持つ管理者だからな……町を守る気があるんじゃなく、時計
を守る気満々って感じだった」

 アルカーンさん……つまりカイロスは、時の支配者といってもいい。
 何よりも時計を愛し、行動している。
 どうしても時計塔を立てさせろと言うので、それならと町の防衛に関する部分を同時に
付け加えさせたら、渋々承知してくれたのだ。

 ただ、数を指定していなかったのは俺の落ち度だ。
 そこら中に時計を作りやがった……まぁ便利な物だからいいんだけど。
 しかも一つ一つこだわったデザインにしたらしく、全部違うデザインの時計だ。
 どんな仕掛けかはあえて言うまい。

「そろそろルジリトも来るはずだが……やっぱ問題山積みそうか?」
「んだ。主様が仰ってた例の女と男が、みづからねって」
「上空から探す我の目にも映らず……」

 念のために調べてもらったが、やはり見つからないか……。
 あの女の方は恐らく俺を狙っている。どこかのタイミングで襲って来るかもしれない。
 念のため、ター君を外してパモを入れておいた。
 パモには一通りの装備をしまってもらっている。
 本当にパモがいないと何も出来ない自分がいる。
 俺が崇拝する唯一神はパモに違いない。

「遅くなりました。主殿。状況、あまり芳しくありませぬ」
「ルジリト。ここは一つパモに解決してもらうか……」
「パモ殿に?」
「おっと……済まない考えが混同してちょっとおかしくなった」
「ははは。お疲れですな。まず捕らえた者たちのことです。乗り物を調べたところ
高い技術を持つ乗り物で、レグナ大陸から来たものと判別つきました」
「そうか。そこまでは予想通りだな」
「現在レグナ大陸には二国の小国と空賊ハンニバルが活動しているのみ。
そちらへの言伝はレンズを通してアビオラ様へお願いしてあります」
「手回しの速さは相変わらずだ。その空賊と関与している国はあるか?」
「どうやら無いようでございますな。空賊ハンニバルは大きく活動する集団。金品を奪
い、人の命も奪う悪党でございます」
「刑期として妥当なのは何だと思う?」
「そうですな……この国で起こした騒ぎとしての罪ですと、カバネの方は重罪。ヒージョ
の方は中程度の罪でしょう。終身労働罪でいいかと。食べるのが好きなようですから闘技
場の売り手仕事が妥当でしょうな」
「ヒージョの方は?」
「そちらは難しいですな。ルールー殿に多少とはいえ危害を加えたのですが……謝罪に向
かわせて、言い争いになったあと、なぜか打ち解けて、和気あいあいと喋り出してしまい
ました。盗みたくなる気持ちは分かる……とか」
「ああ、そういうことか。だが盗みはダメだ。貧困で食べ物が無くて……とかじゃないん
だろう?」
「はい。完全な私利私欲によるものです」
「それならば重罪として労働を課すべきだな。だが……」

 俺としてはこの法律を遵守させる点と課すべき罰について、メイズオルガ卿や
ランスロットさんに教わった。
 それというのも当然、俺自身が国家造りなんて経験していないからだ。
 遵守されるべきは法であり、住まう者たちの意思と安全性、利便性、労働制であると。
 そのためには罪を犯す者への処遇と対策を決めねばならないのだが、その方法。
 ここは異世界だ。前世であるならば法の許裁判が執り行われ、罪ある者はその償いを
行わねばならない。
 だが、あまりにも死刑が多いらしい。
 今回で言うならアースガルズでは、オズワルやロキは死刑にあたる。
 ロキがさらったという証拠は無いが、メイズオルガ卿は迷わずロキを処刑するだろう。
 だが、相手は神……処刑しようにも処刑出来ないだろう。
 ジパルノグで言うなら終身刑。あの国では鉱山採掘が盛んに行われる。
 結構な危険場所での強制労働だ。
 俺はどちらかというとジパルノグ寄りの法を取った。
 殺すより労働力として罪を償う方が建設的だろう。
 当然そういった問題が起きない国作りに専念すべきなのだが。
 悪事を働く者がいない世界など、ある方が不自然だろうからな。
 そもそもそれが悪いことという倫理観を持つのも国によって異なるだろう。
 
 ただ、その罪を償わせる道具がな……ジパルノグでは恐ろしい物を使用していた。
 首にはめる奴隷のような輪。
 逃げると首が締まる。
 逆らうと首が締まる。
 外すのは専用の鍵。
 無理やり壊すと爆発する。

 もうね、死んだ心地でしたよ。
 ……試しに装着してみたわけです。
 あまりにも苦しかったので、これは止めようということになった。
 こういうのは付ける側の身にもなるべきだと思ったわけだ。
 罪だから当然という意見もあった。
 だが、拷問したいわけじゃない。更生して欲しいんだ。
 だから教育も受けてもらう。
 
 そんなわけで、首輪ではなく……手錠と足錠にした。
 別に自由には歩ける。
 ただ、十歩歩くごとに本人の声で反省中と声がする。
 町から出ると、ビリビリとちょっと痺れる電気が発生する。
 首が締まるより断然いい。これも当然身に着けた。
 俺の声で「反省中だ……」
 と十歩毎に呼ばれる、えもいわれぬような恥ずかしさにより、あまり身動きとりたく
無くなったわけだが……十分効果はあるだろう。

「既に手錠は身に付けさせてあります。こちらはこれでよいとして、ロキ、それから
常闇のカイナの件です」
「何か分かったか?」
「両者が戦いあっている真っ最中のようでございます。追い詰められているのはやはり
常闇のカイナ。どうやらロキはシーブルー大陸まで攻め入るつもりのようですな……」
「あの神は一体何を考えてるんだ?」
「わかりませぬ。キゾナ大陸にいた常闇のカイナは全て根絶やしにした模様。
しかし本土には強力な幹部がいるはずです。その者たちがどう動くか……それ次第で
状況が一変するかもしれませぬ」
「そうか……大会中に来る可能性は、考えられるか?」
「何とも言えませんな。特にロキ側はキゾナ大陸からここまで、さほど時間を要さず
来れます。十分お気をつけください」
「ああ。引き続き情報取集を頼めるか?」
「お任せください。まさか白丕様が敗退されるとは思いませんでした。やはり死霊族の力
は強大ですな……」
「俺自身、まだまともに対峙したことがない。当たったら胸を借りるつもりで挑んでみる
よ」
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