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第五章 親愛なるものたちのために
第七百七十七話 日記の終わり
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ボロボロの日記には、更に驚くような内容が書かれていた。
――シフティス歴五三互四年。
ついに父上から伝書を読み解く許可を頂いた。
覚悟について尋ねられたが、答えるまでも無い。
……私は命真水に血を垂らし、それを飲み干した。
早く伝書を読み解きたいが、夜に部屋の中一人で読むようにと告げられる。
それもそうだ。誰かに読まれでもしたら大変だし、伝書を読んでいる最中
邪魔をされるのは好ましくない。
楽しみすぎて、その日の仕事はてにつかなかった。
……気持ちはわかる。だが、あの内容は人が大勢いるようなところで読み解くものでは
なかったな。
まだ続きがある。読んでみよう。
……伝書の力はマダバというらしい。一文字ずつ読んでいくと、それが体に
吸い込まれていくように無くなっていく。
最後の終わりを読み上げると、伝書は塵となって書き消えてしまった。
不思議なものだ。一体どのように作られたのだろうか。私には想像もつかない。
しかし、これでようやく念願の力が手に入ったはずだ。
本日の日記を書き終えたら、父上と手合わせする事になっている。
今から楽しみだ。
……あれ? 俺とは全然違う状況だ。同じなのは最後の終わりを読んだ所くらいか?
伝書一つ一つ、それぞれ違うのだろうか。
残る頁は少ない。続きを読もう。
私の力。それは、新約のものだろうということだった。
正直、がっかりだ。この力は対象に文字を飛ばして、目を晦ます効果があるという。
父上は、伝書の力は使いようによってとてつもない力を発揮するという。
だが、私の調べた限りでは、新約にそれまでの力があるとは思えない。
私は決意した。より力の強い伝書を求めて旅立つと。
相手の目を晦ませるだけでは、この先戦ってはいけないだろう。
父上ならきっと、わかってくれるはずだ。
……予想していた力とは違い、さらに精進することを考えず別の力を?
これは……よくないだろう。
昔師匠にも言われた。力に頼るんじゃねえ。己の未熟さを疑え。
どんな力でもてめえの力量が低けりゃ振り回されてるのと一緒だぜ……って。
俺なら、目を晦ませる力なんてとても怖い力だと思う。
暗闇の中生きてきた俺にとってみれば、誰しもが恐れる力なんじゃないのか?
……そして日記は最後の一頁。最後まで、読んでみよう。
……父上に猛反発された。そして厳しい説教を受けた。
父上にはわからないのだ。強い伝書の力を得た父上には。
あれほどの力があれば、私も新たな伝書の力を欲したりはしない。
必ず手に入れてみせる。それまではジパルノグへ戻る事はないだろう。
旅にはリオネも同行してもらおう。置いていっては悲しませてしまう。
善は急げだ。夜明けには旅立つとしよう。
そして戻って来たら直ぐ、この日記に綴るのだ。
私の新たな伝書についてを。
今から楽しみで仕方がない。
まずは北を目指し、交友がある魔族と交渉してみよう。
……日揮はここで終わっていた。
そして、ランスロットさんは息子を失っていた。
この人は……帰らなかったのだろう。
もし伝書の力を信じて己を磨いていれば……生きていたのでは
ないだろうか。
そしてきっと、ランスロットさんも後悔しているのかもしれない。
息子にただ反対するのではなく、導いてやるべきだったと。
だが、全ては過ぎてしまった事。
悔い改めようとも、亡き息子は戻ってはこないのだから。
日記をそっと元の場所へ戻すと、体の状態を確かめる。
……十分体力は回復した。眠気もない。
やはりあれは夢だったのかもしれない。
いや、夢であろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。
あの時のアルカイオスの青年の顔は、しっかりと覚えている。
――どんな思いであの場所にいたのだろう。
どのように生き、どのように暮らしていたのだろう。
その力、必ず俺が思う正しき道として、使いこなしてみせるよ。
そう心に誓って、胸の前で左手の拳を強く握り締めた。
――シフティス歴五三互四年。
ついに父上から伝書を読み解く許可を頂いた。
覚悟について尋ねられたが、答えるまでも無い。
……私は命真水に血を垂らし、それを飲み干した。
早く伝書を読み解きたいが、夜に部屋の中一人で読むようにと告げられる。
それもそうだ。誰かに読まれでもしたら大変だし、伝書を読んでいる最中
邪魔をされるのは好ましくない。
楽しみすぎて、その日の仕事はてにつかなかった。
……気持ちはわかる。だが、あの内容は人が大勢いるようなところで読み解くものでは
なかったな。
まだ続きがある。読んでみよう。
……伝書の力はマダバというらしい。一文字ずつ読んでいくと、それが体に
吸い込まれていくように無くなっていく。
最後の終わりを読み上げると、伝書は塵となって書き消えてしまった。
不思議なものだ。一体どのように作られたのだろうか。私には想像もつかない。
しかし、これでようやく念願の力が手に入ったはずだ。
本日の日記を書き終えたら、父上と手合わせする事になっている。
今から楽しみだ。
……あれ? 俺とは全然違う状況だ。同じなのは最後の終わりを読んだ所くらいか?
伝書一つ一つ、それぞれ違うのだろうか。
残る頁は少ない。続きを読もう。
私の力。それは、新約のものだろうということだった。
正直、がっかりだ。この力は対象に文字を飛ばして、目を晦ます効果があるという。
父上は、伝書の力は使いようによってとてつもない力を発揮するという。
だが、私の調べた限りでは、新約にそれまでの力があるとは思えない。
私は決意した。より力の強い伝書を求めて旅立つと。
相手の目を晦ませるだけでは、この先戦ってはいけないだろう。
父上ならきっと、わかってくれるはずだ。
……予想していた力とは違い、さらに精進することを考えず別の力を?
これは……よくないだろう。
昔師匠にも言われた。力に頼るんじゃねえ。己の未熟さを疑え。
どんな力でもてめえの力量が低けりゃ振り回されてるのと一緒だぜ……って。
俺なら、目を晦ませる力なんてとても怖い力だと思う。
暗闇の中生きてきた俺にとってみれば、誰しもが恐れる力なんじゃないのか?
……そして日記は最後の一頁。最後まで、読んでみよう。
……父上に猛反発された。そして厳しい説教を受けた。
父上にはわからないのだ。強い伝書の力を得た父上には。
あれほどの力があれば、私も新たな伝書の力を欲したりはしない。
必ず手に入れてみせる。それまではジパルノグへ戻る事はないだろう。
旅にはリオネも同行してもらおう。置いていっては悲しませてしまう。
善は急げだ。夜明けには旅立つとしよう。
そして戻って来たら直ぐ、この日記に綴るのだ。
私の新たな伝書についてを。
今から楽しみで仕方がない。
まずは北を目指し、交友がある魔族と交渉してみよう。
……日揮はここで終わっていた。
そして、ランスロットさんは息子を失っていた。
この人は……帰らなかったのだろう。
もし伝書の力を信じて己を磨いていれば……生きていたのでは
ないだろうか。
そしてきっと、ランスロットさんも後悔しているのかもしれない。
息子にただ反対するのではなく、導いてやるべきだったと。
だが、全ては過ぎてしまった事。
悔い改めようとも、亡き息子は戻ってはこないのだから。
日記をそっと元の場所へ戻すと、体の状態を確かめる。
……十分体力は回復した。眠気もない。
やはりあれは夢だったのかもしれない。
いや、夢であろうとなかろうと、そんなことはどうでもいい。
あの時のアルカイオスの青年の顔は、しっかりと覚えている。
――どんな思いであの場所にいたのだろう。
どのように生き、どのように暮らしていたのだろう。
その力、必ず俺が思う正しき道として、使いこなしてみせるよ。
そう心に誓って、胸の前で左手の拳を強く握り締めた。
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