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第五章 親愛なるものたちのために

第七百九十七話 催し物を企画する

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 ――翌朝。
 久しぶりに主と目覚める。
 いつもの通り小さい手。
 そして……もう一つの、もっと小さい手。

「おはよう、メルザ。そしてカルネも」
「うーん、もうちょっと……」
「ツイン……おあよ」
「ああ、お早う。お母さんは相変わらず寝坊助のようだよ。
なぁカルネ。どれくらい喋れる?」
「ツイン、カルネ、メルちゃ」
「まだ話し言葉がおぼつかないな。いや、話せるだけで凄いんだけど」

 カルネは……紅色の髪に紅色の瞳だが、髪が部分的に蒼黒い所がある。
 これは、俺に似たのだろうか。それともブレディーの影響なのか。
 よくはわからない。
 でも、この子は確かにブレディーの影響を受けている。
 
 なぜなら……この子の片目に映るもの。それは間違いなく、賢者の石だ。
 
「カルネ。目はちゃんと見えるか。光は感じるか?」
「ツイン。カルネ、寝る」
「……ああ。ゆっくりお休み。お前を……愛しているよ」

 額にそっと口づけすると、まだ寝ているメルザの額にも口づけしてやる。
 しっかりと布団を掛け直して、部屋を後にした。
 それぞれの子供の部屋を回る。ファナ以外は眠りに着いたままだ。
 
「ファナ。お早う。俺が代わるから少し休んでくれ」
「ありがとう。私は平気よ。マーナがいてくれるから。マーナは眠らなくても
平気みたいだからね」
「おはよ、ルインお兄ちゃん。昨晩は大変だったみたいだね。あの魔王のところ、行かなくても
いいの?」
「いや、行かないとならない。やることも一杯だよ。だけど、子供を置いて仕事
ばかりしてる親じゃ、全員に軽蔑されるだろ? マーナならわかるんじゃないか」
「うーん。マーナのお父さん、マーナの事なんて全然みてくれなかったよ。
いっつもスマホしかみてなかったの。だからマーナもそれでいいんだって」
「そうか……子供としっかり向き合う事は大事なんだけど。そうだよな」
「何の話? スマホってなぁに?」
「ごめん。ファナにはわからない話だったな。俺がエイナを見てるから、食事を
済ませて少し体を動かして着たらどうだ?」
「うふふっ。早速優しいのね、ルインは。メルザはまだ寝てるの?」
「ああ。相変わらずだ。寝ている我が主は幸せそうだよ」
「そう。私も少しメルザを見て来てもいいかな? 昨日はサラとベルディアに
殆ど取られちゃったから」
「ああ。なんだかんだでいつも後ろに下がるのはファナの良いところだな。
ゆっくり懐かしんで来てくれ。エイナとここで待ってるから」

 ――ファナを待ってる間、エイナを抱っこしてよく観察する。
 本当にファナに似てる。これは美人になるだろう。
 手指反射もばっちり。健康そうで元気そうな赤ちゃんんでよかった。
 こういうのは前世で一通り勉強したな。覚えておいてよかった。
 首もまだすわってないから、慎重に扱わないと。

「ルインお兄ちゃんて、本当何でも出来るよねぇ。前世でも子供いたの?」
「いや、ずっと一人だったよ。誰にも迷惑を掛けたくないから一人で生きたかった。
でもそれが、間違いだって気付かされたんだ」
「そうなんだ。マーナだったら一人は嫌だよ。ずっと地下牢で一人だったんだもん。
寂しくて死んじゃいたかった。でも、そんな事できなかった。でも今はね。
お婿さんも出来て……」
「ぐっげほっごほっ……マーナ。ニーメと婚約したのか!?」
「うん! 見て、ほら!」

 ぬいぐるみの指にしっかりとはめられた指輪。
 これ、アーティファクトか!? ニーメ、凄いな……。
 
「よかったな、マーナ。どうにかマーナを人の姿に戻せてやれないものか……
この世界ならそういった力もあるかもしれない。調べるには……そうか! 
ジパルノグの町に図書館がある。交流が出来たら利用できるかもしれない。
少し嫌な思い出がある場所だが……お願いしておこう」
「本当? マーナ、本読むのも好きだよ。フェドラートさんっていう恰好いいけど
怖い先生が字の読み書きを教えてくれてたの」
「そうか……フェドラートさんが。有難いな。俺は一体どれほどの者に
お礼を言わなければならないのか……」

 しばらくマーナと話をしていた。
 戻って来たファナは、サラとベルディア、レミを連れて部屋に来る。
 結構時間がかかったが、どうしたんだろう? 

「皆お早う。子供たちはいいのか?」
「うん。私たち、ちゃんと伝えたい事があって。全員で話し合ったの」
「どうした? 俺にか?」

 何かやらかしたか? 全員出てくとかいわないよな……言われたら俺は
明日から放心状態で宙を見続ける人になりかねない。

「あのね。ルインはとっても忙しいでしょ。メルザの事もあるけど」
「主ちゃんも帰って来たばかりで大変だけど、主ちゃんはほんわかしてるし
強いから大丈夫だと思うの」
「私たち、邪魔したくないっしょ。少しは構って欲しいっていうのはみんなあるけど」
「レミちゃんは、アイドルとしてこの子を頑張って育てたい!」
『それは違う話でしょ!』
「うぅ、手厳しいよぅ……」
「それでね。子育ては私たちに任せて欲しいのよ。もちろんたまには見に来て欲しいけど。
後お金もいっぱい欲しいけど」
「そうそう、夫は稼ぐ。女は育てる! そして夫は妻が欲しがる好きなものを
買う!」
「私はそんなに欲しいもの無いっしょ」
「そんなわけだから、こっちは心配しないで! 立派なアイドルに育てる!」
「だが、それじゃ子供から何と言われるか……子育て放棄パパ! 何て
言われたら俺は膝から崩れ落ちるぞ……」
「そうならないように、たまに面倒見てくれる日を作ってね。
でも、お金は稼いでくれないと嫌よ?」
「その件なら心配ない。後ほどルジリトに確認するが、既に大量の資金が
手に入ったはずだ。俺のお金っていうより町全体で使うお金になるだろうけど」
「それはダメよ。ルインが稼いできて欲しいの。ちゃんと養ったって感じするでしょ?」
「う……確かに。わかった、それは確実にこなしておこう」
「町の運営資金はそんなに増えたのかしら?」
「ああ。何せシカリーとメイズオルガ卿双方の依頼をこなしたからな。
それ以外にもカッツェル、ロッドの町を含めた取引も行った。更にこれから
ジパルノグと雷城とも取引を行う。この町の資金源に関しては、相当なものに
なるはずだ。それらを用いてジャンカの村を町にまで発展させる予定なんだ」

 これは予定だが、確定でもある。
 ベッツェンが無くなった後、住むところを追われた者たちが、ジャンカの村
に集まり過ぎていて、既に家などが不足している。
 仮説的にモラコ族に穴を掘ってもらい、そちらに移住してもらっているが、到底
足りる者ではない。
 家を建てるのには資金が必要。
 家を建て、住んでもらう代わりに食糧生産などを手伝ってもらう。
 お金が無くても労働力があれば、それらで産まれたものを物流で流し、暮らしを
豊かに出来る。
 今のところはカッツェルの町への陸路を使用している。
 ここで一躍かったのが、まさかのエレギーたちだ。
 あいつら、なんだかんだで真面目に働くし、仲間思いだ。
 うまく事を運んでくれているらしい。

「それで、一応町の主だからと町に家を建ててくれる予定だ。
俺たちの住む家を」
「この個室から離れてみんな一緒で暮らすの?」
「その予定だ。まだ設計してくれてるだけだけど。後、ベビーシッター役も
募るつもりなんだけど……だれがいいか迷ってて。希望とかあるか?」
「それなら……」
「間違いなくいるわね」
「思い当たるのは一人っしょ」
「誰誰? レミちゃんわかんなーい」
『イビンよね』
「……満場一致……いやレミは良く知らないんだったな。わかった、頼んでみるよ。
それじゃ、行ってくる。今日はちゃんと帰って来るから」
『行ってらっしゃい!』

 温かく見送られた。毎朝こうやって見送られたら言う事ないんだろうけど。
 ……これからの事を考えればそうもいかない。
 さて、まずはどれから片づけるか。
 全員集めて挨拶も必要だ。
 ルジリトの報告が先か? 
 ……と考えていたら、歩き出して直ぐ、絡まれる。
 逃げたい。しかし回り込まれるのは目に見えている。

「あら、ようやく見つけましたわ。わたくしたち、探していましたのよ」
「まだいたのか、あんたたち。そろそろ戻った方がいいんじゃないのか」
「貴様! 我が君に対して不遜な口を! ……いや、改めねばならんのだった。
おい貴様、もう少し丁寧な言葉を使え。貴様が改めるなら私も改める」
「うん? どうしたんだ、急に」

 こいつは確か、俺をいきなり攻撃してきたベロアか。
 頬に傷がついてるな、こいつにも。まさか、アメーダが何かしたか。

「あのアメーダという女の言う事はもっともだ。私も反省している。
だからこそ貴様も言い方を改めよ! 主をけなすは部下として断じて許せん!」
「そういうことか。対等な接し方でよければそうする。非礼を詫びよう。雷帝の王、ベルベ
ディシア殿」
「オホホホ。私は細かい事は気にしませんわ。ただ……そうですわ、そうですわよ。
そうですわね。そうに違いないですわ! わたくしは断然あなたより強い!」
「ああ。その通りだろう。今はな」
「今は? では明日にはわたくしより強くなると?」
「明日では難しい。一か月でも難しいだろう。だが、越えられぬわけでは無い。
そう考えている。一つ……面白い企画を考えていてね。ベルベディシア殿の
配下の者も参加してみないか?」
「あら。何を考えているのかしら。あなたは中々面白い事を考えるようですから
気になりますわね」
「もうしばらく……一年数か月以上も先の話だが、闘技大会が催される。それに向けての前哨戦
武闘大会だよ」
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