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第五章 親愛なるものたちのために

第七百七十五話 伝書を読み解く

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 ランスロットさんは、ゆっくりと腰を上げて立ち上がると、戸棚の中から
一つの瓶、グラス、それから小型のナイフを所持して俺の前へと来る。

 美しい装飾が施されたナイフをテーブルの上に置くと、瓶を開けてグラスへと注ぐ。

「この水は命真水だ。量はこれだけで十分。これに君の血液を浸し、直ぐに
飲み干しなさい」
「時間が経つと効果が失われるんですか。それじゃ……」

 俺は言われた通りに指先をナイフで傷つけ、血を少しグラスに垂らして一気に飲み干した。
 当然、美味しくはない。
 ランスロットさんは頷いて、話を進める。

「私に伝書は見せなくていい。部屋の鍵を渡すから、そこで横になってから、伝書
を読み解きなさい。成功したら、明日の朝、その効果を私と訓練場で試してみよう。
伝書の内容は口で説明するより、君自身が体験する方がいいだろう。成功を祈る」
「わかりました。ありがとうございます。やってみます」
「これが部屋の鍵だ。ここを出て直ぐのところに、青い紋様が刻まれた部屋がある。
私の……息子が使っていた部屋で申し訳ないが、そこならゆっくりと伝書を読み
解けるだろう。では、私は休むとするよ……そうだ、ルイン君」
「はい、何でしょう?」
「ここにおいてある食べ物は、自由に部屋へ持っていって構わない。
好きなだけ、食べるといい。先ほど食事はあまり取っていなかったようだからね」
「お気遣い有難うございます、ランスロットさん。お休みなさい」

 ……こちらの行動が、見透かされているようだった。
 俺はエルバノとプリマに遠慮して、食事を殆ど取っていなかった。
 この人は本当によく見ているな。

 ――まず部屋を確認しにいき、鍵をあける。とても立派な部屋だ。
 きちんと清掃もされている。

 部屋を確認したら直ぐに戻り、両手で抱えられるだけ食事を抱えて、再び部屋へ
戻ると直ぐに、エルバノとプリマ二人に出てきてもらった。勿論パモもだ。

 全員に静かにするよう伝えると、食事を振舞う。
 ……俺も少しだけ食事を手にした。

「にしてもよかったのう。さぁ早く伝書を読み解いてみよ!」
「プリマたちもここにいたら、まずいんじゃないのか?」
「そうだな。二人とも食事も済んだだろうし、一度戻っててくれるか。
何があるかわからないし」
「仕方ないのう。飯も美味かったし、後で酒もとってくるんじゃぞ」
「そこまで図々しくは出来ないって。そっちはお土産だから、ギオマと一緒に
飲んでくれよ。明日には戻るからさ」
「そうじゃったな。我慢してやるか。ぎゃははは!」
「なぁ。プリマも明日、外に出て買い物とかしてみていいか?」
「んーと、そうだな。帽子を借りれば出来なくはないか。グレンさんに相談
してみるよ。プリマの耳はいい感じで可愛いけど、ここだと目立つだろ?」

 そう言うと、プリマは嬉しかったのか、耳をピョコピョコさせていた。
 案外子供っぽいところもあるんだよな……初めて会った時は怖かったけど。
 照れながらも俺に憑りつくプリマ。これはやっぱり怖いんだよね……。

「さて、気を取り直して……パモ、伝書を出してくれるか?」
「パミュ」

 パモから伝書を受け取ると、パモも眠かったのか、直ぐに封印へと戻って
いった。ごめんな。こんな遅くに起こしてしまって。

 伝書を手に持ち、立派なベッドへ横にな。
 その表紙を確認してみる。
 ……あれ、目がかすむような感覚がある……ピンぼけしてよく見えな……。


 ……そうか。読み解くってのは、文字を読んでいくんじゃないんだな。
 それでランスロットさんは、俺を休める場所……一人になれるような場所へ
誘導したのか……。


 ――ピンボケの視界から戻ると――俺は、はっきりした意識のまま、
焼け焦げるような匂いを嗅ぎつつ、燃え盛る町の中にいた。

「……これは、夢なのか。伝書を見ていたはずだけど」

 自分の体を確認すると、着ている服などは別物。
 なんだったら視点が少し違う。顔を触って髪も触ってみる。
 ……どう考えても別人だ。
 触っている感覚はある。
 別人になった? 伝書の効果で? でも、ここはどこだ。
 パチパチと火花の音が聞こえてくる。

 これは、伝書が見せる風景なのか? 
 これからどうすればいいんだ……そう考えていると――突如頭の中に何かが
聞こえてきた。
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