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第五章 親愛なるものたちのために
第七百九十四話 盟約の主たち
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――全員解散したのを見送った後、泉から死霊族の町へと戻る。
すると……大きく美しい彫刻の施されたテーブルと椅子が泉前に並び立ち、既に皆皆皆、
着席してアメーダのもてなしを受けている。
まず中央に座っているのが……魂吸竜ギオマ。
今回の騒動の目玉だけど一体どこにいってたんだよギオマの兄貴!
傷は完治している。シュイオン先生に見てもらってたのか?
俺、ギオマは呼んでないんだけどな。
そして……久しぶりに見た。シカリーだ。
不機嫌そうな顔をしている。これは間違いなく不機嫌だ。
そして、メイズオルガ卿。
疲れ顔が少しとれている気がする。ルジリトの協力を得て、執務が落ち着いたのかもしれない。
傍らにコーネリウスが控えている。元気そうでよかった。
こちらを見て唯一微笑んでくれている。
そして、雷帝ベルベディシア。すぐそばには囲むようにして側近が二名。
きつい発言で俺を攻撃した緑色の雷を発する鎧を身に纏う者と、相槌を打つ
キャロットスカートが特徴の、ピンク色の雷服を身に着けたビローネ……だったか。
どちらも時折電流が走るような衝撃が起こってる。
俺が感じたこいつらに勝てないというのは、この雷が恐らく本物だと悟ったからだ。
俺も多少の雷撃を扱えるようになったが、そんなレベルじゃないだろう。
もう一名、テンガジュウというやつは、泉の前で腕立てをしてる。
こいつは一体何をやらされてるんだ?
「これで揃ったのかしら? もういないわね? 随分と盟約者が増えましたけど。
どうして死霊族の主までいるのかしら。おかしい。おかしいわよ。おかしいわね。
おかしいに違いないのですわ!」
「黙れ。魂吸竜の結界に勝手に入るなど、盟約を違えたのは貴様らの方だろう」
「盟約? わたくしはそのようなもの、結んでおりませんわ」
「ちっ。古参の絶魔王に聞かなかったのか」
「わたくし、関わり合いになりたくありませんわ」
「ルイン。勝手な魔王に目をつけられたな。それよりもこたびの事、感謝する」
「いえ、シカリーさん。俺にもいい経験になりましたよ。アメーダを預けてくれたおかげで
また一つ、成長出来た気がします。礼を言うのはこちらでしょう」
「そうか。ならばその礼に応えるためにもこの場をまとめる手助けもしてやろう」
「ふん。わたくしに死霊族の長を仕向けた所で無駄ですわね。ただ、対等な条件での
盟約を結ぶ事は許可しましたわ。それで? 何が望みなのかしら」
「ふぬゥ。我を攻撃しておいて、不遜な態度、もう許せぬぞォ!」
「おいギオマ。落ち着いてくれ。そういえばエルバノが土産に買った酒を
飲もうと探してたぞ。ルーンの町の方で。お前も早く行ってきたらどうだ」
「何ィ! 我を抜け駆けして酒盛りだとォ! 許せぬゥ!」
泉に勢いよく飛び込んでいくギオマ。一体ここで何しようとしてたんだ、あいつは。
「あれは何なのかしら? 何かの演技ですわね?」
「余興のようなものだ。さてルジリト……上手く説明してもらえるか?
メイズオルガ卿もよく聞いて欲しい」
「ああ。このような機会、そうそう設けられるものではない。有難い事だ」
「では、主ルインに代わり、このルジリトが僭越ながら盟約を取りまとめさせて
頂く。此度は雷帝殿が撃ち落とした竜により起こった出来事がきっかけで
このような場となりました。これはあくまできっかけでございます」
……最初から、うまいな。相手のせいにするのではなくきっかけか。
そう言えば相手に悪い印象を与えず不快にはさせない。
一方的に悪いのは向こうで間違いないんだけど。
しかも被害者であるギオマ、さっきいたんだけど。
「そうですわね。わたくしの雷撃一撃で黒焦げにならない竜がおかしいの。
でもね。その竜がリンでも、リンじゃなくてもどうでもいい。ここにリンがいるっていう
事実だけでいいのよ」
「ふむ。リンドヴルム殿は、既に我が主であるルイン殿を大層気に入っておられる。
故にルイン殿の許を去るつもりはございません」
「何ですって!? リンが……リンの主がこの、ルインという男だとでも言いたいの?
あり得ない。あり得ないのよ。あり得ないわね。あり得ないに違いないのだわ!」
「落ち着いてくだされ。リンドヴルム殿は我が主の町の施設を気に入っているのでございます。
その施設無しにはもう生きられようはずもない。そして、その施設は彼の町にしか
無いのです。雷帝殿がこの町をどうにかしようとするそれ即ち、リンドヴルム殿が無くては
生きられない施設そのものを破壊してしまうということになり……」
「そんな……わたくしはリンのために……わたくしがリンを破壊……そんな」
「おい、突っ込み役二人。暴走してるぞ、突っ込んでやれ」
「お姉様しっかりして! 違うわ!」
「我が君! まだ何も破壊しておりませぬ! これからの事でございます!」
「テンガジュウ。破壊されなさい」
「いや、だから破壊しないんじゃないのか!?」
ここまでは順調。さすがはルジリトだ。俺には到底頭が回らない方向に
話を持っていった。
「それでですな。雷帝殿がそこまでリンドヴルム殿を可愛がっておられるなら、リンド
ヴルム殿が喜ぶ施設を共同で造るというのはどうでございましょう? こちらにはそれを
提供する知識がある。材料はメイズオルガ卿の町から購入して頂く。それを雷城に作れば
リンドヴルム殿もそちらへ遊びに行くのではないかと」
「すぐ用意するわ。ただちに。今すぐに。三秒でテンガジュウが造るわ」
「出来るわけないだろ!? 三秒って。もう経過したぞ?」
「くっ。またテンガジュウめが不始末を」
「いや、どう考えても無理だろ……」
「仕方ありませんわ。わたくしが造ります……」
「あんたが造るの、もっと無理だろ!」
くそ、少し話を逸らされた。あちらのペースだ。
ルジリトも汗をかいている。巻き返されたに違いない。
……いや、違う汗に見えてきた。
「こほん。もし雷城に案内してもらえれば、我々の職人が造って差し上げましょう。
その代わり……こちらの条件を四つ、飲んで頂きたい」
「内容によるわね。飲めない条件もありますわ」
「……といいますと?」
「わたくしはね。ただただ遊びで竜を狩っているだけじゃありませんわ。
数が増えすぎているのですわ。竜の」
「ちっ。お前も気付いていたのか」
「あら。死霊族の長も知っていたのかしら。奇遇ですわね」
「だが飛竜種だけを撃ち落としても意味がないだろう。地上のを狩らない道理が無い」
「そちらはテンガジュウやビローネたちにも狩らせてますわ」
「ふん。どうだかな」
「つまり、増えすぎた竜種を減らす目的で撃ち落としていると?」
「そうですわね。そうしないと均衡が保たれませんわ」
「……ルイン。本来は神の仕事だ。何か思い当たる節はないか? 絶対神イネービュと
深く語り合っているだろう?」
そう言われてもな……絶対神イネービュと話したのだって久しぶりだった。
竜……竜。何か思い当たる節があったような……。
「あ……一つあった。アースガルズでオズワル伯爵の下へ向かう途中だ。
地竜アビシャフトっていう竜種が大量に襲って来た。シフティス大陸が厳しい大陸だって
認識だったから、それが普通だと思ってたんだけど」
「そいつを先導してたものがいたはずだ」
「ロキの仕業か……」
「ふうん。神の仕業ですの。くだらないですわね。わたくしの相手では無いわ」
「……話をさえぎったな。続けてくれ」
「では……飲める条件かは判断して頂いて結構。まず一つ目。ジパルノグ統治国、アースガルズ
帝国、死霊族の町、ルーンの町、そして雷城における不戦密約。こちらは絶対に飲んで
頂きたい条件でございます」
「いいですわ。わたくしはそもそも、何処にも攻め入るつもりはありませんもの」
よく言う。問答無用で攻めてきたってのに……。
「では次に、国家間物流取引。主に特産品となるものを交換出来る場を設けたいと
考えております。場所はここ、死霊族の町」
「待て。つまり結界を解放するという事か」
「はい、シカリー殿。ギオマ殿が復活された今、ここは解放すべきだとギオマ殿が仰って
おりました故」
「そうか……ならば良い。奴との盟約は完了ということにする」
「有難うございます。こちらはいかがでしょうか?」
「それはつまり、この食べている菓子……これも仕入れられるということかしら」
「そちらのメリンは、主であるルイン殿が考案された物。お気に召しましたか?」
「あなたが考えたですって? 見かけに寄らずいい感性をもっているのですわね。
いいですわ。その話も飲みましょう」
「それについては私からもいいかね、ルジリト殿」
「はい。メイズオルガ卿。いかがなさいましたか?」
「現在我が国の内情を知る者なら理解している者もいると思うが、多くの物資が不足している。
こちらから提供出来る物が多くはない。廃鉱山に巣くうモンスター退治に難儀している所でね。
こちらをルイン殿の手の者に協力を頂いている所だ。こちらがい解決すれば再び廃鉱山から資源を
得られる。これは協力頂いた国のみ、鉱掘の取引をすべきと考えている。何せ貴重な高掘資源が
取れた場所なのでね」
「命真水の場所に作ったあの場所か。確かにあの地は命真水の影響を強く受けた鉱石が取れた
はずだ。いいだろう。我が死霊族からも手伝いを向かわせる」
「あら。抜け駆けされるのは嫌いですわ。テンガジュウ。行きなさい」
「ええ? 俺がか? いいけどよ」
「我が君! 今度こそ、今度こそこのベロアめに!」
「私はちょっと嫌だなぁ……」
あれ、珍しく意見が割れたぞ。こうなったらどうなるんだ?
「……いいですわ。ベロアに任せますわ」
「御意」
そうか。こいつら意見が割れると、言い出した奴に任せるのか。
……毎回意見、割れてくれないかな。
「それではベロア殿、それから死霊族の者とルイン殿の下からお力を借りましょう。
ここにいないジパルノグの方は誰か聞ける者が?」
「はい。まだ町に着いたばかりで休んでもらっていますが、統治する者の一名、ランスロット
さんが町にいるので、後ほど俺から話を通しておきます。必ず引き受けてくれるでしょう」
……メイズオルガ卿。抜かりないところはさすがだ。
国益を第一に考えての発言。内情を晒しつつも強みも見せる。
こういった部分は、俺も見習っていかないとならない。
「ではこの話もまとまりましたので、次に。救援に関する項目でございます。こちらは
判断が難しいところでありますが、互いの国が危険な状態である時、動ける者を遣わして
救援を受けられるようにと考えております」
「それは嫌よ。なぜわたくしがあなたたちの国を救わないといけないのかしら」
「それはこちらも同じだ。絶魔王への肩入れは他の絶魔王を挑発しかねん。
避けるべきだろう」
確かに直接加担したとなればまずいが……あれ、プリマが珍しく何か言いたそうだな。
喋ってもいいぞと言うように、頭に手をおいてやる。
「少しの人数で手伝いにいくくらい問題ないんだろ? 一人とか二人だけだって
強い奴連れて行けばいいじゃんか。プリマが出てけば西の方なら一人でだって解決できる」
「ほう。プリマ。お前がそんな事を言うようになるとは思わなかったぞ」
「うるさい! シカリーにだけは言われたくないぞ!」
「プリマの言うことはもっともだ。そっちの……テンガジュウとかだけに
救援に行かせる事だって出来るんじゃないのか?」
そう言われ、ベルベディシアは思案する。
「そうですわね……テンガジュウ。救援に行きなさい」
「……今行っても仕方ないだろ」
「テンガジュウよりこのベロアめに!」
「お姉様。私が! ビローネが!」
「お前が行くっていうなよ……?」
「いいですわ……わたくしが行……わかりましたわ。いいでしょう。少人数であるなら
許可しましょう」
「では最後に……国家間の絆を深める、或いはこういった新たな決定事項を再度決議する
場合、互いに連絡を取り合い、リンドヴルム殿を呼んだ上、この死霊族の町で会合を
開きたいと……」
「当然許可しますわ!」
上手すぎる。その条件を飲まないはずがない。
最後に一番断られそうなものをあっさりと引き受けさせたルジリト。
軍師ってのはやっぱり、必要なんだろうな……。
すると……大きく美しい彫刻の施されたテーブルと椅子が泉前に並び立ち、既に皆皆皆、
着席してアメーダのもてなしを受けている。
まず中央に座っているのが……魂吸竜ギオマ。
今回の騒動の目玉だけど一体どこにいってたんだよギオマの兄貴!
傷は完治している。シュイオン先生に見てもらってたのか?
俺、ギオマは呼んでないんだけどな。
そして……久しぶりに見た。シカリーだ。
不機嫌そうな顔をしている。これは間違いなく不機嫌だ。
そして、メイズオルガ卿。
疲れ顔が少しとれている気がする。ルジリトの協力を得て、執務が落ち着いたのかもしれない。
傍らにコーネリウスが控えている。元気そうでよかった。
こちらを見て唯一微笑んでくれている。
そして、雷帝ベルベディシア。すぐそばには囲むようにして側近が二名。
きつい発言で俺を攻撃した緑色の雷を発する鎧を身に纏う者と、相槌を打つ
キャロットスカートが特徴の、ピンク色の雷服を身に着けたビローネ……だったか。
どちらも時折電流が走るような衝撃が起こってる。
俺が感じたこいつらに勝てないというのは、この雷が恐らく本物だと悟ったからだ。
俺も多少の雷撃を扱えるようになったが、そんなレベルじゃないだろう。
もう一名、テンガジュウというやつは、泉の前で腕立てをしてる。
こいつは一体何をやらされてるんだ?
「これで揃ったのかしら? もういないわね? 随分と盟約者が増えましたけど。
どうして死霊族の主までいるのかしら。おかしい。おかしいわよ。おかしいわね。
おかしいに違いないのですわ!」
「黙れ。魂吸竜の結界に勝手に入るなど、盟約を違えたのは貴様らの方だろう」
「盟約? わたくしはそのようなもの、結んでおりませんわ」
「ちっ。古参の絶魔王に聞かなかったのか」
「わたくし、関わり合いになりたくありませんわ」
「ルイン。勝手な魔王に目をつけられたな。それよりもこたびの事、感謝する」
「いえ、シカリーさん。俺にもいい経験になりましたよ。アメーダを預けてくれたおかげで
また一つ、成長出来た気がします。礼を言うのはこちらでしょう」
「そうか。ならばその礼に応えるためにもこの場をまとめる手助けもしてやろう」
「ふん。わたくしに死霊族の長を仕向けた所で無駄ですわね。ただ、対等な条件での
盟約を結ぶ事は許可しましたわ。それで? 何が望みなのかしら」
「ふぬゥ。我を攻撃しておいて、不遜な態度、もう許せぬぞォ!」
「おいギオマ。落ち着いてくれ。そういえばエルバノが土産に買った酒を
飲もうと探してたぞ。ルーンの町の方で。お前も早く行ってきたらどうだ」
「何ィ! 我を抜け駆けして酒盛りだとォ! 許せぬゥ!」
泉に勢いよく飛び込んでいくギオマ。一体ここで何しようとしてたんだ、あいつは。
「あれは何なのかしら? 何かの演技ですわね?」
「余興のようなものだ。さてルジリト……上手く説明してもらえるか?
メイズオルガ卿もよく聞いて欲しい」
「ああ。このような機会、そうそう設けられるものではない。有難い事だ」
「では、主ルインに代わり、このルジリトが僭越ながら盟約を取りまとめさせて
頂く。此度は雷帝殿が撃ち落とした竜により起こった出来事がきっかけで
このような場となりました。これはあくまできっかけでございます」
……最初から、うまいな。相手のせいにするのではなくきっかけか。
そう言えば相手に悪い印象を与えず不快にはさせない。
一方的に悪いのは向こうで間違いないんだけど。
しかも被害者であるギオマ、さっきいたんだけど。
「そうですわね。わたくしの雷撃一撃で黒焦げにならない竜がおかしいの。
でもね。その竜がリンでも、リンじゃなくてもどうでもいい。ここにリンがいるっていう
事実だけでいいのよ」
「ふむ。リンドヴルム殿は、既に我が主であるルイン殿を大層気に入っておられる。
故にルイン殿の許を去るつもりはございません」
「何ですって!? リンが……リンの主がこの、ルインという男だとでも言いたいの?
あり得ない。あり得ないのよ。あり得ないわね。あり得ないに違いないのだわ!」
「落ち着いてくだされ。リンドヴルム殿は我が主の町の施設を気に入っているのでございます。
その施設無しにはもう生きられようはずもない。そして、その施設は彼の町にしか
無いのです。雷帝殿がこの町をどうにかしようとするそれ即ち、リンドヴルム殿が無くては
生きられない施設そのものを破壊してしまうということになり……」
「そんな……わたくしはリンのために……わたくしがリンを破壊……そんな」
「おい、突っ込み役二人。暴走してるぞ、突っ込んでやれ」
「お姉様しっかりして! 違うわ!」
「我が君! まだ何も破壊しておりませぬ! これからの事でございます!」
「テンガジュウ。破壊されなさい」
「いや、だから破壊しないんじゃないのか!?」
ここまでは順調。さすがはルジリトだ。俺には到底頭が回らない方向に
話を持っていった。
「それでですな。雷帝殿がそこまでリンドヴルム殿を可愛がっておられるなら、リンド
ヴルム殿が喜ぶ施設を共同で造るというのはどうでございましょう? こちらにはそれを
提供する知識がある。材料はメイズオルガ卿の町から購入して頂く。それを雷城に作れば
リンドヴルム殿もそちらへ遊びに行くのではないかと」
「すぐ用意するわ。ただちに。今すぐに。三秒でテンガジュウが造るわ」
「出来るわけないだろ!? 三秒って。もう経過したぞ?」
「くっ。またテンガジュウめが不始末を」
「いや、どう考えても無理だろ……」
「仕方ありませんわ。わたくしが造ります……」
「あんたが造るの、もっと無理だろ!」
くそ、少し話を逸らされた。あちらのペースだ。
ルジリトも汗をかいている。巻き返されたに違いない。
……いや、違う汗に見えてきた。
「こほん。もし雷城に案内してもらえれば、我々の職人が造って差し上げましょう。
その代わり……こちらの条件を四つ、飲んで頂きたい」
「内容によるわね。飲めない条件もありますわ」
「……といいますと?」
「わたくしはね。ただただ遊びで竜を狩っているだけじゃありませんわ。
数が増えすぎているのですわ。竜の」
「ちっ。お前も気付いていたのか」
「あら。死霊族の長も知っていたのかしら。奇遇ですわね」
「だが飛竜種だけを撃ち落としても意味がないだろう。地上のを狩らない道理が無い」
「そちらはテンガジュウやビローネたちにも狩らせてますわ」
「ふん。どうだかな」
「つまり、増えすぎた竜種を減らす目的で撃ち落としていると?」
「そうですわね。そうしないと均衡が保たれませんわ」
「……ルイン。本来は神の仕事だ。何か思い当たる節はないか? 絶対神イネービュと
深く語り合っているだろう?」
そう言われてもな……絶対神イネービュと話したのだって久しぶりだった。
竜……竜。何か思い当たる節があったような……。
「あ……一つあった。アースガルズでオズワル伯爵の下へ向かう途中だ。
地竜アビシャフトっていう竜種が大量に襲って来た。シフティス大陸が厳しい大陸だって
認識だったから、それが普通だと思ってたんだけど」
「そいつを先導してたものがいたはずだ」
「ロキの仕業か……」
「ふうん。神の仕業ですの。くだらないですわね。わたくしの相手では無いわ」
「……話をさえぎったな。続けてくれ」
「では……飲める条件かは判断して頂いて結構。まず一つ目。ジパルノグ統治国、アースガルズ
帝国、死霊族の町、ルーンの町、そして雷城における不戦密約。こちらは絶対に飲んで
頂きたい条件でございます」
「いいですわ。わたくしはそもそも、何処にも攻め入るつもりはありませんもの」
よく言う。問答無用で攻めてきたってのに……。
「では次に、国家間物流取引。主に特産品となるものを交換出来る場を設けたいと
考えております。場所はここ、死霊族の町」
「待て。つまり結界を解放するという事か」
「はい、シカリー殿。ギオマ殿が復活された今、ここは解放すべきだとギオマ殿が仰って
おりました故」
「そうか……ならば良い。奴との盟約は完了ということにする」
「有難うございます。こちらはいかがでしょうか?」
「それはつまり、この食べている菓子……これも仕入れられるということかしら」
「そちらのメリンは、主であるルイン殿が考案された物。お気に召しましたか?」
「あなたが考えたですって? 見かけに寄らずいい感性をもっているのですわね。
いいですわ。その話も飲みましょう」
「それについては私からもいいかね、ルジリト殿」
「はい。メイズオルガ卿。いかがなさいましたか?」
「現在我が国の内情を知る者なら理解している者もいると思うが、多くの物資が不足している。
こちらから提供出来る物が多くはない。廃鉱山に巣くうモンスター退治に難儀している所でね。
こちらをルイン殿の手の者に協力を頂いている所だ。こちらがい解決すれば再び廃鉱山から資源を
得られる。これは協力頂いた国のみ、鉱掘の取引をすべきと考えている。何せ貴重な高掘資源が
取れた場所なのでね」
「命真水の場所に作ったあの場所か。確かにあの地は命真水の影響を強く受けた鉱石が取れた
はずだ。いいだろう。我が死霊族からも手伝いを向かわせる」
「あら。抜け駆けされるのは嫌いですわ。テンガジュウ。行きなさい」
「ええ? 俺がか? いいけどよ」
「我が君! 今度こそ、今度こそこのベロアめに!」
「私はちょっと嫌だなぁ……」
あれ、珍しく意見が割れたぞ。こうなったらどうなるんだ?
「……いいですわ。ベロアに任せますわ」
「御意」
そうか。こいつら意見が割れると、言い出した奴に任せるのか。
……毎回意見、割れてくれないかな。
「それではベロア殿、それから死霊族の者とルイン殿の下からお力を借りましょう。
ここにいないジパルノグの方は誰か聞ける者が?」
「はい。まだ町に着いたばかりで休んでもらっていますが、統治する者の一名、ランスロット
さんが町にいるので、後ほど俺から話を通しておきます。必ず引き受けてくれるでしょう」
……メイズオルガ卿。抜かりないところはさすがだ。
国益を第一に考えての発言。内情を晒しつつも強みも見せる。
こういった部分は、俺も見習っていかないとならない。
「ではこの話もまとまりましたので、次に。救援に関する項目でございます。こちらは
判断が難しいところでありますが、互いの国が危険な状態である時、動ける者を遣わして
救援を受けられるようにと考えております」
「それは嫌よ。なぜわたくしがあなたたちの国を救わないといけないのかしら」
「それはこちらも同じだ。絶魔王への肩入れは他の絶魔王を挑発しかねん。
避けるべきだろう」
確かに直接加担したとなればまずいが……あれ、プリマが珍しく何か言いたそうだな。
喋ってもいいぞと言うように、頭に手をおいてやる。
「少しの人数で手伝いにいくくらい問題ないんだろ? 一人とか二人だけだって
強い奴連れて行けばいいじゃんか。プリマが出てけば西の方なら一人でだって解決できる」
「ほう。プリマ。お前がそんな事を言うようになるとは思わなかったぞ」
「うるさい! シカリーにだけは言われたくないぞ!」
「プリマの言うことはもっともだ。そっちの……テンガジュウとかだけに
救援に行かせる事だって出来るんじゃないのか?」
そう言われ、ベルベディシアは思案する。
「そうですわね……テンガジュウ。救援に行きなさい」
「……今行っても仕方ないだろ」
「テンガジュウよりこのベロアめに!」
「お姉様。私が! ビローネが!」
「お前が行くっていうなよ……?」
「いいですわ……わたくしが行……わかりましたわ。いいでしょう。少人数であるなら
許可しましょう」
「では最後に……国家間の絆を深める、或いはこういった新たな決定事項を再度決議する
場合、互いに連絡を取り合い、リンドヴルム殿を呼んだ上、この死霊族の町で会合を
開きたいと……」
「当然許可しますわ!」
上手すぎる。その条件を飲まないはずがない。
最後に一番断られそうなものをあっさりと引き受けさせたルジリト。
軍師ってのはやっぱり、必要なんだろうな……。
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