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第五章 親愛なるものたちのために

第七百五十話 つるはし採掘体験

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 モジョコを連れて上へ戻る支度をすると、スライムは慌ててモジョコの上へと乗った。
 置いてくつもりはない。こいつはもう大事な仲間に違いない。
 普通のスライムと比べて随分とサイズが小さいが……水を与え続けたからなのか? 
 そういえば今まで、モンスターの生態について詳しく考えた事は無かった。
 この辺りもイネービュに聞いてみようかな。
 
「しかし軽いな。これじゃに十キロも無いんじゃないか。一体どれだけ空腹に耐えていたんだ」
「今までそんなに食べ物をもらった事がないの。だからこれくらい、なれっこだよ」
「……この辺りもそんなに裕福じゃないってことか。俺の仲間は安心だが、あっちの二人は
手厚くしてくれるかどうか。確認をしないといけない」
「人間の二人組ってお兄さんのお友達じゃないの?」
「まだ知り合ったばかりだ。どういった人間かもわからないが……今のところ悪い奴らには見えない。
眩き草っていう草が明かり替わりになったんだけど、それをくれたのはその二人のうちの一人だよ」
「ここ、少し明るく感じるのはそのせいなんだね……いたた」
「足を怪我してるのか? そうか、この穴へ落ちた時に……擦り傷になってないのが幸いだな。だがどうして擦り傷がないんだろう」
「その子が下にいて、それで大けがにならなかったの。ぽよんてしたよ」
「文字通り命の恩人、いや恩スライムだな。こいつに名前、つけてやったらどうだ?」
「名前? モジョコみたいなの?」
「そうだ。可愛い名前がいいんじゃないか?」
「ううん、わからない。モジョコ、可愛いっていうのがよくわからないし」
「うーん、そうだな……後で可愛いとは何たるかを教えてからつけてもらおう。よし、あらかた
泥は落とせたけど、一度モジョコは紅葉洞の外へ連れてってもらおう。ここじゃ危ないし」
「……え? モジョコ一人で?」
「いや、グレンという女性がいる。他は全員男だから、彼女と一緒に外で待っていてもらおう。
ついでに食事もとってもらう。俺はこの奥にまだ用事があるんだ。直ぐ戻るから少しだけ待っててくれ」

 
 俺がそう告げると、モジョコはすすり泣き始めてしまった。
 参ったな。一緒に連れて行くにはあまりにも危険だ。

「私ね、お兄さん戻ってこない気がするの。だからね、行かないで」
「モジョコは怪我もしてるしお腹もすいてるだろ? 安心しろ、絶対戻って来るから」
「うっ……だって、モジョコのところに戻ってきたって……」
「はぁ……仕方ないな。パモがここにいたことにするか。パモ、頼めるか?」
「ぱーみゅ!」
「この子が、パモちゃん? 小さくてふわふわしてる……気持ちいい」
「ああ。本当はパモに鉱石を預けておきたかったんだが今はモジョコを落ち着かせることが先決だろう。
俺の大切な仲間だ。必ず連れに戻る。これでいいか?」
「うん。少し寂しいけど待ってる」
「いい子だ。それじゃ少しだけふわっとするからしっかり捕まっててくれ」

 俺はバネジャンプで勢いよく穴の上へ飛ぶと、天井まで到達して何もない場所へ着地した。

「随分と時間がかかっていたが……その女の子が下にいたのか?」
「これはまずいですね。管理が行き届いていないと怒られるかもしれないです」
「ふむゥ。これは……いや、ここでは話すまいなァ」
「この子はモジョコ。捨てられて……穴に落ちたらしい。目が少し不自由で、放っておけば
死ぬところだった。
このスライムがこの子を助けてくれたみたいだ。後……このパルームもだ」
「ほう、これは珍しい。魔獣使いの家系の子か」
「近隣を捜索すれば家は見つかるかもしれませんが……捨て子となると少々困りましたね」
「保護したのは俺の勝手だ。暫くはこちらで面倒を見るが……この子、怪我をしている上に空腹そうなんだ。
悪いがグレンさん、あんたは戻ってこの子の怪我の手当と食事を頼めないか?」
「鉱石さえとってきてくれれば構わない。それに女の子にこんなぼろきれを着せておくわけにも
いかないだろう。着替えは殆どスライムに溶かされてしまったが、布類ならまだある。この子の
事は任せておけ」
「頼んだぞ。なるべく直ぐ戻るから。後、魔獣……も大人しいようだし、この子になついてるから、傍に
置いてやってくれ」
「本当に大人しいな。凄い子なんじゃないのか?」
「その年でそれだけ魔獣を扱えているなら、わっしも凄いと思います。道案内はわっしが引き続き行います。
さぁ先を急ぎましょう」

 モジョコたちをグレンに託すと、改めてレオ、ギオマ、俺の三人は紅葉洞の奥へ進む。
 借りていた眩き草入りのランタンをレオに返すと、当然の疑問を投げかけてきた。

「あのー、荷物持ちさんにしては凄い跳躍力を持ってますね。それと着地の身のこなし。
あなたも随分とお強そうに見えるんですがね」
「ギオマの兄貴に比べれば全然だ。兄貴ならきっと天井を突き破り天高く昇っていくに違いない」
「グッハッハッハッハァ! その通りだァ!」
「そんなことしたら、ここが崩れてわっしら生き埋めですよ……」

 そんな話をしながら先へ先へと進んでいくと、どうやら眩き草の群生地なのか、ひときわ明るい場所へと出る。開けた場所で、ここからは無数に入り組んだ道があるようだ。
 
「ここが中間地点です。ここらでよくマルクタイト鉱石が取れるんですよ。ただ、当然採掘すれば
モンスターは音につられて寄ってきます。ギオマ殿は警戒を。ルインさんは採掘をお願いします。
わっしは適切な場所の探索と見張りをしますんで」
「わかった。あまり採掘というのに慣れてはいないがやってみよう」

 当然ギオマの方がパワーがあるように見えるが、あの体に馴染んでいない。
 この中で一番腕力があるのは俺かもしれない。

「ありました。ちょうどルインさんの前方より少し東……その辺りですね」

 つるはし……こいつはどの世界でも当たり前のようにある、採掘に適した道具だ。
 このつるはしはアイアン製。しかしどういうわけか持ち手までアイアンだから重い。
 それを二本も持ってきた。
 
「力加減は……まずはこんなもんか。ふん!」

 上へ振り上げて一気に弧を描くように振り下ろすと、ガイーーーン! という強烈な音が辺りに鳴り響く。
 あれ? いきなり随分な金属音がなったけど……マルクタイト鉱石にぶちあたったのか? 
 ボロリと何かが崩れ落ちた。

「あーはははは……ルインさん。マルクタイト鉱石、粉々です。どんなバカ力で
掘ったんですか。歪んでますからもう一本の方で……そこまで力入れなくても大丈夫ですよ」
「いや、少し力んでしまって。会心の一撃ってやつだ。気にしないでくれ……」

 今ので強すぎたのか。半分くらいの力だな。
 今度は慎重に……「今の音でどうやら近くのモンスターが気づいたようです。ギオマ殿、お願いします。
ルインさんは採掘を続けてください」
「ふうむゥ。ここには懐かしいモンスターがいたようだなァ。ベギラアント共かァ」
「えっ? こんな中間層にベギラアントが? まずいですよ、一旦撤退を」
「グッハッハッハッハッハ! 我がベギラアント如きで逃げるとでも思うたかァ!」
「そっちはお願いします。俺、採掘で忙しいんで」
「え? ええーー!?」
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