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第四章 シフティス大陸横断

間話 悲しき宿命に終わりなき愛を、アルカーン その二

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 更に数年が経った。
 フェルドナージュ様に召し抱えられた俺。
 あの時襲ってきた奴は……フェルド家の長男、ナーガ。
 恐ろしい実力を持ち、妖魔国の支配を目論む邪眼の使い手。
 兄弟というのは本来殺しあうものなのか? 
 俺にはよくわからなかったが、リルやサラとそのような事をしようとは思わなかった。

 時折、フェルドナージュ様と母が重なって見える事に、戸惑いを覚えるようになった。
 

 ――――ある日、術の鍛錬を兼ねて、気まぐれに訪れた森の中。
 そこでおかしな奴を見つけた。
 そいつは中々に強者だと感じたが、どことなく俺に似ている雰囲気があり、気になって声をかけた。

「おい貴様。ここで何をしている」
「突然なんだ? 貴様こそ誰だ」
「俺はアルカーン。術の練習中だ」

 突然襲い掛かって来ようとするそいつ。
 血の気の多い奴だが、なぜか嫌いでは無かった。
 不思議とこいつを招き入れたくなった。フェルス皇国は人手不足にも程がある。
 有能そうなやつなら、俺の仕事も減るかもしれん。そう考えた。
 この頃になると、アルカーンの体もできあがり、時の空間での実験にも耐えられるようになった。



 ――――――――
 ベルローゼがフェルドナージュ様の部下になってから随分と時が経った。
 今では右腕ともいえる存在。俺の見立ては間違っていなかったようだ。
 これで作業に専念できる……。
 どういうわけか俺は、時計を造らなくては生きていけない性分らしい。
 しかしこの空間は危険だ。多様すれば肉体の劣化は否めない。
 そんな折……リルがどうしても地上でアーティファクトを探したいという。
 神話級アーティファクトはそうそう見つかるものではない。
 成長したとはいえ、まだまだ未熟。俺の領域へとつながるゲートを渡してくれぐれも用心するように
伝えた。
 危なくなったら直ぐに戻るよう念を押して見送る。
 本来であるなら十年に一度しか行くことができない地上。
 だが俺にとってみれば、そんなもの、関係ない。
 しかしそれを明かす事は出来ない。

「デシアなら、止めたのだろうか。それとも送り出したのだろうか。俺は上手く演じられているのか? 
それすらもわからない。だがリルもサラも随分と大きくなった。しかしどうも避けられている気がする。
やはり上手く演じ切れてはいないのだろうか。この国にいる者は他者に無関心だ。どうしたものか……」

 しばらく時計造りに専念していると……リルは変な奴を連れて戻ってきた。
 体が真っ二つに割れ死にかけている。この領域で無ければ絶命は免れなかっただろう。
 
「アルカーン。面白いのを拾ってきたんだ。間違いなく神話級アーティファクトだよ」
「ほう。それを献上すればフェルドナージュ様はお喜びになるだろう。
しかしそいつは何だ? 死にかけのゴミを拾ってきたのか」
「ううん。彼も面白そうだから拾ってきたんだ。まさか地上で半分幻魔がまじった妖魔を見かけるとはね。治してあげたいから
ここしばらく借りるよ」
「……構わないが、長居はするなよ」
「わかってるよ。邪魔はしないから」

 嬉しそうな弟を見るのはいつ以来だろうか。
 それほど死にかけの半幻半妖に興味がわいたのか? わからない。

「そうだ、アルカーンも紹介しておくよ」
「弟よ、わたしは半幻半妖などに興味はない。
もう治ったなら領域は閉じるぞ」
 
 あまり長くリルをこの空間に留めておきたくは無かった。
 だが男を心配している以上、そうもいくまい……。 

「まだだめだよ。半分も癒えてない」
「終わったらテトラシルフィードは頂くぞ。俺はあれの調整に戻る」
「うん。わかってるよ。でも早く出て行って欲しいなら薬をくれてもいいと思うんだけど」
「仕方ない。一つやろう」
「ありがとう。よかったね君。もう少し早く治るよ」

 いつの間にかリルは、他者の面倒をよく見るようになっていたんだな。
 これはデシアが望むものだったのだろうか。
 リルはサラとも仲がいい。
 俺だけが離れている。
 だがそれは仕方ない事だ。
 俺は本物の兄妹じゃない。
 仮初のものだ……。


「ああやって日がな時計を愛でているんだ。それじゃアルカーン、僕らはちょっと出かけてくるよ」
「待て弟よ。お前からは代価を貰ったが、そっちのからは貰っていない。ルインだったか。
貴様も私に代価を払え」

 俺がこいつに無償で提供してやる事は無い。
 そう思い、気まぐれで対価を要求した。
 当然何も払えるものなど無いと、この時は考えていた。

「わかった。助けてもらったんだ。それくらいはどうにかするさ」
「僕にもお礼あるよね?」
「……ああ、リルがそう望むのであればそうしよう」
「それじゃ僕も何か考えておこうかな。はいこれは礼服。伸び縮みするやつだから」

 リルの優しさに対してそっけなく応えるこの男。
 きっと何も出来ぬだろうし、口だけだと、そう考えていた。
 俺が興味を惹くものは多くない。それを二つも要求した。
 それだけでも世界を駆け回らねば見つけられぬだろう。そう考えていた。
 しかし……この男は、俺の想像をはるか遠く越えている存在だった。
 突如土足で俺の領域へと足を踏み入れたそいつは、俺にお願いをしてきた。
 だが俺は、まだ何も返されてはいなかった。

 ――――それから俺は、自分の領域で研究に没頭していた。
 だがこの部屋への来客は一瞬。
 直ぐにそいつはやってきた。


「フェドラートさんにここへ案内されて……あの、お願いがあるのですが」
「貴様にはまだ借りを返してもらっていないが?」
「実は持ってきたものがあるのです。お宅にお邪魔しようと思ったときに
お渡ししようとしてたものがありまして」
「ほう……今そちらに行く。待っていろ」
 

 そいつは……時計を俺に差し出した。
 あり得ない話だ。
 どちらもゲンドールの世界に存在し得ない形状。
 秒針の動かし方こそ雑だが、短期間の間に二つも新しい形状の物を俺の前に差し出してきたのだ。
 こいつと……そしてそれを作成した者に興味がわいた。
 こんな感情はアルカーンとなってから、初めての事。
 それほどまでに衝撃を受けた。

「……いいだろう。ただその製作者に会う事以外に二つ条件を付与する。
一つはその技術者の更なる飛躍のための指導権利。それと時期は問わんが別の形の時計を一つ考えろ」

 こいつにはきっと何かある。そして更に上があるはずだと確信した。
 そして俺は更にもう一つ、別の形状を要求した。これが達成できるなら、こいつは間違いなく
逸材だ。
 しかし誰かに頼み込んで作って来たのなら、これで終わりだろう。
 こいつはそれもあっさり了承して見せた。

 俺は、そいつが望むものを作ってやることにした。

 ――――それからしばらくして……子供を紹介された。
 ニーメという名で、時計を作って見せたのはこの子供。
 だがただの子供ではない。神の気配……恐らくは神兵。
 しかし俺は何も聞かずただ実力だけを買った。
 この子供は恐ろしい速度で成長をしてみせた。
 ただの人間や魔族ではこうはならん。
 俺を除けば唯一の技量の持ち主と言えるだろう。
 時代の天才、数億いる生命体の中でも群を抜いている技量だった。
 そして……俺を慕う者が初めて出来た。
 よくわからない感情が、俺の中に渦巻く。

 それからというもの、そいつ……ルインと接する機会が増えた。
 そのたびに……俺は変わっていった。
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