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第五章 親愛なるものたちのために

第七百四十六話 人との接触

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 出来る限り怪しまれないよう、ギオマとも事前に打ち合わせをする。
 どうしても他者を見下しがちなギオマを諫めておかないと。
 存在が竜種であるから、多少は仕方ないのかもしれないけれど。

「うむゥ。後は貴様に任せるぞ。我は威厳たっぷりに構えておればよいのだなァ」
「ああ。その方がうまくいくだろうから。俺はシュウさんみたいに大根役者じゃない。ちゃんと
やってみせるさ」

 以前、カッツェルの町で演技をした時に、シュウさんのこれでもかという大根役者っぷりを見せられたからな。
 シュウさん、元気にしてるかな……そろそろ師匠たちとともに戻っていると思うんだけど。
 でもあの人、ミリルと同じくらい忘れられる立ち位置だからな……。

 テントがいくつか張ってある場所の奥。ここに人が見えたんだが……「おい、止まれ! ……人間か? 
一体どうやってここまできた。怪しい奴め」
「おっと。俺たちは怪しい奴じゃない。ただの旅人。こっちが戦士ギオマ。俺は荷物持ちのルインだ」
「ほう。確かに屈強そうな男だ。こんな時期に旅をしているのか? 命がいくつあっても足りないだろう」
「それが依頼を受けてしまって。どうしても紅葉洞に行かないといけないんだ」
「少し取り調べをする。テントの中に入ってもらうぞ」
「その前に、あんたたち何者だ? 見た所兵士とかじゃないようだけど」
「なんだ、この辺りの旅人じゃないのか? これを見てもわからんとは」

 これ? これって何だろう。見た所この人はフードを被っていて性別も……いや女性か。
 胸には剣と馬のマークのようなものがついてる服だな。

「あんまりじろじろ見るな!」
「いや、悪い。他に見るべき場所がなくて。その胸のとこの印のことか?」
「やっぱり知らないのか。後ろの大きな男も知らないのか?」
「うむゥ。我かァ? ふむゥ。小さき印など、興味はないがァ……これはァ、かつてランスロットと名乗る
男がこのような印をつけていたなァ……」
「ほう。これは……。英雄ランスロットを知っているのは関心だな」
「英雄、ランスロットねえ……そんな話より、俺たちは早く……」
「ああ、そうだったな。レオ! 貴様も一緒に取り調べに付き合え!」
「へいへい。あんまり気乗りしないんですがね。グレンの命令じゃ仕方ないですね。
申し遅れました。わっしはレオ・バーニィ。彼女はグレン・バーニィ。同じ家系の者です。
わっしらは東国の領地を収めるバーニィ家の者です」
「バーニィ家? すまないが聞いた事は無い。遠くからきたものでね。珍しい物を売りながら
旅をしている最中なんだ。依頼も受けてて、それでマルクタイト鉱石
とベルゼレン希石を取りに来たんだ」

 そう聞いて、レオとグレンが双方顔を見合わせている。
 もしかして目的は同じか? 

「ここにマルクタイト鉱石はある。だが少々厄介な状態でな。お前たち、腕は立つのか? 
いやその前に取り調べをだな……」
「いいじゃないですかグレン。この方たちが旅人ならそれで。下手に取り調べで不快な
思いをさせてしまうより、協力を仰いでみたらどうです? 芽吹きの時の中を抜けてこれるんだ。
十分な強者かもしれないでしょう?」
「そういえばあんたたちはよく平気だな」
「我々はこれを使ってますんで。これがないとあっという間に食われてしまうでしょう」

 そういってランタンのような物を見せる。さっきから気にはなっていたが、このランタンのお陰なのか。

「この中にはマルクタイト鉱石の欠片がつまってましてね。わっしらはこれを
補充しにきたんですよ。ただ紅葉洞の中に厄介なモンスターが出てましてね。作業が難航
してるんです」
「ちなみにお前たちが探しているというベルゼレン希石は、ここには無い。我々の領地内で
わずかに取れる希少な石だからな」
「……まじかよ。アルカーンさん、やっぱ調べてないわ……」
「もしそのモンスターをどうにかしてくださるんなら、ベルゼレン希石を
差し上げてもいいんですけどね」
「その話、乗った! ちなみにどんなモンスターなんだ? この大陸はモンスターが強い。
その中でもかなり強いやつなのか?」
「強い……というか数が多いですね。そして分裂します」
「さらに問題なのが、装備を錆びさせてしまう液体を吐き出す。腐食率が半端ではない」
「まさかそれって……スライムか?」
「その通り。しかも強烈な酸を吐く個体と血液を吸う個体。さらに大型のものまで」
「アシッド、ブラッド、でかいのはラージスライムってとこか」
「それにヴァンピール族の中位も無数にいる。上位は見かけていないが……」
「ふむゥ。上位のヴァンピールは厄介この上ないぞォ。言葉を交わす事ができる
故交渉の余地はあるがなァ」
「ギオマの兄貴、頼りにしてるぜ」
「あなたは戦わないので?」
「俺は荷物持ちなんで……」
「ふむぅ……どう見ても強者に見えるのですがね。わっしの目も曇ったのかな」
「紅葉洞の中は芽吹きの時の影響が強い。貴様たちにもこれを渡しておく。
それと……採掘用のつるはし。これは荷物持ちの君が持ちたまえ」
「やべ……そうなるよな……わかったよ。俺が持つ。それじゃ行こうか」
「道案内はわっしらで行いますんで」

 案内をしてもらえるのは助かる。
 そして取り調べも避けられたのはよかった。
 ギオマはどう考えてもボロがでるからな……。
 しかし、レオという男。かなりの観察眼を持っているようだ。
 注意しないとばれてしまうかもしれない。
 俺たちの存在が魔族だってことが。

「他のテントにも人が?」
「いるにはいるんですが、全員装備を溶かされてしまいましてね。なんあら衣服まで……なので
男女別々にしてテントに押し込めてるんです。物資が届くまでね」
「それで俺たちが奥まで行っても誰も出てこなかったのか」
「まったく情けない。数が多いとはいえスライムに手玉に取られるとは。
確かにアシッドスライムは手強い相手なんだが」
「いや、気持ちはわかるよ。俺もスライムは手強いと思うし頼りになる存在……いや何でもない。
ここが入り口か?」
「ああ。紅葉洞という、年中紅葉が絶えない場所だ。芽吹きの時でもな」
「美しいが、不気味でもあるな」
「それはそうでしょうね。時期が悪いと紅葉トレントが沸きますから。いい材料になるんですけどね」
「紅葉トレント? そんなモンスターまでいるのか。落ち着いて鑑賞もできないな」
「スライムたちは恐らく入り口付近にもいます。気を付けて行きましょう」

 テントの奥……周りに紅葉が沢山みられる場所の一角にぽっかりと開いたような洞がある。
 その洞の中もまた紅葉で包まれており、ぽっかりと開いた円のような道が続いている。
 入り口からでもスライムの集団を確認することができた。

「あれか……」
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