上 下
824 / 1,085
第五章 親愛なるものたちのために

第七百三十八話 リア・ファルの効果

しおりを挟む
 声を取り戻したミレーユは、少し草臥れたので宿に行くという。
 その前に肝心な物を受け取らないと。

「リア・ファル……本当にもらっていいのか?」
「構わないわ。ちゃんと伝えていた通り、声は戻ったし。
そもそも好きじゃない人から貰った送り物だし、未練も何もないわ。その代わり
それで暫く必要なものとかは、あなたが全部払ってよね」
「それは構わないが……」
「既に所有権は委託されているのでございます。使ってみてはいかがでございますか?」
「使う? その石って何かに使えるの? ただの飾り石だと思ったけど」
「ええ。神話級アーティファクトは世界を揺り動かす力を持っているとされているのでございます。
その性能は千差万別でございますが……アメーダもリア・ファルを見るのは初めてでございますから」
「どうやって使う……うおーーーーーーーー!」

 俺は石を手に持ち、ごしごしと触ってみた。途端に石が巨大化し、石に乗せられる形
となり、上空へ飛び出していった。
 瞬時にアメーダが飛び上がり、俺の動きを抑制しなければ、結界から突き破っていたかもしれない。

「あ、危なかった。なんだこの石は」
「どうやら望む場所へ飛んでいくような効果のある石……でございますね」
「そんな便利なものだったの? もしかしてそれがあればコーネリウスの場所まで
逃げられたんじゃないの、私……」
「それはどうでございましょう。建物などにぶつかることを考慮されているとは
思えないのでございます。頭ゴチンするのでございます」
「確かに……結界無視して突破しようとしてたしな。まるでミサイルのような
アーティファクトだ……」

 これなら代価として用いるアーティファクトとしてはちょうどいいかもしれない。
 あんな目立つ石でぶっ飛んでいたらどこのモンスターに襲われるかもわかったものじゃない。
 やっぱり神話級アーティファクトといっても色々あるんだな。
 使い方によっては使えるのかもしれない。例えばルーンの町での移動とか。

「それじゃ私は宿に戻って休ませてもらうわね。少し気分もすっきりしたし、お酒でももらおうかな。
アメーダ、一緒に来てくれるわよね」
「そうでございますね……ミレーユ王女様はなかなか強引そうな方でございます。
お一人で向かわせるのは少々姉様にご迷惑かもしれないので、一緒に行くのでございます」
「失礼ね。でもいいわ。あなたとは長い付き合いになりそうだし。それと、私はもう
王女じゃない。ただの箱入り娘でもないの。ミレーユと呼んで」
「承知したのでございます。ミレーユ様」
「俺は魂吸竜の所へ行ってくるか。くれぐれもライラロさんがいることを
忘れないように。喧嘩するなよ……頼むから」
「しないわよ。術士同士だし、色々聞く事もあるから」
「あれ? ちょっと待ってくれ。アメーダ、ベリアルからの伝言があったんだ。
泉をつなげてさっさとルーンの町へ他の死霊族を向かわせろ……だったか。
やっぱり可能なのか?」
「そちらもお見通しでございますか……この町事、ルーンの町へ移送する予定で
ございました」
「……俺の町、ゴーストタウンになりかけてるよな……ただの魔族とか増やしたいんだけどなぁ……」
「それならアースガルズから引っ張って来ればいいだけじゃないの」
「それはメイズオルガ卿が困るだろう?」
「別にお兄様なんて困らせておけばいいのよ。私にこんな旅をさせてるんだから」
「まぁ、そっちの件は他で考えてみるよ。子供が産まれれば暫くは町から離れ
られないだろうし」
「そうなの? どうして?」
「そりゃ産まれたばかりの子供は数時間しか寝ないし、大変だからだろ?」
「あなた様……どうやら人としての考えが抜け切れていないようでございますね……魔族
の赤子はそんなことございませんよ。さて、それではミレーユをお送りした後は
ライラロ様にミレーユを託し、姉とともに泉の接続を開始するのでございます。
花はその時あなた様から託して頂きたいのでございます」
「俺が託すってことは何か意味があるってことだよな」
「はい。あなた様でないと何も起こらないのでございます」
「そうなのか。まずは魂吸竜に事情を説明しないと……遠い昔の約束事を
守って動けないらしいから」

 しかしあんなばかでかい竜を本当に封印出来るのだろうか。
 ベリアルならそれも可能なのだろうが……ベオルブイーター。
 あんな存在を本気で倒すつもりなら、これくらいの竜の力は必要なのだろう。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...