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第五章 親愛なるものたちのために

第七百五十二話 届かない物資

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 マルクタイト鉱石を入手した俺たち一行。
 帰り道はモンスターもおらず、何の問題もなく外へ出る事が出来た。
 だが、まだ物資は届いていないようで、外に人は誰もいない。
 
「確か、一緒にここへ来た人間全員、装備をやられて男女別々でって
話だったよな。どのテントに置けばいいんだ?」
「中央のテントです。わっしとレオは隊長職なので、違うテントなんですよ。
先に行って報告してきます」

 そう告げると、マルクタイト鉱石を抱えたまま走っていくレオ。
 勤勉な人だな。まだ信用しきっているわけではないが……。

「ルインよォ。わかっておるだろうが、我はもうじき戻らねばならぬゥ。
結界が切れてしまうからなァ」
「……ああ。わかってるよギオマ。マルクタイト鉱石があれば自力で
戻れると思う。飛翔した距離を考えてここから歩くとそれなりに時間はかかると思うが……」
「そういうことなら帰りは呼べばいいぞォ。我は魂吸竜。魂に直接語りかけるがよい」

 そう告げると、ギオマは俺の肩に手をおき、爪を立てた。
 ちょっと痛いんですけど何するんですかギオマの兄貴! 

「うむ、これでよい。魂の声で我に語り掛けてみると良いぞォ」

 魂? ……えーとギオマの兄貴、痛いです。

「うむゥ? グッハッハッハッハ! 貴様がこの程度で痛いはずがなかろう」
「うわ、本当に通じたよ……これ、ちゃんとできるようになればやっぱり封印した
奴らともしっかり念話ができるんじゃないか?」
「ふむゥ。貴様の言う封印は相当おかしなものだろう。我にはわからぬなァ。
そうだ。場所までは把握できぬから、我をここへ呼ぶがいいぞォ。それと、プリマはまだ帰りたくない
そうだァ。貴様に取り憑かせるぞォ」
「わかったよ……大分ぐったりしてるな。本当に大丈夫か?」
「大丈夫だろう。それではなァ!」

 プリマを俺に託すと、あっという間に竜の姿に変身し、飛び立って行く。
 見られないように工夫とか、してほしいなぁ……。
 と思っても、恐らくこちらの声はギオマに聞こえても、ギオマの声は
聞こえないんだろう。
 連絡を取るのは決まった場所じゃないとダメだし、事前に伝えておく必要はあるな。

「さて、中央のテントだったな……」

 恐らく他のテントは布だけ巻いたレオたちの仲間が沢山いるのだろう。
 間違えたら洒落じゃ済まない。
 中央のテント……一際大きいテントがある。アレだよな。
 直ぐ隣に小さいテントも設置してある。こっちへマルクタイト鉱石を置けば
いいんだよな。ギオマに持たせた分もあるから、レピュトの手甲を使うか……今は誰もいないし。

【神魔解放!】 
 ……こういう使い方はちょっとずるい気もするけど。よし……。
 
 ――テントの前に来ると、神魔解放を解き、地面に鉱石を一度置く。
 小さいテントは人が二人入れる程度しかない。中に誰かいるな。
 レオが持ってきた鉱石を積んでいるのかもしれない。せわしなく動いている。
 影しか見えないけど。さっさと置いてモジョコの様子を見に行こう――。

 と思ってテントに入ったんだ。
 テントってのはそもそもノックが出来ないじゃないですか。
 だからね、俺は悪気があったわけじゃない。
 声をかければよかったって? いやいや、中にいるのは男だと思っていたわけだ。

「うわあーーー! 出ていけ!」
「す、すみませんでした!」

 ……俺はここが倉庫代わりだと決めつけていた。
 知らなかったんだ。まさか更衣室代わりに使っているなんてこと。

 ちょうどグレンが着替えの真っ最中だったらしく、非常に間が悪いところへ
突撃してしまったようだ。

 大声を聞いて慌ててレオが飛んでくる。
 どうやら伝え忘れていた自覚があるらしく、平謝りされる。

「すみませんルインさん……おや? ギオマ殿は?」
「疲れたから先に帰るって。ギオマの兄貴が運んできたマルクタイト鉱石は
間違えて入ったテントの入り口においたから」
「いやーうっかりしてました。確かに中央テントの直ぐ近くに更衣室があれば
倉庫だと思いますよね……実はマルクタイト鉱石は中央テント内で管理してるんです。
さぁこちらへ。それにしてもグレンがあんな声を出すなんて。
普段は男勝りなんですけどね。ちょっと面白い物を見れましたよ」

 レオに案内されてテントの中に入ると、仮設ベッドの上にモジョコは寝かされていた。
 衣服は無いが薄手の綺麗な布で丁寧に包まれて、幸せそうに眠っているように見える。
 だが、お風呂なども無く、髪もとかせてやれていない。
 食事はとらせてもらったのだろうか。
 直ぐ近くにいるパモやスライムを見る限り、信用しても問題ない人物だと思えた。

「大したものがなくてすみませんね。直ぐに水をお持ちしますんで」
「気を遣わないでくれ。それで、採掘がまだあるっていうのはどういうことなんだ?」
「いえね。ベルゼレン奇石が欲しいと仰ってったので。あれは我が国で採取できる石だと
お伝えしたと思いますが、それも採掘しに行かないといけないんです」
「つまり、あんたたちの国に行かないとならないのか」
「そういうことです。本来であるなら滞在許可証を発行したり、身元の怪しさを
確かめる必要があるんですが、わっしとグレンであなたの行動を間近で
見させてもらいましたから。あなたのようなお人柄なら大歓迎ですよ。
今、滞在許可証を書きます」
「それならモジョコの分も頼めるか? 面倒は俺が見るから」
「わかりました。やはりあなたが引き取るんですね。もしそうでなければ
孤児院に連れて行かねばならないところでしたよ」
「レオの国には孤児院が?」
「ええ、ありますよ。とはいってもいい暮らしをしているわけじゃない。
予算もあまり出せませんからね」
「いや、それでも孤児院があるだけで大したものだ。俺が見てきた国々はそんなものはない。
子供を養うため、姉が盗みを働かなければならない土地もあった」
「そういった事はわっしの国でもありますよ。どんな国にも格差はあるものでしょう。
わっしらの国だって……いや失礼。これから国へ向かおうというのに
よくない話をしても仕方ないですね」
「いや、少しでも話が聞けて良かったよ」
「コホン。入るぞ」

 グレンが一言声をかけて入ってきた。
 当然まずは俺から謝るべきだ。

「先ほどはすまなかった。荷物置きがあそこだと勘違いしてしまって」
「悪気が無いのはわかっている。その……見たのか?」
「え? えーと、何を」
「だから、その……裸をだ!」
「いえ、なるべく見ないようにしたので。大丈夫、あんまり見えてません」
「あんまり!? その……こほん。次からは気を付けるように……」
「おやおや、堅物のグレンが真っ赤ですよ。これは面白い。後で皆に教えてやろう」
「おいレオ! ふざけるな!」
「冗談ですよ。それより、ルインさんのお陰で十分な採掘を行えました。
道中ベギラアントが大量に沸いたのですが、ギオマ殿がちぎり倒してしまいました。
その最中引火したのをルイン殿が氷の壁で……」
「氷の壁だと!? まさか氷術が使えるのか」
「ああ。少しだけだけど」
「それでギオマ殿は?」
「先に帰ったよ。ギオマの兄貴は忙しい人なので」
「そうか……残念だ。それではルイン殿、改めて報酬を支払いたいのだが、我々が
直接ベルゼレン奇石を渡せるわけではない。ご自身で採掘してもらう必要がある」
「それはレオから聞いた。あんたたちの町の許可証も発行してもらえると」
「そうだ。なので報酬として支払う対価を他に選んで欲しい。
ここには物資が無いのでそれも町で支払う。どうだ? 構わないか?」
「その町はここから遠いのか?」
「近からず遠からずといったところだな。物資運搬用の乗り物が到着すれば
四人で半日といったところか」
「そこそこ距離があるな」
「芽吹きの時でなければもう少し早く到着するんですが、今は慎重に進む必要がある
時期ですからね」
「それにしても物資の到着が遅い。一体何をしているのか……」
「その物資運搬が届かないと町へは行けそうにないのか?」
「そういうわけではありませんが……」
「なら直ぐに出発してその役割の奴を探すべきだろう。何かに巻き込まれた可能性だって考えられる」
「それはそうですね……グレン。ここは今一度ルインさんの力を借りて
我々だけで町へ向かいましょう」
「しかしギオマ殿がいないのに平気なのか? 荷物持ちなのだろう?」
「大丈夫です。彼はわっしが見る限り十分な強者。ナチャカが扱えるか
わかりませんが、まずは見てもらいましょう」
「ナチャカ……?」
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