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第五部 主と建国せし道 第一章 ジャンカの町 闘技大会

第八百一話 ジャンカの町の酒場にて

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 闘技大会までいよいよ二日前の早朝の事。

「マスター。ミルクだ。ギンギンに冷えた奴で頼むぜ」
「へい。旦那」
 
 俺はジャンカの町中枢エリアに建てられた酒場で、店を開けてもらい、ミルク
を頼んだ。
 大会前の管理として、早朝の巡回許可は得ている。

 ミルクを頼んで断られない事に感動を覚えながら、ギンギンに冷えたミルクをぐいっと飲んだ。
 ミルクの値段はレギオン銅貨三枚。銅貨十枚で銀貨一枚相当だ。高いって? いや、安い。
 味は格別だ。そして何より良く冷えてる。
 このミルクは当然、前世と同じ牛から絞られたミルク……などではない。

 俺が勝手に考えたメニューをそう呼んでいるに過ぎない。
 カレロという牛に近しい生物から絞られる乳が、頻繁にロッドの町にて用いられ
ている事を知った俺は、その味を確かめ確信したのだ。
 こいつはミルクになり得る! と。
 そしてこのカレロ……実は一度だけ目にしたことがある。
 ロッドの町周辺の海岸。アズラウルの浜辺という場所で、倒れているこいつを目撃していたのだ。

 このカレロに出会うまでは、妖魔の里で仕入れていた妖牛クリームなるものを
使用していたのだが、質が全然違う。
 こいつは上物。間違いなく売れると確信し、なぜか酒場で提供させ始めたわけだ。

「しかし旦那。こいつは酒じゃないんでちっとも売れないですぜ」
「ふっふっふ。これからだよ、マスター。こいつを使うんだ」

 俺は怪しい革袋を取り出すと、マスターに見せる。
 決して中身が怪しいわけではない。
 白い粉など断じて入ってはいない。

「何ですかい? これ。焦げた……種みたいな」
「そいつはな。ある種子を焦がしたものだ。こいつを粉々に砕いたものが、これだ」

 もう一つ。今度は布袋を見せる。
 決して白い粉ではない。茶色い粉だ。

「へぇ。いい香りがしやすね。こいつをどうするんで?」
「湯に注いで濃い目にろ過するんだ。するとな。芳醇な珈琲という物に近い味わいの物
が出来る」

 俺はついに、カフェイン万歳の珈琲もどきを、ムーラさんの造ってくれた茶室経由で
完成させたのだ。
 そしてこれをアーマレット……アーモンド風味のリキュールの事だが、そういった形
にして提供出来ないかを考えていた。
 これは売れる……そもそも珈琲は売れる。カフェラテを売ってる酒場など五万とあった位だ。
 勿論それを売る担当は俺では無いが。

「面白そうでやすね。闘技大会までに売れる所まで持っていけないか、上に確認して
みやすよ」
「そーいやジェイクは外出中か?」
「へい。今日はレッジの旦那と下準備だそうで」
「そうか。皆忙しいだろうな。俺もアイスミルクを飲んだら出かけるよ」
「忙しいのに立ち寄ってもらった上、こんな手土産まで。有難うございやした」
「いや、いいんだ。今度の闘技大会は皆でがっぽり稼ごうぜ。ただし、健全な
取引だけは心がけてくれよ」
「勿論でさぁ。おかしな真似する奴がいたら全員でしょっぴいて女王様の靴でも
舐めさせますんで」
「それは俺が困惑するからやめてくれ……それじゃ、お代はここに」
「え? 銀貨一枚って多いですぜ旦那」
「いいんだよ。酒場のマスターとは仲良くってのは鉄則だからな。仕事、頑張れよ」
「有難うございます!」

 ――酒場を後にした俺は、中枢エリアを後にして、ジャンカの町入り口に立つ。

 町の点検を開始するのはこれからだ。おかしなところがないかの最終確認と
いってもいい。
 現在は……町の西、ベッツェン側から見ての入り口……となる場所。
 入って直ぐにある一等地。
 そこにある目を引く看板。
【バー・シェイク 花に囲まれたひと時のお酒を。詳細は地図にて】と書かれた、俺が
考案した目立つ立て札だ。
 ここはトリノポート大陸側の入り口となる。ここから来る者は圧倒的に
多いはずだ。理由は町の外に出ればわかる。
 そのため、とても目を引く看板を用意する事にした。
 あのジェイクがシェイクしている看板を造ってもらったのだ。
 洒落が効いてるにも程がある。
 ……駄洒落なわけだが。
 ジェイクは町でも特徴ある顔をしている事で有名となった。
 そのため、目印になってもらえないか頼んだら「俺っちが? そんな役受けるとは
思わなかったじゃんよ」
 といって引き受けてくれたのだ。
 そして、この看板が目を引くようにした理由はもう一つある。
 地図がある事を明白にするためだ。
 この世界に来て、町に標識がある場所を一度たりとも見ていない。
 不親切過ぎる設計だ。
 いや、前世が親切過ぎたのかもしれない。
 俺は目視出来るわけでは無かったから、地図を利用していない。
 しかし、前世では既にその枠を超え、ナビゲート機能まであったのだから、文明の
凄さを感じずにはいられない。
 
 少しでもあやかろうと、町にいくつか標識を立て、場所の案内をしている。
 勿論立て過ぎれば変更があった際に直すのは大変だ。
 それに関しては工夫を施せないか、ニーメたちにも交渉しているところだ。

 さて、ジェイク看板より前、町の外側から見て行こう。
 既にジャンカの森の頃のような、密集している木は一本たりとも無い。
 大いに伐採! したわけじゃない。ちゃんと植え替えた。
 間伐……つまり老木を落として若木の成長を促すのも、天然の森じゃ
出来ないからな。
 そのお陰で北東部とジャンカの泉の周りは整備された森林エリアだ。

 ジャンカの泉の位置は最も東端。この場所は既に囲い、建物となっている。
 外部から来ると泉から人が出てくるのは異様な光景だからだ。
 と、泉よりまずは町の外だが……ベッツェンへ向かう方角は真っ平と
なっている。
 ただの平坦な場所じゃない。町の入り口は大きく開けており、その
上下に乗り物を置いて、施錠できる場所を作ってもらった。
 当然、盗難されてはたまらないので、強靭な施錠を施す上に、足場も固定。
 そして価格も高い。
 自前の乗り物があるだけ裕福だからな。
 物資の搬入の者たちは当然無料だ。
 そのための許可証は必要となる。

 問題は既にその場所が不足している事。
 大急ぎで追加分を作ってもらってる。
 今一番の建設現場だ。俺もかなり手伝った。
 
 町への入り口までは殆どが整備された道や、乗り物置き場となっている。
 入り口としては少々殺風景に見えるが、今はこれでいい。
 何せ中は工夫が施された美しい場所が点在しているのだ。

 小型の乗り物で来る者も想定出来るが、町中には一切の乗り物
が入れない。
 侵入したら容赦なくご退場していただく。
 これは絶対だ。
 闘技大会当日は、リュシアンやサーシュが上空の来客に警告を
する予定だ。
 両者共に、当日は忙しくなるだろう。
 セーレは残念ながら会話が出来ない。
 ……そろそろ言葉も覚えてくれないかな。
 当日は、セーレにまたがるレウスさんたちが、警告を発してくれる
だろう。
 というより存在が警告だ。不浄なるレウスさんたちが浄化されなかった事に
ついては確認がとれたが……やはり闇の種族……つまりター君のような存在は
日中外に出る事は叶わない。
 こればかりは仕方ない事なのだろう。
 夜には当然外出してもらっている。

 町の地上部分での巡回は白丕、沖虎、彰虎が隊長となり動く予定だ。
 こちらは実力的にも申し分無い上に、犯罪者が出た場合、乗せて連れ帰る
事も出来る。
 自ら志願してくれたので、任せる事となった。
 さらに、エーやビーも町の警備に回ってくれる。
 といってもビーは闘技大会参加者だ。
 当日は厳しいだろう。
 彼ら警護役は当然交代制。彼らの俸給は当然町の売り上げから出される。
 
 さて、町の入り口から中枢エリア、そして闘技大会会場、その先も見て
行こう。
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