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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会
第八百十六話 怒らせてはいけない妖魔
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ここは警備隊詰め所の地下にある牢屋。
一時的な留置所として建設されたが、放り込まれているのは今のところ極僅かな場所となっている。
「だから言ってるだろ? 看板が壊れてるから修理してやろうと思って外しただけだって!」
「噓をつくな。罪が重くなるだけだぞ」
「はん。罪が重くなる? 笑わせるんじゃないよ。あたしが何の罪に問われるってんだい?」
「窃盗、業務妨害、暴言、侮辱罪などなどだな。この町には厳しい法で管理されている。国外のものがそれを破ったとしても同罪。そもそもあんたは止めようとした者に暴力をはたらいた。ただで帰れるはずがない」
……ちっ。これはまずいね。カバネの奴一体何してるんだい?
檻に入れられちまったじゃないか。
ここは一つ、色仕掛けでもしてみようかね。
「ねーえお兄さん。そんなことよりあたしと、いいことしないかい?」
「いいこと? ちゃんと白状するつもりになったのは結構。私も忙しい身なのだ。お前にいつまでも構っていたら、彰に何を言われるか……ただでさえ失態を犯して我が主、ルイン様に迷惑をかけたというに」
「あらぁ。きっとその主様も見惚れるこの体に、釘付けになって……」
「おい。貴様それ以上我が主を侮辱すると許さんぞ! あのお方が女性になびくはずがなかろう!」
「はん。男なんざどいつもこいつもみな同じだろ!」
「バカを言うな。姉上はおろか、四幻誰一人としてなびかぬお方だぞ。貴様なぞ道端の雑草いや雑草と言うにもおこがましいわ」
「何だって!? 誰が雑草だ。この……いい男が!」
「何を言っているんだ貴様は。追って定があるまで、そこで大人しくしていろ!」
ちっ。見た目以上に堅物そうだね。
それにしても……くそ、あの看板。絶対手に入れてやる。
なんなんだいこの町は。
入口の看板を見てろくでもない町と思いきや、そこら中に美男子がいるじゃないか。
特にあの看板の男……あんなのに見つめられたらと思うだけで……。それにあの看板、金の匂いしかしないね。
きっと造り物だろうけど、あんな造形物見せられたら、女空賊が飛びつくに決まってるわ。
どうにかして入手したいけど……まずはここからどうやって出るか。
色仕掛けがこれっぽっちも通じない、さっきの美男じゃない奴が来るのを待つか。
頭が気て滅茶苦茶にされちまう前に、どうにかいいお宝だけでも手に入れないと。
さて、次の衛兵が来るのを待つか。
――ヒージョが捕らえられている牢とは別の場所。
ここは現在学校兼養成所として使用されている教室の一角。
「さて、あなたは私のこの妖魔形態。少々残忍になります。ベルータス程ではありませんが」
「な、何ズラ……妖魔? 妖魔って何ズラ。魔族ズラ? おっかないズラ……」
「本来妖魔の力はあまり地上で使うべきではないんですよね。何せ妖魔の能力は、他の魔族が羨ましがる、特筆すべき力がありますから。他の魔族を吸収して使役する。しかもその吸収した相手は消滅するか使役されるしか出来なくなるんですよ。素晴らしいとは思いませんか? この力。我々妖魔は地底でのみ創造されたという、他の魔族とは明らかに逸脱した力を保有する。それがどういう意味かわかりますか?」
「こ、怖いズラ……」
「そう、その通りです! 我々は非常に畏怖の念を覚える種族! それが……妖魔です」
残忍に口許を歪ませているその妖魔を名乗る男は、細い目から眼光を迸らせ、太い鞭と長刀を手に、カバネの前に立っている。
「妖束縛の術・極」
「ぐ、苦しいズラ……! か、体が勝手にひねられるズラ!」
「いいですか。女王といえど私の教え子です。私の教え子に手出しをするなど、ただで返すわけにはいきませんね。ルインさんにはやりすぎないようにと言われましたが、少々怒っています。この報いはきっちりと受けてもらいますからね」
「ぐああ……かかか、勘弁して欲しいズラ。死んでしまうズラ!」
「では喋る気になりましたか。あなたの裏にはどんな者がいるんですか」
「さっきも言ったズラ。看板を盗んだ間抜けな女に命令されただけズラ!」
「私はそうは思いませんね。女王をさらい何を企んでいたんですか。さぁ、吐きなさい」
このままじゃ身がもたないズラ。
まずいズラ……。
「強情な方ですね……私はね……真化するのをあえて避けているのですよ。他の妖魔とは明らかに違うのは、悲痛な叫びを聞くほど、私の妖術威力は上がる……残虐のベルータスにも似たその力を、自分でも恐れているのですよ」
「う……わかったズラ。喋るからもう勘弁して欲しいズラ……」
「おや、それは残念ですね。ちなみに……ちょっと変わった生徒が出来ましてね。もしあなたが噓をつけば、命は無いと思ってくださいね」
「ど、どういう意味ズラ……」
「ラング族の混血という恐ろしい死霊族の知り合いが出来ましてね。それはそれは恐ろしい力を秘めていました。我々妖魔とはまた違った、古代から伝わる種族です。さぁプリマさん。私の宿題を免除する代わりにちゃんと仕事してくださいね」
「おいお前。名前は?」
「カバネズラ……噓なんてつかないズラ」
「ふーん。名前は本当のようだな。んで、何で女王をさらったんだ?」
「だから言ってるズラ。看板をさらった奴に……はれ?」
なんか、首と胴体が離れて見えるズラ。
なんで……。
「おい噓つくな。切り離したのを戻して欲しいなら本当のことを言え」
「き、切り離した……死んだズラ……」
「死んでない。まだ歪ませただけだ」
「い、言うからゆゆ、許して欲しいズラ!」
「ほら」
もも、元に戻ったズラ。洒落にならないズラ。
こんな危ない町、来るんじゃなかったズラ!
「カバネたちはレグナ大陸から来た空賊ズラ。頭に命令されて……王女をさらって一杯お金を要求するつもりだったズラ。すまなかったズラ」
「本当みたいだぞ、フェドラート先生」
「ほう。では質問を変えましょう。あなたは常闇のカイナの刺客ですか? それとも上位神ロキの刺客ですか?」
……何を言ってるズラ? なんか物騒な名前を挙げられたズラ。
そんな奴ら知らないズラ! 怖いズラ!
「ち、違うズラ。親分……お頭の名前はハンニバル……ズラ」
「ハンニバル? 聞いたことがありませんね」
「噓は言ってないみたいだぞ」
噓なんて言えないズラ! 何ズラ? このもふもふ耳の女の子は。
結構可愛いズラ。好みズラ。
「これは、ルインさんに報告が必要ですね。続きは私が引き受けましょう。
プリマさん。君はルインさんに報告しに行ってもらえますか?」
「最初からそのつもりだぞ。プリマは初戦勝ったの、まだルインに褒めてもらってないからな!」
「これだけ分かれば十分です。予定通り宿題は免除しましょう。ただし、ちゃんと算術の勉強はするんですよ」
「わかってるよ先生。プリマだって自分のお金で好きな買い物したいからな」
「よろしい。さて、カバネさん。あなたの罪を少々軽くする方法があります。聞いてもらえますか……?」
――話はルインがカバネたちをフェドラートに引き渡したところまで戻る。
「闘技大会初戦、バトルロイヤルもいよいよ大詰め!
現在勝ち進んだ選手は、プリマ選手、アメーダ選手、ジェネスト選手、ツイン選手、ビローネ選手。現在闘技リングBにて死闘が繰り広げられています! 残り選手は二名。白い鎧に身を包んだ、魔王! ハクレイ! 恐ろしい形相に観客で泡を吹き倒れるものまでいます! 見慣れていない人が倒れるのも無理はありません! ハクレイ選手はシフティス大陸出身の隠居したおじいさんです!」
「適当なあだ名をつけるの、勘弁して欲しいわ。うちのダーリンに灰色ワンワンなんてあだ名つけるのよ! 水竜の息で思い切り水流の息で流してやったわ」
「は、ハクレイ老師が少しずっこけております! 司会は選手にダメージを与えるので気を付けてください! 対するテンガジュウ選手。こちらは電撃を発する鎧を身に着けております! あれは装備品ではなく彼自身の能力! 電撃を放出させる攻撃を得意としています!」
「こっちまでびりびりきて髪が逆立つのよね……」
対峙する二人は司会に煽られながらも、戦闘を続けていた。
「おいおい爺さん。そろそろ降参したらどうだ?」
「そうはいかんのう。町の者が随分とお主に倒されたからな。わしがここで気張らんと、温泉で何を言われるかわかったもんじゃないわい」
「やれやれ。それにしてもいいのか、爺さん。あんたんとこの王は、そろそろ寿命だろう。戻ってやらなくても」
「雷帝の部下に心配されるほど、やわな御仁ではないわい。それに、わしは隠居の身。もう城に戻るつもりはないわい」
「それなら恨むなよ。連電活性鎧砲!」
ハクレイに対し、テンガジュウの鎧から放出される電撃が、扇状に包むようハクレイを襲う。
その電撃を、こちらは白い液体状のようなものが受け止め、ハクレイが身にまとう白い鎧へと吸収するような動きをみせる。
「わしに魔王種の攻撃をしても吸収するだけだがのう」
「……知っててやってるんだぜ、爺さん」
「なんじゃと!?」
「吸収している間は動けないからな。これは闘技大会。武器の使用も許可されてる。
吹き飛びな!」
「くっ……加速する靴か……」
電撃を受けている間に、瞬足近づき蹴りを入れられるハクレイ。
上空に少し浮かされ、大きく後ろへ吹き飛ばされる。
「くっ。まだ体制を……」
「させるかよ。毎日どれほど体を鍛えられてると思ってる」
一気に近づいたテンガジュウは、ハクレイに追いつき、鎧を片手でひっつかむと、そのまま場外へと放り投げた。
「が……はっ」
「爺さんにしちゃ良く戦った。だがこのテンガジュウを倒すには至らなかったな」
「無念じゃ……」
「試合終了! 勝者はテンガジュウ選手です。強い、そして怖い! 僕は絶対戦いたくないです!」
「電撃相手は私もパス。水使いじゃ分が悪いわ」
「残りは二試合です! 一体どの選手が勝ちあがるんでしょうね!?」
「確か、ビーがまだ残ってたわよね。他の選手も気になるけど。あら……?」
突如司会二人の会話を遮る音が、闘技場控室から聞こえた。
もくもくと煙が上がり、観客席からどよめきの声が聞こえだす。
「わわ、闘技場控室で爆発が! 一体何が起こったんでしょうか!?」
一時的な留置所として建設されたが、放り込まれているのは今のところ極僅かな場所となっている。
「だから言ってるだろ? 看板が壊れてるから修理してやろうと思って外しただけだって!」
「噓をつくな。罪が重くなるだけだぞ」
「はん。罪が重くなる? 笑わせるんじゃないよ。あたしが何の罪に問われるってんだい?」
「窃盗、業務妨害、暴言、侮辱罪などなどだな。この町には厳しい法で管理されている。国外のものがそれを破ったとしても同罪。そもそもあんたは止めようとした者に暴力をはたらいた。ただで帰れるはずがない」
……ちっ。これはまずいね。カバネの奴一体何してるんだい?
檻に入れられちまったじゃないか。
ここは一つ、色仕掛けでもしてみようかね。
「ねーえお兄さん。そんなことよりあたしと、いいことしないかい?」
「いいこと? ちゃんと白状するつもりになったのは結構。私も忙しい身なのだ。お前にいつまでも構っていたら、彰に何を言われるか……ただでさえ失態を犯して我が主、ルイン様に迷惑をかけたというに」
「あらぁ。きっとその主様も見惚れるこの体に、釘付けになって……」
「おい。貴様それ以上我が主を侮辱すると許さんぞ! あのお方が女性になびくはずがなかろう!」
「はん。男なんざどいつもこいつもみな同じだろ!」
「バカを言うな。姉上はおろか、四幻誰一人としてなびかぬお方だぞ。貴様なぞ道端の雑草いや雑草と言うにもおこがましいわ」
「何だって!? 誰が雑草だ。この……いい男が!」
「何を言っているんだ貴様は。追って定があるまで、そこで大人しくしていろ!」
ちっ。見た目以上に堅物そうだね。
それにしても……くそ、あの看板。絶対手に入れてやる。
なんなんだいこの町は。
入口の看板を見てろくでもない町と思いきや、そこら中に美男子がいるじゃないか。
特にあの看板の男……あんなのに見つめられたらと思うだけで……。それにあの看板、金の匂いしかしないね。
きっと造り物だろうけど、あんな造形物見せられたら、女空賊が飛びつくに決まってるわ。
どうにかして入手したいけど……まずはここからどうやって出るか。
色仕掛けがこれっぽっちも通じない、さっきの美男じゃない奴が来るのを待つか。
頭が気て滅茶苦茶にされちまう前に、どうにかいいお宝だけでも手に入れないと。
さて、次の衛兵が来るのを待つか。
――ヒージョが捕らえられている牢とは別の場所。
ここは現在学校兼養成所として使用されている教室の一角。
「さて、あなたは私のこの妖魔形態。少々残忍になります。ベルータス程ではありませんが」
「な、何ズラ……妖魔? 妖魔って何ズラ。魔族ズラ? おっかないズラ……」
「本来妖魔の力はあまり地上で使うべきではないんですよね。何せ妖魔の能力は、他の魔族が羨ましがる、特筆すべき力がありますから。他の魔族を吸収して使役する。しかもその吸収した相手は消滅するか使役されるしか出来なくなるんですよ。素晴らしいとは思いませんか? この力。我々妖魔は地底でのみ創造されたという、他の魔族とは明らかに逸脱した力を保有する。それがどういう意味かわかりますか?」
「こ、怖いズラ……」
「そう、その通りです! 我々は非常に畏怖の念を覚える種族! それが……妖魔です」
残忍に口許を歪ませているその妖魔を名乗る男は、細い目から眼光を迸らせ、太い鞭と長刀を手に、カバネの前に立っている。
「妖束縛の術・極」
「ぐ、苦しいズラ……! か、体が勝手にひねられるズラ!」
「いいですか。女王といえど私の教え子です。私の教え子に手出しをするなど、ただで返すわけにはいきませんね。ルインさんにはやりすぎないようにと言われましたが、少々怒っています。この報いはきっちりと受けてもらいますからね」
「ぐああ……かかか、勘弁して欲しいズラ。死んでしまうズラ!」
「では喋る気になりましたか。あなたの裏にはどんな者がいるんですか」
「さっきも言ったズラ。看板を盗んだ間抜けな女に命令されただけズラ!」
「私はそうは思いませんね。女王をさらい何を企んでいたんですか。さぁ、吐きなさい」
このままじゃ身がもたないズラ。
まずいズラ……。
「強情な方ですね……私はね……真化するのをあえて避けているのですよ。他の妖魔とは明らかに違うのは、悲痛な叫びを聞くほど、私の妖術威力は上がる……残虐のベルータスにも似たその力を、自分でも恐れているのですよ」
「う……わかったズラ。喋るからもう勘弁して欲しいズラ……」
「おや、それは残念ですね。ちなみに……ちょっと変わった生徒が出来ましてね。もしあなたが噓をつけば、命は無いと思ってくださいね」
「ど、どういう意味ズラ……」
「ラング族の混血という恐ろしい死霊族の知り合いが出来ましてね。それはそれは恐ろしい力を秘めていました。我々妖魔とはまた違った、古代から伝わる種族です。さぁプリマさん。私の宿題を免除する代わりにちゃんと仕事してくださいね」
「おいお前。名前は?」
「カバネズラ……噓なんてつかないズラ」
「ふーん。名前は本当のようだな。んで、何で女王をさらったんだ?」
「だから言ってるズラ。看板をさらった奴に……はれ?」
なんか、首と胴体が離れて見えるズラ。
なんで……。
「おい噓つくな。切り離したのを戻して欲しいなら本当のことを言え」
「き、切り離した……死んだズラ……」
「死んでない。まだ歪ませただけだ」
「い、言うからゆゆ、許して欲しいズラ!」
「ほら」
もも、元に戻ったズラ。洒落にならないズラ。
こんな危ない町、来るんじゃなかったズラ!
「カバネたちはレグナ大陸から来た空賊ズラ。頭に命令されて……王女をさらって一杯お金を要求するつもりだったズラ。すまなかったズラ」
「本当みたいだぞ、フェドラート先生」
「ほう。では質問を変えましょう。あなたは常闇のカイナの刺客ですか? それとも上位神ロキの刺客ですか?」
……何を言ってるズラ? なんか物騒な名前を挙げられたズラ。
そんな奴ら知らないズラ! 怖いズラ!
「ち、違うズラ。親分……お頭の名前はハンニバル……ズラ」
「ハンニバル? 聞いたことがありませんね」
「噓は言ってないみたいだぞ」
噓なんて言えないズラ! 何ズラ? このもふもふ耳の女の子は。
結構可愛いズラ。好みズラ。
「これは、ルインさんに報告が必要ですね。続きは私が引き受けましょう。
プリマさん。君はルインさんに報告しに行ってもらえますか?」
「最初からそのつもりだぞ。プリマは初戦勝ったの、まだルインに褒めてもらってないからな!」
「これだけ分かれば十分です。予定通り宿題は免除しましょう。ただし、ちゃんと算術の勉強はするんですよ」
「わかってるよ先生。プリマだって自分のお金で好きな買い物したいからな」
「よろしい。さて、カバネさん。あなたの罪を少々軽くする方法があります。聞いてもらえますか……?」
――話はルインがカバネたちをフェドラートに引き渡したところまで戻る。
「闘技大会初戦、バトルロイヤルもいよいよ大詰め!
現在勝ち進んだ選手は、プリマ選手、アメーダ選手、ジェネスト選手、ツイン選手、ビローネ選手。現在闘技リングBにて死闘が繰り広げられています! 残り選手は二名。白い鎧に身を包んだ、魔王! ハクレイ! 恐ろしい形相に観客で泡を吹き倒れるものまでいます! 見慣れていない人が倒れるのも無理はありません! ハクレイ選手はシフティス大陸出身の隠居したおじいさんです!」
「適当なあだ名をつけるの、勘弁して欲しいわ。うちのダーリンに灰色ワンワンなんてあだ名つけるのよ! 水竜の息で思い切り水流の息で流してやったわ」
「は、ハクレイ老師が少しずっこけております! 司会は選手にダメージを与えるので気を付けてください! 対するテンガジュウ選手。こちらは電撃を発する鎧を身に着けております! あれは装備品ではなく彼自身の能力! 電撃を放出させる攻撃を得意としています!」
「こっちまでびりびりきて髪が逆立つのよね……」
対峙する二人は司会に煽られながらも、戦闘を続けていた。
「おいおい爺さん。そろそろ降参したらどうだ?」
「そうはいかんのう。町の者が随分とお主に倒されたからな。わしがここで気張らんと、温泉で何を言われるかわかったもんじゃないわい」
「やれやれ。それにしてもいいのか、爺さん。あんたんとこの王は、そろそろ寿命だろう。戻ってやらなくても」
「雷帝の部下に心配されるほど、やわな御仁ではないわい。それに、わしは隠居の身。もう城に戻るつもりはないわい」
「それなら恨むなよ。連電活性鎧砲!」
ハクレイに対し、テンガジュウの鎧から放出される電撃が、扇状に包むようハクレイを襲う。
その電撃を、こちらは白い液体状のようなものが受け止め、ハクレイが身にまとう白い鎧へと吸収するような動きをみせる。
「わしに魔王種の攻撃をしても吸収するだけだがのう」
「……知っててやってるんだぜ、爺さん」
「なんじゃと!?」
「吸収している間は動けないからな。これは闘技大会。武器の使用も許可されてる。
吹き飛びな!」
「くっ……加速する靴か……」
電撃を受けている間に、瞬足近づき蹴りを入れられるハクレイ。
上空に少し浮かされ、大きく後ろへ吹き飛ばされる。
「くっ。まだ体制を……」
「させるかよ。毎日どれほど体を鍛えられてると思ってる」
一気に近づいたテンガジュウは、ハクレイに追いつき、鎧を片手でひっつかむと、そのまま場外へと放り投げた。
「が……はっ」
「爺さんにしちゃ良く戦った。だがこのテンガジュウを倒すには至らなかったな」
「無念じゃ……」
「試合終了! 勝者はテンガジュウ選手です。強い、そして怖い! 僕は絶対戦いたくないです!」
「電撃相手は私もパス。水使いじゃ分が悪いわ」
「残りは二試合です! 一体どの選手が勝ちあがるんでしょうね!?」
「確か、ビーがまだ残ってたわよね。他の選手も気になるけど。あら……?」
突如司会二人の会話を遮る音が、闘技場控室から聞こえた。
もくもくと煙が上がり、観客席からどよめきの声が聞こえだす。
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