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第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十九話 急襲

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 鍛冶屋から外へ出た俺は、一通り装備品を収納して……歩き出してから直ぐに、異常事態
であることに気付いた。
 先ほどまでは何一つターゲットに反応は無かった。
 つまり外に出た瞬間狙われたようだ。
 おまけに霧のようなものまで出てきた。
 これはまずい……が、ここで暴れるわけにはいかない。

「……プリマ、エルバノ、パモ。何が起こってもじっとしててくれ。
狙われてる。俺の命が落ちるような状況になりそうだったら、その時は手助けを頼む」

 返事は無いが、きっと把握してくれただろう。
 ターゲットに反応している数が多い。
 こちらを狙ってきているのは恐らく……人だ。
 こんなところで斬りあったら、町中で殺人者として認定される。
 それだけは避けたい。
 なるべく穏便にやり過ごさないと……くそ、鍛冶屋によらず、真っすぐ帰るべきだった。
 いや、むしろ見破られた事によって装備を収納できたのは不幸中の幸いかもしれない。
 とはいってもエルバノの手甲やベルトは収納してない。
 さっきの三本の杖に、錆びたナイフも所持したままだ。
 ……直ぐに攻撃をしてこないところを見ると、こちらの様子を伺っているのだろう。
 
 どうしたものか……ひとまず宿の方へ向かうのはまずいだろう。
 どこか一本道になるような道はあったか? 

 ……思案しながらも、気づいてないフリをして歩く。
 あちら側の足音などはちゃんと聞こえる。つまり暗殺者などの類じゃない。
 そうすると、あの家紋のうちのどれかの集団……権力者のうちのどれか……か? 

 この場所からは入り口の門が近い。そちらに回れば門番や入国用の人がいるかもしれない。
 そこまで向かって助けを求める……か……あれ、何か違和感が。

 何……だ……意識が……何か、されたの……。

「よし、運べ」
「こんな人数必要だったんですか? ただの人間に見えますけど」


 ……突然頭の中で、何かが兒玉するように聞こえた。
神の加護セイキ プロスタシア

 ――なんだ今のは。急に眠気が来て……いや、起き上がるべきじゃない。
 意識ははっきりしてる。どうやら眠らされたようだ。
 ここらに漂ってたのは、霧じゃなく周囲に散布された眠り薬か何かの類か。
 用意周到なことだ。つまり計画的に確実にさらうための方法だろう。
 危なかった……。

 ここで起き上がり、振り切って逃げる事も可能かもしれないが、それは安全とはいえない。
 モジョコはきっと、グレンさんがついてくれている。あちらは大丈夫だと信じよう。
 今は、大人しく捕まってやるか。
 ……こんな風に捕まるのは久しぶりだな。
 よくわからない男二人に担がれる。
 目を閉じているからはっきりとはわからないが、背丈は俺位。
 声も聞いた事が無い声だ。
 さて、一体どこへいこうというのかね。

「この杖二本、どうします?」
「その辺に捨てておけ」
「もったいないな……でも足がつくか。どうせこいつ、処理されるんじゃないんですか?」
「さぁな。命令に従っただけだ。罪人じゃなかった場合、その所有物を盗難
したらお前が捕まるぞ」
「へいへい。打ち捨てておけば問題無いですね」
「さっさと連れて行くぞ。他の奴は持ち場に戻らせろ。急げ」

 どうやら予測通りか……ターゲットの反応は消えた。 
 しかし……もう少し丁寧に扱ってくれないかな。
 無実の罪で捕らえたら、本来ただじゃすまないだろ? 統治国家なら。
 ……いや、しかし。グレンさんやレオさんの反応からして、前世のような
統治国家とは違うか。
 例え法で統治されている国だとしても、権力者はもみ消す算段に長けている。
 これは、洒落にならないかもしれない。
 
 ずるずると体を引きずられた後、何かに乗せられた。
 運び込んだ奴もそれに乗りこむ。
 まさか……町の外に出るつもりか? 
 それならば好都合だ。理不尽な暴力に対して、何もできないわけじゃない。
 もし町を出た気配がしたら、そこで抜け出す事は可能だ。
 
「ピキュアー!」

 ……今のはナチュカの声だ。
 ナチュカに引かせる乗り物? 馬車のようなものか。
 そうすると……図書館へ向かう方面にあった道か? 
 移動している経路、方向……思い出せ。見えてなかった俺なら出来るはずだ。
 倒れた位置、担がれて乗せられ、走り出した方向……間違いない。
 図書館からの帰りに使用した道のはずだ。
 つまり、治安が悪そうだと感じた方向と一緒だ。

 どうせなら治安の悪いエリアについても確認しておくべきだった。
 もし町の外に出るんだったら、こいつらの意識だけ刈り取り、モジョコを
連れてダッシュで逃げれたかもしれないのに。
 
 ……いや、暴れるなら目的や場所などを確かめてからでも遅くはない。
 仮に相手が襲ってきても、グレンさんやレオさんが隊長格とするなら、俺に倒せない
相手じゃない。

 落ち着け……冷静に周囲を把握しろ。慌てるな……シーザー師匠の修業を思い出せ。
 少し、力に頼りすぎて、ぬるま湯に浸りすぎだ……。
 
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