異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

文字の大きさ
上 下
796 / 1,085
第四章 シフティス大陸横断

第七百十三話 神風橋、中編

しおりを挟む
 休憩を終えた俺たちは再び歩みを進める。
 ひとまず襲われる事は無かったが、ここより先はそうもいかないかもしれない。
 一体どんな困難が待ち受けているのか……気になるところだが、休憩中から
プリマの口数がやたらと少ない。腹が減ってしょうがないのかと思っていたが、顔色がとても
悪く見える。

「おいプリマ、平気か?」
「ん? 何がだ?」
「さっきから喋らないし顔色悪くないか」
「そんなこと無いぞ」
「……どうやらかなりしんどいようでございますね。アメーダは王女様に憑いているから
まだしも、プリマ様は憑いていないのでございます。死霊族へ与える悪影響を直に受けているので
ございます」
「憑依は苦手だからな」
「憑依すると楽になるのか?」
「だから平気だって。プリマは憑依なんて……」

 どさりと倒れるプリマ。
 慌ててピールが近づいて、プリマのほっぺを舐めるが反応がない。

「ったくしょうがねえな。ピール、乗せてやれるか?」
「クォン……」
「参ったな。俺が先導しないと神風でやられちまう。
どうだ、ルイン。お前さんそいつを背負ってくれねーか」
「ああ、そのつもりだ……おいプリマ。無理せずどうしようもなかったら
憑依ってのをやってもいいぞ」
「苦手だって言っただろ……何ともないのに力が入らない」
「大丈夫って言ってたのに、変なところで強がるなって。はぁ……無理して一緒に来なくても
よかったんだぞ」
「だって、プリマがあの町にいたってつまらない。お前以外に興味がないんだから」
「それはプリマが他のやつを知ろうとしてないだけだろう。俺の仲間は皆個性的で
楽しい。ちゃんと向き合ってみろ。俺もただ偉そうに言うだけじゃなく、お前と
向き合ってやるから」
「本当か? プリマはお前を殺そうとしたのに。それなら……ちょっとだけ、憑依してみるか……」

 プリマは突如形を変え、俺へと憑依を始めた。
 背筋がなんかぞくぞくする。
 それは憑依って言葉が前世のソレを連想させるからだろう。
 ……別に怖いのが苦手とかそういうんじゃない。
 ただ怖いってだけだ。そうに違いない。

「あれ? 普段うまくいかないのに、なんかうまくいったぞ?」
「相性がよかったのでございますね。おめでとうございます、プリマ様」
「やったぞ! ははっ。そうか、ルインの視界はこうなってたんだな。
ラングの力は使えるし、これでプリマも戦えるぞ!」

 あれ? 声が出せない。
 これはもしかして憑依されてる側は喋れないのか? 
 
「あー、あーー! あ、喋れた」

 突然プリマの声から俺の声に切り替わる。
 どんな仕組みなんだ、この憑依ってやつは。
 ジュディがかなり気味悪がっているのが見える。

「おい、一つの体で男声と女声を出すのはやめろ……」
「そうだぞ。プリマが憑依してる間はプリマが喋る!」
「いや、それはちょっと……」
「ふふふふ……面白い状態でございますね……っ! お気をつけて、何者かが
待ち構えているのでございます!」

 アメーダに静止され、ジュディが正面を向くと、橋の先、中央で
剣を一本前に構え、髪をポニーテールにしている子供のような男が
こちらを睨んでいるのが見えた。

「早速か……あれは神兵だろう。直ぐに襲ってこないってことはまだマシな
相手だろうな。さて、どうする?」
「出来る事なら……戦いたいぞ!」
「おい! だからそれ、やめろって!」
「プリマ、大人しく……暴れるぞ!」

 簡単に憑依なんてさせるもんじゃない。
 俺は改めてそう思った。
 調子が悪いプリマを担ぎながら戦うのは大変だろうと思ったが、もっと大変な状況に
なってしまったようだ。

 さて……この状況、どうしたものか。
 神兵と思われる男……見た所まだ十代のように見える。
 美しい黒髪を一本でまとめた、線の細い好青年といった雰囲気だが……目つきが
尋常じゃないほど悪い。
 どこぞの蛇使いに目をつけられた青年忍者のようだ。

「全員止まれ。この先に何の用だ? 今は大事な儀式の最中。
誰も通すわけにはいかない」
「そちらの言うところの儀式を邪魔するつもりは……ある! ……おい、あおってどうするんだ! 
そうじゃない。俺たちは何も……する!」
「儀式を邪魔する? 一体何の目的で……他国の破壊工作か」
「違うのでございます。我々は少々つまらぬ用事がございまして。邪魔をするつもりは
ないのでございます」

 ナイスフォローだアメーダ。
 今の俺はプリマの暴走を止められる気がしない。
 そのまま交渉を続けて……あれぇ? 

 気づくと俺は両手に黒い鎌を二本、握っていた。
 冗談じゃない! いきなり問答無用で戦闘するつもりか? 

「そっちの男はそのつもりがないように見えるが? いいだろう、そちらの男と一対一で相手をしてやる。
ちょうど退屈な見張りに飽きていたところだ」
「いいぞ。死霊族のプリマが相手をしてやろう!」

 盛大に喧嘩を売った。これはもう止めようがない。
 何でこうなるんだ……。

「何? 死霊族だと? ……ふっふっふ。はーっはっはっはっは! 
どうやらただのイキリだったようだな。この地で死霊族が相手になるとでも? 
くだらない冗談だ。そっちの女も死霊族か。もう一人は……無機人族か。
この先にどんなようかはしらんが、諦めて引き返すんだな。先に進んでも死ぬだけだ」
「通してくれるのか?」
「通りたければ勝手に通れ。俺が見張っているのはもっと厄介なモンスターや亜人種、魔族だ」
「……それじゃ遠慮なく……いくわけないだろう! プリマをバカにしたな! 
絶対許さないぞ、お前!」

 俺は勝手に二又の鎌を空中で振りながら構えだす。
 まるで体の言う事が聞かないが、怒りに我を失っているプリマの思考だけはわかる。

 もうこうなったらやるしかないか……さっさと終わらせて先に進ませてもらおう。
 
 しかし鎌か……まともに使った事がない武器だ。
 上手く扱えるのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...