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第五章 親愛なるものたちのために

間話 ジャンカの町への勧誘

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 エンシュとミレーユ王女の特訓がてら、久しぶりにロッドの町まで来た
ルインたち。
 以前ここも、キゾナからのモンスター襲撃を受けたのだが、今では
すっかりと元通りのようだ。相変わらず杖のような建物は健在。
 今日は一晩ここで宿を取る予定だ。
 宿屋ルールーに入ると、相変わらずの魔女っ娘がいる。

「いらっしゃい。でも、もうこの店畳むつもりなのよ」
「ええ? 今日だけでも泊れません?」
「うーん。本当に寝る場所しかないわよ。食べ物も出せない。
そうね……片付けとかもしっかりやって、何も残さないようにして
くれればいいわ。そっちは……男三人に女四人かしら?」
「ああ……これで足りるか」
「半分でいいわ。食事出せないから。銀貨七枚ね。はぁ……」
「一つ聞いてもいいか? なぜ宿屋を畳むんだ」
「キゾナがあんな事になってるからよ。お客は激減。これからどうしようか
悩んでるの」
「……それなら、ジャンカの町で店を出すつもりはないか?」
「ええ? 最近噂になってる場所よね。でも、ロッドからは遠いから
難しいわ」
「リュシアン。運んでやれるか?」
「任せるだよー。わたすが荷物、はごんでおぐから」
「え? どういう事?」
「この宿屋には昔長い事世話になった。少しは覚えてないか? 
結構長く宿泊してたからな……白銀の髪をしたいい男
とか、黒髪で長髪のとてもいいおと……」
「貴公子様!? 今どこに!? ねえどこ!? どこなの!?」

 うわ……俺は覚えられてないけど、ベルローゼ先生の事
しっかり覚えてるよ。無理もない。地上であれほどのイケメンに遭遇する
事は無い。
 見た目がいいだけじゃなく、服のセンスも勝手に良くなる。
 ……取り巻きの影響で。
 
「えっと。先生はちょっと長旅で」
「ジャンカの町に行けば会える可能性があるのね……私、行く
ことに決めたわ! それでお願いがあるんだけど……」
「何だ?」
「その人がもし本当に荷物を簡単に運べるなら、私の友達の
スティッキースティッキーってお店も移転を考えてるの。
一緒に運んでもらえないかしら! この通り! お願い! 後、もう一軒あるん
だけど、こっちはキゾナから逃げてきた人だから、どうかしら……」
「こっちとしては歓迎だよ。今、店を出す者を広く募集しててね。
それらの勧誘を含めつつ、こいつらに修業をさせてるのさ」
「あなたは一体……何者?」
「んーと、ジャンカの町を管理してる、ルーン女王法治国家の、女王の
……婿?」
「おお、王様!?」
「あー違う違う。俺は女王の子分。王様じゃない」
「お師匠様は国の隊長じゃないですか?」
「バカね。それを言うなら防衛大臣とかでしょ」
「ふぬゥ……ルインに大臣などは似合わぬなァ。最前線に立つ
男だぞォ」
「言えてるのぅ。特攻隊長がお似合いじゃな」

 散々な言われようだ。特攻隊長はやめてくれ! 
 そんなに特攻してないよ! 

「俺の肩書きはいいだろ。そんなわけで、少し権限があるから
旅の途中で気に入った場所なんかは、声がけするようにしてるんだ。
町にはちゃんと医者もいるし、お店も多く出来てきている。使用料
なんかは最初、なるべく安くして、経営が上手くいったらその分は
出してもらう予定だよ。どうだ?」
「それ、本当? 信じられないんだけど。そんな事許してくれる
場所、ある?」
「本当ですよ」

 おや? 突然話しかけられた。
 お客さんかな。男性だが……見覚えのない人だ。

「お久しぶりですルインさん……って覚えてないって顔ですね」
「いや、すまない。どちらからいらした方?」
「カッツェルで昔助けてもらった者です。今ではすっかり体を鍛えて
町の防衛も万全ですよ」
「ああ、カッツェルの住民の人か。シーファン老師はお元気ですか?」
「お年ですが、まだご存命でお元気ですよ」
「あ、あのー。もしかしてあなたがカッツェルを救った英雄の?」
「大げさだな。俺が救ったわけじゃない。俺たちで解決した問題だ」
「し、失礼しました! お店、出させてもらいます……町を
救った英雄と話してたなんて……」
「俺たちカッツェルの町も、ジャンカの町と取引してます。
何れルールーさんの宿でもお世話になるでしょう……っと、俺も
今日、泊っていきたかったんですけど、いいですか?」
「は、はい。食事は出せませんけど、銀貨一枚……」
「やった! それじゃルインさん。また」
「ああ。助かったよ。有難う。シーファン老師に宜しく言っておいて
くれ……それで店主さん。もう一軒の方は?」
「私はルールーって言います。もう一軒は魚群っていう魚料理を
出しているお店で、店主の名はネットさんです」
「魚群!? よかった、あの店の人生きてたんだな! 美味かった
んだよ、あの店の料理」
「あら、知ってるんですか? それなら話は早いわ。細かい話は明日
にでも」
「ああ。俺はこれから店を回って幻魔神殿にも行ってから休むから、皆は
自由行動しててくれ。日が沈む頃には宿に戻る事」
「私も行くわよ。そのスティッキーなんちゃらって店気になるし」
「師匠。お供します」
「あたすは荷物、運びはずめるよ。往復すなきゃならねぇだろし」
「我の手伝い、ここにアリ」
「二人とも助かるよ。ちゃんと礼は用意しておくから」
「主さまの喜ぶ顔だけでも、うれしかよ」

 リュシアンは相変わらずなまってるし、サーシュの言葉はわかり辛い。
 それはともかく、どちらも本当によく手伝ってくれる。
 というより四幻は俺にとってなくてはならない存在だ。
 
 ――この後他の二軒も快諾してもらえた。
 一気に三軒分開業してもらえたのは大きい。
 そして、今度は幻魔神殿前まで来ている。
 ここは……相変わらずだな。

「師匠、どうですか?」
「……変わった様子はない。常闇のカイナらしき者も見当たらないな」
「ここでジョブを変えると、本当に強くなるんですか?」
「ああ。だが恐らくは、幻魔の血がわずかにでも混じっている者だけ
が出来るのかもしれない。つまり……地上に生まれた、人間だろうが
魔族だろうが、古代の幻魔の流れる血が入っている、或いは食事を通して
幻魔の影響を受けている事になる」
「それって、私やエンシュでもジョブを変えられる可能性があるって事なの?」
「そういう事だ。だが、この力はお勧めしない」
「どうして? あなたもその力が使えるんじゃないの?」
「俺にもソードアイという便利なジョブの力がある。視野角が広がり
見極めもしやすくなった。こちらを狙う相手の位置もわかるが……
その力を頼り、失敗しかけた事が多数ある」
「つまり、本能的な行動が鈍る?」
「そう言うことだ。エンシュ、しっかり勉強してるな」
「それじゃ利用は避けた方がいいのね?」
「いや。俺が言いたいのは、俺みたいに実力が伴わないうちから
この力を頼るのは良くないということだ。俺も過信したからな」
「そう……それじゃ私やエンシュはもっと後にした方がいいわね。
リュシアンたちはどうなの?」
「あいつらは純粋に作られた幻魔だ。幻獣に近い存在と言っていい。
恐らく利用したいとは言わないだろう」
「そっか……それで、何を調べたいの?」
「建物にある像だ」

 俺は気になっていた。
 これまで何度か幻魔の過去を見た。
 この力、建物、全ては恐らく……カイオスの手によるものではないかと。

 そう考えていた。

「……よし。付き合わせてすまなかったな。後は俺一人で調べて帰るから」
「何言ってんだか。他の島に行けるんでしょ。こんな機会滅多にないわ。
ついて行くに決まってるじゃない」
「師匠。何処までもお供します!」
「やれやれ……一人でゆっくり見て回りたい気持ちもあるんだけどなぁ……」

 ――――その後デイスペルにも足を延ばし、嫌な思い出のある
幻魔神殿も調べた。
 その後、デイスペルでも勧誘を行い、この旅での目的を達成させ
た俺は、少々長旅になってしまったが、ルーン国へ帰還したのだった。
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