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第三章 幻魔界

間話 宿場の昼下がり

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 ルインたちが幻魔界へ行ってまもなくの頃。
 宿屋にて。
 エプタは右塔のものを処理すると、ブネの許へ戻っていた。
 ブネもまた、ロキの事をイネービュに報告していたのだが……。

「んで、イネービュ様は何て言ってた? 大方予想はつくが」
「放っておいていいと。ただそれだけだ」
「……やっぱりか。相変わらずロキに甘いな」
「だが禁忌に触れている事を話しても放っておいていいと言われるとは。
何か他に事情があるのかもしれぬ」
「放っておいていいってのは、今のところは泳がせておけってことだろ。
それこそあいつがどうにかすると思ってるんじゃねえのか?」
「その可能性はあるが、ロキは上位神。あやつではまだ対処できぬだろう。
仮にできたとしても、代償は伴う」
「右塔にいやがったやつも案の定薬漬けだったぜ。本当に放っておいていいのかねえ」
「……わからぬ。何かお考えあってのことだろう。それよりもどうだ、下位神の動きに
不審な点はあったか」
「この大陸では今のところ見当たらねえな。それこそロキに聞いた方が早いんじゃねえのか?」
「無茶を言うな。シラをきるにきまっているだろう。混沌でバランスを取る神など、まともな
交渉相手には相応しくない」
「んで、どうすんだこの先。本当に聖戦なんて起こるのかねえ。
俺にゃさっぱりわからねえ。起こすやつの気もしれねぇ」
「それくらいにしておけ。ここは領域ではないのだぞ。今はこの大陸で情報を集めろ。
暗躍する者の手がかりがあるとすれば、ゲンドール屈指の争乱の地、この場所に他ならない」
「それこそロキの仕業なんじゃねえのかよ?」
「違うな。あれは神としての役割を果たしている。混沌を司る神。
今のところ四神に歯向かうとは思えぬな。今のところはだが……他にも必ずいるはずなのだ。
それこそロキとは比較にならないほど危険な存在が」
「んなやつに対抗できるのかねえ。あの野郎は」
「イネービュ様はそう信じている。だからこそ我々を遣わせたのだろう。
こちらの護衛は娘たちに任せる。貴様はそろそろ行け」
「へいへい。そういやエーナは死零族のところまでアレを持ってったらしいな。
俺にも少しわけてもらうぜ。潜入道具にするからよ」
「構わんが、次はどのあたりに向かうつもりだ?」
「パトモスとかいうここからずっと北西にいった場所だ。しばらくはここにいんだろ? 
その間に周辺全部調べておいてやるよ。そんじゃな」

 すーっと消えるように部屋から出ていくエプタ。
 ブネはその後姿を見ていない。
 彼女が見ているのは自分の腕。
 何かを愛惜しむかのように腕を撫でていた。

「野蛮なやつだが本当に貴様を心配しているのだな。
お主を妹分と重ねてみている姿、まるで兄のようだった。
不思議なものだ。もう少しでお前に会えると思うと嬉しく思う。
その反面、別れを告げるのが悲しくもあるな……メルザよ」

 ゆっくり立ち上がると、楽器を手に取り音楽を奏でだす。
 時折窓の外から歓声が聞こえてくる。
 この国には現在、娯楽があるとすれば、美味しい食事を作ってくれる店と
音楽くらいのもの。
 人々はブネと、もう一人の奏でる音楽に、心を支えられていた。
 ――――暫くして部屋の扉を叩く音が聞こえ、一度楽器を止めると、一言声をかけた後
美しい女性が入って来る。

「レナ。今日も練習に来たのだな」
「はい。じっとしていられないのと……その……」
「ふむ。あの青年を元気付けたいか。殊勝な心掛けだ」
「私に出来る事が少なくて……でも、きっと帰ってきますよね」
「当然だ。このブネが言うのだ。間違いない。だから安心して子を産むのだぞ」
「ええっ!? なな、何を突然……」
「子はいいものだ。たくましく育てるように」

 かぁーっと真っ赤になるレナに、自分の持つ楽器を渡すと、さらにもう一つの楽器を
手に取り、演奏を開始する。

 レナも直ぐに身を引き締め、ブネに合わせるように楽器を奏でだした。
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