上 下
835 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百四十九話 捨てられた少女

しおりを挟む
 穴の中に手を伸ばすだけでは到底救い上げられないので、穴の中に降りた。
 この高さなら跳躍すれば這い上がれると思ったからだ。
 
 下へ降りると……わずかな窪みと多少の草、そしてスライムが一匹、そして……もう息も絶えそうな
小さな少女がいた。
 瞳に力はなく、命を諦めている。そんな表情だ。
 水は……このスライムがどうにかしていたのか? 
 食糧になるようなものは草しかない。よく生きていたな。

「あ……うぅ……あ、だ……れ」
「か細い声だ。これじゃ幾ら助けを呼んでも聞こえないな」
「もう、放って……おいて……もうちょっとで、死ぬから……」
「……理由を聞いてもいいか」
「だって……役立たずだから、私」

 その言葉を聞いた瞬間……自分を思い出した。
 捨てられた自分。死にたかった自分。
 なのに助けられた。
 あいつならどうするかわかってる。
 それが本当にいいのかわからない。
 俺はメルザと違って、不自由な所を治す能力は持っていない。
 だけど……。

「パモ。ここなら大丈夫だ。甘い飲み物を出してくれよ。即効で栄養補給が必要なんだ」
「ぱーみゅ!」
「ありがとう。いいからまずはこれを飲め。少し元気出るから。
俺に沢山話した後、死ぬかどうか決めても遅くはないだろう」

 少女の傍にいたスライムは、少女から離れない。
 これはもしかしたら召喚されたスライムか。 
 俺が少女に何かするのではと警戒しているのかもしれない。

「大丈夫だ。お前の主に危害を加えるつもりはない」
「ぱーみゅ!」
「……」

 少女へ近づき、頭を少しだけ起こすと、とっておきのジュースを飲ませてやった。
 ゆっくりと少しずつ飲ませると、わずかだが安らいだ表情となる。
 
「どうだ。うまいだろ? うちで造った特製メロンジュース……をいつのまにパモに
預けたんだあいつら……」
「ぱーみゅ」

 すると、少女の目から涙が溢れてくる。
 か細い声で、喉が痛いのか大きな声では泣けないようだ。

「なんで、私なんかに、こんな……貴重そうなものを……」
「さぁ。ただの通りすがりのお節介な奴だ。俺はこう教わった。
どんな人にも優しく接しろ。他人を傷つけるな。迷惑をかけるな……ってさ。
遠い昔の話だが、今でもそれは守ってる。それに……俺もお前と同じように
自分が役立たずだって思った事もある。その時手を差し伸べてくれた奴がいた。
俺もそうありたいと思った。それだけの話だ」

「でも、私は捨てられて……それで……」

 少女が泣き止むのを少し待つと、ようやく表情がかなりよくなる。
 メロンジュースの効果はばっちりだな。
 さて、あまり長く下にいるわけにもいかない。説得して連れ帰るか。

「俺の名前はルイン。そしてこっちがパモ」
「パ……モ? あなたは男の人なんだね」
「……そうか。いやすまない。お前、目が見えないのか」
「全部じゃない。ぼんやりと影がみえるの」
「弱視か。それなら俺と同じだったんだな……」
「弱視……? あなたも目が不自由なの?」
「今は違う。以前は……そうだった」
「そう……」
「俺の町には何も見えなくても楽しく生活してる子もいる。楽しく生きる方法はあるものだよ。
こんなところで死ぬなんて勿体ない」
「でも、私なんて何の役にも立たないし、いても迷惑なだけ。きっと捨てたくなる」
「それは俺にもブーメランなわけだが……大丈夫だ。お前がどのように生きたいか。
それを一緒に考えて、手助けしてやることは出来る」
「でも私、目が悪いだけじゃない。変な力があるから」
「変な力なら俺も持ってるんじゃないか? それも気にならないな」
「でも、私きっと、人間じゃない……」
「そうか。それも何の問題もないな。家はどこだったんだ?」
「わからない」
「お父さんと、お母さんは?」
「いない。叔母さんに育てられたの」
「参ったな。俺以上に身元不明か。無理もない。目が不自由だと景色もわからないよな。
それは俺にもよくわかる」
「私以外の目が不自由な人、初めて会った。だからなのかな。
なんか、嬉しくて、もうちょっとだけ生きてみようかなって。でも
私が死んでも悲しんでくれるひと、いないし」
「おいおい。その傍らに佇むスライムがいるだろ? そいつが水をくれたんじゃないのか?」
「うん。飲み物と食べれそうな草をこの子が。でもなんでだろう。
私、この子によくしたわけじゃないのに」
「まさか野良スライムだったのか!? どう見ても召喚獣のように懐いてるぞ」


 これは驚いた。天然のモンスターを操るどころか身の回りの世話をしてくれるなんて。
 自動でそんなこと、俺にだって出来ないぞ。
 この子については後で事情を聴くとして、念をおしておこう。

「これから上へ戻る。そこには人間二人と俺の仲間のちょっとだけ怖い大男が
一名いる。俺もその大男も普通の人間じゃない。
だが悪者じゃないから安心してくれ……あれ? こういうとなんか悪者みたいだな」
「わかった。ここで起きた事、秘密にする。メロンジュース? の話もしない」
「いい子だ。そうだ、名前くらいはあるだろう?」
「私はモジョコって呼ばれてた。なんかいっつももじもじしているように
見えたからって、叔母さんが言ってた」
「はぁ……なんという名前の付け方。性格も悪かったようだな。
いくぞモジョコ。上に言ったらちゃんとした食べ物があるか聞いてやる」
「うん。ありがとうお兄さん」

 やれやれ。鉱石を採掘にいったのに少女を連れ帰ることになろうとは。
 そうだな、これもアルカーンさんの責任だよな……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。

永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。 17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。 その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。 その本こそ、『真魔術式総覧』。 かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。 伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、 自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。 彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。 魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。 【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】

変身シートマスク

廣瀬純一
ファンタジー
変身するシートマスクで女性に変身する男の話

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...