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第五章 親愛なるものたちのために
第七百五十三話 王国制ではない国へ
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「なあ、そのナチャカっていうのは何だ?」
「おや、ナチャカをご存知ない?」
「ああ。見た事も聞いた事も無い」
「そうですね、説明するより見てもらった方が早いかもしれません。
入り口に少し大きめのテントがあったの、わかります? そちらでお待ちしてますから、後で
いらしてください。明らかに大きさが違うので、今度はわかると思います。ルインさんも
食事は必要でしょうから、先に食事を済ませてきてくださいね」
「わかった。後で行こう」
そう告げると、俺にパンとスープを差し出して、レオはテントから出て行った。
ナチャカねえ……。食べ物のような名前だけど……乗り物か。
この世界に来て、様々な乗り物に体験はしたものの、俺にはコウテイ、アデリーという
素晴らしい騎乗術がある。
だが、術を行使する以上ずっと乗っていられるわけじゃない。
そういった騎乗用の仲間がいたら助かるんだけど。
そうだ、ナチャカを見に行く前に、この本の事をグレンさんに聞いてみるか。
「あのー、グレンさん」
「ひゃい!? ああ、こほん。何だ?」
「そんなに驚かなくても……モジョコが気になるのか?」
「いや、よく眠っているなと。衰弱していたから無理もないのだが」
「穴の底で一人。もう死を受け入れていたから。その子には生きられる喜びを
与えてあげないと」
「ルイン殿は優しいんだな……」
「優しい? 大人としては当然の判断だと思うぞ。こんな小さい子が
苦しんでいていいはずはない。子を捨てるなんてもっての他だろう」
「そうか……それで私に何か用があったのではないか?」
「そうだった。この本を採掘中に見つけたんだけど、この文字、読めるか?」
俺は手に入れた本の表紙を見せる。するとグレンさんの顔色が変わる。
「それは……伝書? 滅多に見つかるものではない、貴重なものだ。
ルイン殿が見つけたのならそれは私に見せるべきものではない。
私の町に図書館がある。伝書についてはそこで確認するといい」
「伝書? 伝書って事は何かを伝えるものだろう? 俺にはこの文字は読めそうに
ないんだけど」
「それは文字として読むものではなく、道具として使用するもの。
その文字のようなものが力をもたらす要となる。売れば物にもよるが、数百万金貨で
取引されるものもあるという。あまり周囲に見せていいものじゃない。
私以外に知っている者は?」
「いや。今のところグレンさんだけだ」
「そうか。ならば私もその本は見なかった事にする。図書館へは
通行許可証と銀貨一枚で入れる。町に到着したら司書に伝書に関する書物を
見たいと告げるがいい」
「わかった。そんな貴重なものが採掘できるとは……採掘って面白いな……」
「鉱石の中から出てきたのか? それは驚いた……いや、ルイン殿に見つけて
もらってよかったのかもしれん。我々の誰かが見つけたらそれこそ争いの火種に
なっただろう」
「いいのか? これを手柄にすることもできるだろう?」
「そのような非礼ができるはずもない。このままだと我々はマルクタイト鉱石を
持ち帰る事が出来なかったかもしれん。ここのモンスター大量発生だけでも
報告すれば十分過ぎる程の手柄だ。といっても部下の装備手配で報酬はあまり
残らないがな」
「そうか……ちなみにナチャカって買うとどのくらいするんだ?」
「ナチャカにもよるな。それにナチャカを購入するには資格も必要だ。
虐待などされてはたまったものではないからな。信頼できる人物の証明と、育てて
いけるか見定める期間を設けている。どうしても欲しいならしばらく町に滞在
しないといけないだろうな」
「そうか……それなら今回は見送りかな。俺も忙しい身でね。町には滞在できても
一日が限界だろう」
「……それは残念だ……だが、もちろんまた直ぐに来てくれるんだろう?」
「うん? どうかな。町に他に用事があれば向かう事にもなる。それに、町の
雰囲気にもよるかな」
人間の住む世界。果たして魔族を受け入れてるような国かどうか。
エルバノを見た反応は悪い反応じゃなかった。
だが確証無しに自分たちが魔族であることを明かすわけにもいかないだろう。
なにせここへ来る途中、魔王の城を遠くに見たわけだし。
「……実は近年モンスターの活動が活発で、我が国では広く勇敢で強い者を
募集している。もしルイン殿がよければ少し協力してもらえるとありがたいのだが……」
「確かに困っている人がいるなら放っておけないが、こちらにも
やることが多くて。そっちにレンズはないのか?」
「レンズ……傭兵所のことだな。残念ながら我が国は治安を考慮して断った国だ。
確かに傭兵を多く呼び込めば、モンスター退治は捗ると思うのだが、自治権を持つ
集まりの国だからな。難しいと思う」
「王国制じゃないのか!?」
「ん? ああ。我が国は自治権を持つ者同士で会合を開き、税を取って生活している
数少ない統治方法を取る国だ」
税を取り自治権を持つ者が集まり方針を決める……まるで民主主義のような思想だ。
それならば順応しやすい国かもしれない。
「それは随分と興味深い。詳しく知りたいね」
「そうだな、道中詳しい話をしよう。そろそろレオが待ちくたびれる頃だろう。
我々のナチャカを見に行ってくるといい」
「わかった。それじゃまた後で。モジョコのこと、見ていてやってくれ」
「ああ。わかった」
人の住む国で統治が上手くいっている国に行けるのは有難いな。
ルーンの町もそろそろ方針を決めねばならないほど人が増えた。
そろそろ町という単位より国としての単位の方がしっくりくるかもしれない。
他種族であれば様々な考えもあるだろうし、うちには頭の切れるルジリトもいる。
もし今後他所の国、大陸と揉める事があった時にも、国として体制を整えていた
方がいいだろう。
「そうだよな。メルザ……カイオスの流れをくむ地。ルーン国をお前と共に……」
「おや、ナチャカをご存知ない?」
「ああ。見た事も聞いた事も無い」
「そうですね、説明するより見てもらった方が早いかもしれません。
入り口に少し大きめのテントがあったの、わかります? そちらでお待ちしてますから、後で
いらしてください。明らかに大きさが違うので、今度はわかると思います。ルインさんも
食事は必要でしょうから、先に食事を済ませてきてくださいね」
「わかった。後で行こう」
そう告げると、俺にパンとスープを差し出して、レオはテントから出て行った。
ナチャカねえ……。食べ物のような名前だけど……乗り物か。
この世界に来て、様々な乗り物に体験はしたものの、俺にはコウテイ、アデリーという
素晴らしい騎乗術がある。
だが、術を行使する以上ずっと乗っていられるわけじゃない。
そういった騎乗用の仲間がいたら助かるんだけど。
そうだ、ナチャカを見に行く前に、この本の事をグレンさんに聞いてみるか。
「あのー、グレンさん」
「ひゃい!? ああ、こほん。何だ?」
「そんなに驚かなくても……モジョコが気になるのか?」
「いや、よく眠っているなと。衰弱していたから無理もないのだが」
「穴の底で一人。もう死を受け入れていたから。その子には生きられる喜びを
与えてあげないと」
「ルイン殿は優しいんだな……」
「優しい? 大人としては当然の判断だと思うぞ。こんな小さい子が
苦しんでいていいはずはない。子を捨てるなんてもっての他だろう」
「そうか……それで私に何か用があったのではないか?」
「そうだった。この本を採掘中に見つけたんだけど、この文字、読めるか?」
俺は手に入れた本の表紙を見せる。するとグレンさんの顔色が変わる。
「それは……伝書? 滅多に見つかるものではない、貴重なものだ。
ルイン殿が見つけたのならそれは私に見せるべきものではない。
私の町に図書館がある。伝書についてはそこで確認するといい」
「伝書? 伝書って事は何かを伝えるものだろう? 俺にはこの文字は読めそうに
ないんだけど」
「それは文字として読むものではなく、道具として使用するもの。
その文字のようなものが力をもたらす要となる。売れば物にもよるが、数百万金貨で
取引されるものもあるという。あまり周囲に見せていいものじゃない。
私以外に知っている者は?」
「いや。今のところグレンさんだけだ」
「そうか。ならば私もその本は見なかった事にする。図書館へは
通行許可証と銀貨一枚で入れる。町に到着したら司書に伝書に関する書物を
見たいと告げるがいい」
「わかった。そんな貴重なものが採掘できるとは……採掘って面白いな……」
「鉱石の中から出てきたのか? それは驚いた……いや、ルイン殿に見つけて
もらってよかったのかもしれん。我々の誰かが見つけたらそれこそ争いの火種に
なっただろう」
「いいのか? これを手柄にすることもできるだろう?」
「そのような非礼ができるはずもない。このままだと我々はマルクタイト鉱石を
持ち帰る事が出来なかったかもしれん。ここのモンスター大量発生だけでも
報告すれば十分過ぎる程の手柄だ。といっても部下の装備手配で報酬はあまり
残らないがな」
「そうか……ちなみにナチャカって買うとどのくらいするんだ?」
「ナチャカにもよるな。それにナチャカを購入するには資格も必要だ。
虐待などされてはたまったものではないからな。信頼できる人物の証明と、育てて
いけるか見定める期間を設けている。どうしても欲しいならしばらく町に滞在
しないといけないだろうな」
「そうか……それなら今回は見送りかな。俺も忙しい身でね。町には滞在できても
一日が限界だろう」
「……それは残念だ……だが、もちろんまた直ぐに来てくれるんだろう?」
「うん? どうかな。町に他に用事があれば向かう事にもなる。それに、町の
雰囲気にもよるかな」
人間の住む世界。果たして魔族を受け入れてるような国かどうか。
エルバノを見た反応は悪い反応じゃなかった。
だが確証無しに自分たちが魔族であることを明かすわけにもいかないだろう。
なにせここへ来る途中、魔王の城を遠くに見たわけだし。
「……実は近年モンスターの活動が活発で、我が国では広く勇敢で強い者を
募集している。もしルイン殿がよければ少し協力してもらえるとありがたいのだが……」
「確かに困っている人がいるなら放っておけないが、こちらにも
やることが多くて。そっちにレンズはないのか?」
「レンズ……傭兵所のことだな。残念ながら我が国は治安を考慮して断った国だ。
確かに傭兵を多く呼び込めば、モンスター退治は捗ると思うのだが、自治権を持つ
集まりの国だからな。難しいと思う」
「王国制じゃないのか!?」
「ん? ああ。我が国は自治権を持つ者同士で会合を開き、税を取って生活している
数少ない統治方法を取る国だ」
税を取り自治権を持つ者が集まり方針を決める……まるで民主主義のような思想だ。
それならば順応しやすい国かもしれない。
「それは随分と興味深い。詳しく知りたいね」
「そうだな、道中詳しい話をしよう。そろそろレオが待ちくたびれる頃だろう。
我々のナチャカを見に行ってくるといい」
「わかった。それじゃまた後で。モジョコのこと、見ていてやってくれ」
「ああ。わかった」
人の住む国で統治が上手くいっている国に行けるのは有難いな。
ルーンの町もそろそろ方針を決めねばならないほど人が増えた。
そろそろ町という単位より国としての単位の方がしっくりくるかもしれない。
他種族であれば様々な考えもあるだろうし、うちには頭の切れるルジリトもいる。
もし今後他所の国、大陸と揉める事があった時にも、国として体制を整えていた
方がいいだろう。
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