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第五章 親愛なるものたちのために

第七百六十六話 三冊目、伝書の発現方法と用途

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 三冊目となる伝書に関する本を手に取る。
 今回は二冊目まで筆者と年号を確認していたので、先にそちらを確認してみた。

 著者名はアーク・ウェイドスタン。これは年号が五三六三年……今年に書かれたものだ。
 つまりこの著者は生存している著者ということになる。その人物が発現方法を? 
 ということはこの著者は伝書使用者の名前なのか? 
 しかもこの本は初版だ。
 ここから先は読んでみないとわからない。
 こういった部分から本を調べてみると、実に面白味が出てくるのは、本の醍醐味といえるだろう。
 特に初版は貴重となる物が多い。
 
 頁をめくってみると、前書きがしっかりと記されていた。
 前半は著者の紹介であり、この辺は時間の都合で流し読みした。
 後半部分に大事な事が書かれている。

 伝書の発現方法と用途
 本書は伝書に関するあらゆる発現方法、またその能力による使用すべき用途を記す書物である。
 これらは確定された【確】要素と、不確定要素となる【不確】要素が存在する事を、予め
伝えなければならない。
 理由は明白で、書物における絶対は存在しない。つまり、著者における確定された要素に
ついては、正確に伝えたいと考えている。
 それらを踏まえて、確かな要素から記していこう。

 ……つまり著者によって確定された要素が前半部分ということか。
 まず使用方法からだ。


 
 伝書の発見と使用……ここだな。

 伝書をもし運よく発見する事ができたら、誰にも知らせない事を強く勧める。
 情報とはどこからでも漏れるものだ。
 仮に伝えた本人にその気がなかったとしても、知れ渡ってしまう可能性はある。
 それほどに狙われやすいものでもある。
 もし力を欲する者でない場合でも、正規のルートで急ぎ売却を推し進めて欲しい。
 国家を頼るのも一つの手段だろうが、それまでも決して知られてはならない。
 逆に力を手にしたい者であれば、直ぐに次の手順に移って欲しい。
 この世界には命真水という不思議な泉があるのはご存知だろうか。
 一見、ただの泉なのだが、この水を利用することができれば、伝書の内容を読み解き、力を
得る事が可能となるのだ。だが泉に本を浸せばいいというわけではない。
 泉の水を持ち寄り、それを二日に渡って飲み続ける必要がある。
  これで、手に入れた伝書の内容を読む力が目覚める。


 ……ここで一度、読むのを止めた。
 命真水……まさか、あの泉が……つまりルーンの町の領域からでも、その泉の水を摂取できる
という事なのだろうか。そもそも泉の水を二日続けて飲む? これは確かな要素なのだろうか。
 ……いや、本で読み取れるのはどの基準なのかがわからない。
 これは実験してみる必要があるな……だが、伝書の読み方はわかった。
 続けて読んでいこう。



 次に伝書の本来の力を発現されるため、伝書を読み解いていく。
 すると、伝書の文字が体を取り巻き、全ての文字が体を取り巻き終えると、その伝書固有の
能力を得る事が出来る。
 だが、これに関しては、全ての伝書がそれと同等とは言い切れない。
 四八九二年。ある伝書発見者が、この工程を試みようとした。その者は、ジパルノグ北東にある
泉の水を飲み続け、本の解読に成功した。
 しかし伝書の全ての頁を読み終えたにも関わらず、何の力も得られなかったという。
 これにより、伝書に関する様々な文献で色々な説が飛び交った。
 偽物説や適性説、破損説や何もない効果があるとうい節など。
 筆者としては恐らく後者。何かしらの効果があることに、気づいていないという説を
挙げたが、結局この論議はいつか風化し、不明のままとなった。
 

 ……これだけわかれば十分だ。
 この本から得られた知識は大きかった。
 この町の北東にも泉があるのか……。
 俺のもう一つの仮説も立てて見れるかもしれない。
 今はまだその時ではないが……。
 それにしても不発の可能性もあるとは。
 伝書の文字の意味そのものも、しっかりと読み解く必要がある。
 それに、あの命真水。俺がシカリーに託された花を届ける時に見た記憶からある泉だ。
 つまりこれは、絶対神絡みではなく、アルカイオス幻魔の遺産である可能性が極めて高い。
 宿っているとするなら原初の幻魔の力か……そういえば、ジョブカードも幻魔神殿で……。
 アルカイオス幻魔についてはもっと知る必要がある。
 ウガヤのような人知を超越した力も存在する力。
 
 その力があれば、俺の……親愛なる者たちを、もっと守ってやれるのだろうか。
 そう考えながら、時間の許す限りその本の内容をしっかりと確認した。
 再度、伝書図鑑を確認しようと思ったが、司書がこちらへ来てひと睨みされる。

「閉館の時間です。こちらは正式な入館証です。本はこちらで戻しておきますから、退館してください。
もし宿の変更や正式な住所が変わりましたら、変更手続きをお願いします」
「わかった。本は重いし自分で戻すよ。直ぐ出ていくから」
「わかりました。なるべく急いでください」
「ああ。すまない」

 鋭い目つきで少し不機嫌そうにこちらを見ると、踵を翻して戻っていく司書。
 やっぱ怖い。
 時間厳守なんだろう。このタイプは時間外労働など決してしないだろうな。
 いや、そもそもそれが正しいんだけど。時間厳守は大切な事だ。
 本を戻すと、司書に一礼だけして急ぎ図書館を後にした。
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