異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

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第四章 シフティス大陸横断

第七百三話  無機人族、ジューザス・ディング

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 アメーダが淹れてくれた茶を飲む。
 口の中に広がる香りは鼻を通り抜け、鼻腔にまで響き渡るようだった。

 ……と言いたいところだが、そこまで香りに詳しいわけでは無いのでとにかく美味い。
 そういえば前世では高級とされる紅茶も簡単に飲めてしまう時代だったな。
 アールグレイやダージリン、セイロンなど無数の香りと味わいが楽しめる茶。
 珈琲とは二大嗜好飲料といってもいい程に人気があった。
 俺としては断然珈琲派だったが、カフェイン過多な世の中であったことは間違いないだろう。

「……茶ってのはこんな美味いものなのか?」
「無機人族ってのは味覚、あるんだな。痛覚はないだろ?」
「場所によっては痛覚もある。部分的に液体化することは可能だが、全てを液体化することは不可能だ」
「味覚が楽しめるなら……アメーダが出したそれも食べてみろよ。まったく、いつの間に詰め込んだんだか」

 俺が寝ている時にでも詰めておいたのか、クッキーとアップルパイまであった。
 アップルパイは間違いなくファナやサラたちが作って持たせたものだろうな。
 
 出かける前に四人には子供が産まれた時の名前の候補を伝えてある。
 勿論俺だけの意見で押しとおすわけにはいかないので、四人にはその名前でもいいし、変えたいなら
それはそれでいいから意見を要望したが、全員伝えた名前で大喜びしてしまった。
 男女どちらか不明なので合計八名分の名前。大変だった……。
 それにメルザの子供が産まれた時の名前も考えてある。
 こちらはメルザに会うまで誰にも言うつもりはない。

「それは残念でございますね……」
「おい。考えを読むのはやめろアメーダ」
「……うん? なんか言ったか?」
「いや、何でもない」
「それよりこのサクサクしやがる食べ物は何だ! 中から酸っぱい感覚が広がりそれをこの紅茶ってやつで
流し込むと……お前らこんな美味い物毎日食ってるのか……ってそうでもなさそうだな。そいつ見てると」
「あ……」
「モグ……!」
「……別にいいよ。そんな、見つかった! みたいな顔しなくても。俺は帰ったら自分で作れるから好きなだけ食べろ」

 プリマは俺の皿に手を伸ばしてアップルパイを取り口に放り込んでいた。
 余程気に入ったのか、皿に残ったアップルパイの残り生地も丁寧にとって食べている。

 それだけ綺麗に食べてくれたら、作った者冥利に尽きるな。
 だから料理はやめられないんだけど。

「いかがでございましたか? 好感度、爆上がりでございますか?」
「好感度って言うな! ……腹も膨れた事だ。話の本題に入ろう。すまないが今から言う事に嘘は
つかないでくれ。頼む。あんたの名前から聞かせてくれないか」
「はぁ。こんな美味い物食わせてもらって名前に嘘なんざつくかよ。偽っても別にしょうがないしな。
俺はジューザス・ディングだ」
「ディング……ちょっと呼びにくいな。ジューザス……ジューザ……ジュディでいいか?」
「それはいい呼び名でございますね。親近感があるのでございます。きっと好感度が……」

 その話はもういいと言わんばかりにアメーダの口を押える。
 放っておけば二回目のパーフェクトティータイムが始まってしまいそうだ。

「まぁ、別に構わねーけどよ。それで聞きたい話ってのは?」
「神風橋ってのはここからずっと東なんだろ? そこって普通に渡れるものなのか?」
「行った事があって行こうとしてたんじゃないのか? 呆れるぜ、本当。
ここから東。雪原の洞穴を抜けた先だ。山周りでも行こうと思えば行けるが、山周りなら
厳しい道だ。何せこの時期は吹雪が定期的に訪れる。穴を抜けてった方がマシだ」
「マシ……ね。プリマ。ここから先はお前の歪術だと向かえないんだよな?」
「無理だな。世界が半分ねじ切れてもいいならって言っただろ?」
「おいおい物騒なやつだな……何言ってるんだ?」
「……俺たちは王女の声を戻す目的があるって言ったよな。
ジュディが案内をしてくれるなら、その目的も果たしやすくなるんだけど……必要なら
報酬も出すよ。俺の町にはその美味い物も沢山あるし」
「護衛の依頼か。だが……墓守をさぼるわけにはいかねーな。他の奴と相談する必要はあるが……
王女が死んだって話も聞いたんだ。お前さんが助けようとしてるのは本当にミレーユ王女なんだな?」
「あなた様。この者は安全でございました。正体を明かしても平気でございますよ」
「そうか……ちょっとショックを受けるかもしれないけど」

 アメーダがこちらをにっこりと見つつ王女から離れると、王女は俺の方から視線を逸らした。
 やっぱ嫌われてるな……俺。

「ルイ・クシャナ・ミレーユその人だ。だが、喋る事が出来ずにいる」
「……」
「……なんてことだ。俺は……王女様一味を襲ったってのか……すまねえ。すまねえ……」

 帰って逆効果だったか……「あなた様。好感度駄々下がりでございます……」
「それは好感度じゃないだろう!」
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