異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

文字の大きさ
上 下
868 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百八十二話 赤文字の道

しおりを挟む
 ギオマの背に乗った俺たちは、快適な空の旅を期待していた。
 距離としてはそこそこ。ギオマにとってはひとっとびなのだろう。
 紅葉洞に向かってもらった時よりは、大きいサイズに見えるギオマ。
 大きさを調節するのは難しいらしいのだが、大きければ大きい程ギオマにとっては
楽なようだ。
 グレンさんは腰を抜かしながらも、ギオマに乗って空を飛ぶことに感激している。

「まさか、竜の背に乗って空を飛ぶ日がこようとは思わなかった。レオに自慢しよう」
「おじさんって凄かったの。モジョコは知らなかったの」
「伝説の竜の背に乗って、伝説の鉱石を探しに行く……悪くない、むしろ凄くいい!」
「君たち。落ち着きなさい。こういう時は感嘆の声に留めておくのが良いものだ」
「さすがに冷静すぎやしませんか、ランスロットさん……いや、それも経験則から
なんですね、きっと」

 一人落ち着きを払い、景色を堪能しているランスロットさん。
 グレンさんはおじい様と呼んでいるが、見た目ほど老人ではないように思える。
 髪も整え腰も曲がっておらず、鋭い眼光は健在だ。
 最前線で働くと、意欲的なものが違うのだろう。

「グッハッハッハァ! 当然であろうがァ。誰の背に乗っていると思うておるのだァ。
貴様らが乗っているのは魂吸竜ギオマァアアアアア!」

 突然の事だった。ギオマが咆哮したのかと思ったが、突如として一筋の雷撃が
ギオマの翼を撃ち抜いた! 
 放たれたのは、間違いなくあの雷が降りしきる方角からだ! 

「おいギオマ! 大丈夫か!? げげっ……落ちてる、落ちてる落ちてる!」
「キャアアアアアアアアアアアアアア!」
「あーーーーー、まだ死にたくないーーー! お嫁に、お嫁にーー!」
「これはまずいようだね」

 ギオマは耐えられず落下し、人型へと戻っていく。
 嘘だろ……このままじゃ全員死……なせるわけない! 
 頼むぞ。「キュピィ?」なんて可愛らしく出てくれるなよ! 

「トウマ! 頼む!」

 俺は急いでドラゴントウマを封印から呼び出した。
 地面に巨大な竜のトウマさんが登場してくれる。
 ……本当、いつも助かってます。領域に戻ったらよく洗ってやるぞ、トウマ。
 もしベルトまでパモに預けてたら本当お陀仏だったかもしれない。

「下にも竜!? もう終わりだ!」
「あの竜、なんで突然……動かないから死んでる?」
「これは驚いたね。ルイン君にはまだ隠された秘密があるようだ」

 驚くのはごもっともです。ゆっくり説明してびっくりさせないように
したかったんだけど。
 こんなでかい竜を俺が呼び出したなんて知れたらそれこそ大ごとだよ。
 他にもエルバノやらプリマやらも同行中ですなんて言ったら、ドン引きされるのは
間違いないだろう。
 着地はグレンさんがモジョコを、ランスロットさんがカーィを、俺がギオマを抱えて
トウマへと着地した。
 こんなところ誰かに見られたらまずいので、直ぐにトウマを封印に戻す。

 それはおいておいて……「おいギオマ! 大丈夫か?」
「グヌウウウウウウ! 許せぬゥ! あの洟垂れ娘のいたずらに違いないぞォ! 
許せぬゥ! 噛み砕いてくれるわァ!」
「落ち着けって。傷は痛むか? 急いで戻って治療しよう。片腕が酷い状態じゃないか」
「グヌゥ。我には痛みなど無いわァ。しかしこの状態、飛ぶこともままならぬゥ。
おのれェ……」
「あれは間違いなく雷城からの攻撃だろう。ベルベディシアの逆鱗に触れたか……この
位置まで攻撃してくるとは。やはり……均衡は保たれていないようだ」
「本当に空から向かおうとすると、撃ち落とされるのか……おじい様、これは
町にも警告しておいた方がいいかもしれません」
「幸い落下したのが紅葉洞まで遠くない位置だ。急ぎレオに手紙を書かせよう」
「ギオマは俺が担いでいく。グレンさん。モジョコをお願い……するまでもないな」

 ギオマから落下するとき、一早くモジョコに手を伸ばしたのだが、グレンさんが
あっという間に抱えてかばっていた。俺より速い! と一瞬怯んだ程だ。
 ちなみにちいさいスライム、コラムは頭飾りのようにモジョコの頭に乗っていたり
肩に乗っていたり服に入ったりして片時も離れていない。
 あのサイズのスライム、俺も欲しいな……どう見ても珍種だ。

 ギオマを担ぎ上げ、全員その場から移動を開始する。紅葉洞が近いのはわかるが、モン
スターに襲われたら……いやいや、ランスロットさんがいるんだった。
 この人の力は間違いなく本物だろう。
 ……と考えていたら「少し疲れてしまうが、事態が事態なだけに急ぐとしよう。
紅葉洞には傷薬もあるはずだ。ギオマさんの容体が悪化するといけない」

 紅葉洞方面へ向け手をかざすランスロットさん。
 一体何をするつもりだろう。

「我を導け、通れぬ道などいらぬ。アドミムの力を見よ!」

 すると……赤い文字の紋様がランスロットさんの手に集約され、ランスロットさんが地面に
両手のひらをつける。すると……文字が前へ前へ流れる川のように動き、ランスロット
さんの正面は 文字の川となった。
 これはまさか……動く歩道のようなものか!? 
 ランスロットさんは頷くと、グレンさんは経験済みなのか、その場所に真っ先に
足を踏み入れる。
 すると――グレンさんは歩かずにそのまま移動していく。
 何これ……凄すぎだろう。岩の上まで伝う文字があるってことは……。

「さぁ急いでくれ。長く継続出来る力ではない」

 急いで俺とカーィもそれに乗ると、最後にランスロットさん自身も続いた。
 ……この力は確かに強力だ。集団を容易く避難させられるし、物を運ぶのにも便利だ。
 だが、ランスロットさんは疲れるといっていた。
 相当な労力を要する力か……。

 岩を飛び越え、段差もものともせずにすいすいと移動していき、あっという間に
紅葉洞前まで到着してしまう。
 アドミムの力を解いたランスロットさんは、少し汗をかきつつも、苦笑している。

「この人数を運ぶだけで疲れるとは、私も少しなまっているようだ」

 十分過ぎるくらい助かった。俺たちが来たことで、入り口を見張っていた人たちが
こちらに駆け寄って来る。

「ランスロット総督!? それにグレンさんまで! おい、レオ殿に知らせろ」

 急いでレオさんを呼びに行く見張りの人。
 この人たちが裸でテントにこもっていた人たちか? 
 いや、何も言うまい。俺は何も見ていないのだから。
 
 ――直ぐにレオさんが走ってくる。
 そもそもここに来る予定だったんだけど、大幅に狂ってしまった。
 まずはギオマを見てやらないと。

「ギオマ殿!? 酷い怪我です。大丈夫ですか? あのお強いギオマ殿がそんな
怪我をなぜ……いやいや、それよりも、マーグ先生がいます。急いで診てもらって
ください」
「マーグ先生がここに?」
「はい。他の者をテントに入れっぱなしだったので、体調不良を引き起こしている者が
いるだろうとお呼びしておいたのです」
「それは有難い。先生ならしっかり診てもらえるだろう」
「我に医者など不要だァ……ウグッ」
「無理すんな。痛いもんは痛いだろ」

 ――やせ我慢を言うギオマを担いで、直ぐに先生の下へと向かう。
 俺の来訪に先生も驚いていたが、ギオマを見て直ぐに診察してくれた。

「これは……うむ。ルイン君だったね。君意外は人払いを」
「はい……皆ちょっとだけ外してくれるか?」

 そう言うと、全員気を遣って外に出てくれる。

「彼の体は普通じゃないね」
「ええ……ホムンクルスです」
「そうか……いや、皆まで言うまい。我々人間においては禁忌とされるものだ。
君は魔族なのだろう? 診察した時には既にわかっていた」
「そうだったんですか……秘密にしていてくれたんですね……」
「患者の秘密を漏らすような事は医者としてするはずがない。この体は徐々に
だが、戻り始めている。だが、痛みは伴うようだね」
「痛覚自体はしっかりとあるんですか?」
「ああ。再生能力が尋常ではない。君の体も恐らくそうなのではないか? 魔族に流れる
血液は、人のそれとは異なる」
「そういえば、結構血を流しても平気でいられますね。先生は信じるかどうか
わかりませんが、俺は元々人だったんです」
「それは魔族覚醒が起こったということかね?」
「いえ。一度死んで……転生したと言えばいいでしょうか」
「ふうむ。そうすると神の力の類かね。何れにしても、患者が健康であれば
私はそれで構わんよ。医者を長く続ければ、色々なものを診てくるからね。
ギオマ君には注射をして……」
「我は注射などいらぬゥ! もうじき傷は治るのだァ!」
「おい。一応打っておけって」
「そういって我を眠らせるつもりだなァ! もう騙されぬぞォ!」
「何言ってんだ、お前。昔何かあったのか? あ……ギオマ。ちょっとこれ
見てくれ」

 先生が注射針をギオマに刺そうとしているのが見えたので、俺はギオマの視線を
違う方向に誘導して見せた。
 先生もそれに気づいたのか、さっとぶっ刺して処理する。
 ……やるな、先生。
 マーグ先生と華麗に連携プレイを決めたみたいだ。

「ぐわっ! ちくっとしたァ! 何をするゥ! 己ルイン。図ったなァ!」
「はいはいこういうのはちゃっちゃと済ませる方がいいんだって」
「はっはっは。君たちは仲が良くていいね。それにしてもルイン君とは縁がある。
私はこれから町に戻るが、また何かあったら来てくれよ」
「ええ。マーグ先生、お金は?」
「今日はいい。薬も余り分だ。珍しいものを見せてもらったからな。ではね、ギオマ君。
あまり無茶はしすぎないように」
「ギオマ君だとォ。この魂吸竜ギオマに向かってェ!」
「こらギオマ。心配して診てくれたんだ。礼は言うべきだろ」
「グヌゥ。我は礼儀を重んじる竜だァ。礼は言う。すまぬなァ。人間よォ」

 こういうところは結構しおらしいんだよな。
 俺もギオマと一緒に礼を告げる。
 ギオマは痛みが引いたのか、自分でもう歩けるという。
 本当に驚異的な回復力だな。さっき先生が打ってくれたのは痛み止めも含まれてた
のかな? 

 ――治療した場所から外へ出ると、皆心配そうに待っていた。
 レオ殿がナチュカーブを用意してくれていたので、俺たちは紅葉洞から
ナチュカーブに乗って、死霊族の住まう場所へと再び旅立っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める

シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。 メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。 しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

職種がら目立つの自重してた幕末の人斬りが、異世界行ったらとんでもない事となりました

飼猫タマ
ファンタジー
幕末最強の人斬りが、異世界転移。 令和日本人なら、誰しも知ってる異世界お約束を何も知らなくて、毎度、悪戦苦闘。 しかし、並々ならぬ人斬りスキルで、逆境を力技で捩じ伏せちゃう物語。 『骨から始まる異世界転生』の続き。

処理中です...