712 / 1,085
第三章 幻魔界
間話 宿場の昼下がり
しおりを挟む
ルインたちが幻魔界へ行ってまもなくの頃。
宿屋にて。
エプタは右塔のものを処理すると、ブネの許へ戻っていた。
ブネもまた、ロキの事をイネービュに報告していたのだが……。
「んで、イネービュ様は何て言ってた? 大方予想はつくが」
「放っておいていいと。ただそれだけだ」
「……やっぱりか。相変わらずロキに甘いな」
「だが禁忌に触れている事を話しても放っておいていいと言われるとは。
何か他に事情があるのかもしれぬ」
「放っておいていいってのは、今のところは泳がせておけってことだろ。
それこそあいつがどうにかすると思ってるんじゃねえのか?」
「その可能性はあるが、ロキは上位神。あやつではまだ対処できぬだろう。
仮にできたとしても、代償は伴う」
「右塔にいやがったやつも案の定薬漬けだったぜ。本当に放っておいていいのかねえ」
「……わからぬ。何かお考えあってのことだろう。それよりもどうだ、下位神の動きに
不審な点はあったか」
「この大陸では今のところ見当たらねえな。それこそロキに聞いた方が早いんじゃねえのか?」
「無茶を言うな。シラをきるにきまっているだろう。混沌でバランスを取る神など、まともな
交渉相手には相応しくない」
「んで、どうすんだこの先。本当に聖戦なんて起こるのかねえ。
俺にゃさっぱりわからねえ。起こすやつの気もしれねぇ」
「それくらいにしておけ。ここは領域ではないのだぞ。今はこの大陸で情報を集めろ。
暗躍する者の手がかりがあるとすれば、ゲンドール屈指の争乱の地、この場所に他ならない」
「それこそロキの仕業なんじゃねえのかよ?」
「違うな。あれは神としての役割を果たしている。混沌を司る神。
今のところ四神に歯向かうとは思えぬな。今のところはだが……他にも必ずいるはずなのだ。
それこそロキとは比較にならないほど危険な存在が」
「んなやつに対抗できるのかねえ。あの野郎は」
「イネービュ様はそう信じている。だからこそ我々を遣わせたのだろう。
こちらの護衛は娘たちに任せる。貴様はそろそろ行け」
「へいへい。そういやエーナは死零族のところまでアレを持ってったらしいな。
俺にも少しわけてもらうぜ。潜入道具にするからよ」
「構わんが、次はどのあたりに向かうつもりだ?」
「パトモスとかいうここからずっと北西にいった場所だ。しばらくはここにいんだろ?
その間に周辺全部調べておいてやるよ。そんじゃな」
すーっと消えるように部屋から出ていくエプタ。
ブネはその後姿を見ていない。
彼女が見ているのは自分の腕。
何かを愛惜しむかのように腕を撫でていた。
「野蛮なやつだが本当に貴様を心配しているのだな。
お主を妹分と重ねてみている姿、まるで兄のようだった。
不思議なものだ。もう少しでお前に会えると思うと嬉しく思う。
その反面、別れを告げるのが悲しくもあるな……メルザよ」
ゆっくり立ち上がると、楽器を手に取り音楽を奏でだす。
時折窓の外から歓声が聞こえてくる。
この国には現在、娯楽があるとすれば、美味しい食事を作ってくれる店と
音楽くらいのもの。
人々はブネと、もう一人の奏でる音楽に、心を支えられていた。
――――暫くして部屋の扉を叩く音が聞こえ、一度楽器を止めると、一言声をかけた後
美しい女性が入って来る。
「レナ。今日も練習に来たのだな」
「はい。じっとしていられないのと……その……」
「ふむ。あの青年を元気付けたいか。殊勝な心掛けだ」
「私に出来る事が少なくて……でも、きっと帰ってきますよね」
「当然だ。このブネが言うのだ。間違いない。だから安心して子を産むのだぞ」
「ええっ!? なな、何を突然……」
「子はいいものだ。たくましく育てるように」
かぁーっと真っ赤になるレナに、自分の持つ楽器を渡すと、さらにもう一つの楽器を
手に取り、演奏を開始する。
レナも直ぐに身を引き締め、ブネに合わせるように楽器を奏でだした。
宿屋にて。
エプタは右塔のものを処理すると、ブネの許へ戻っていた。
ブネもまた、ロキの事をイネービュに報告していたのだが……。
「んで、イネービュ様は何て言ってた? 大方予想はつくが」
「放っておいていいと。ただそれだけだ」
「……やっぱりか。相変わらずロキに甘いな」
「だが禁忌に触れている事を話しても放っておいていいと言われるとは。
何か他に事情があるのかもしれぬ」
「放っておいていいってのは、今のところは泳がせておけってことだろ。
それこそあいつがどうにかすると思ってるんじゃねえのか?」
「その可能性はあるが、ロキは上位神。あやつではまだ対処できぬだろう。
仮にできたとしても、代償は伴う」
「右塔にいやがったやつも案の定薬漬けだったぜ。本当に放っておいていいのかねえ」
「……わからぬ。何かお考えあってのことだろう。それよりもどうだ、下位神の動きに
不審な点はあったか」
「この大陸では今のところ見当たらねえな。それこそロキに聞いた方が早いんじゃねえのか?」
「無茶を言うな。シラをきるにきまっているだろう。混沌でバランスを取る神など、まともな
交渉相手には相応しくない」
「んで、どうすんだこの先。本当に聖戦なんて起こるのかねえ。
俺にゃさっぱりわからねえ。起こすやつの気もしれねぇ」
「それくらいにしておけ。ここは領域ではないのだぞ。今はこの大陸で情報を集めろ。
暗躍する者の手がかりがあるとすれば、ゲンドール屈指の争乱の地、この場所に他ならない」
「それこそロキの仕業なんじゃねえのかよ?」
「違うな。あれは神としての役割を果たしている。混沌を司る神。
今のところ四神に歯向かうとは思えぬな。今のところはだが……他にも必ずいるはずなのだ。
それこそロキとは比較にならないほど危険な存在が」
「んなやつに対抗できるのかねえ。あの野郎は」
「イネービュ様はそう信じている。だからこそ我々を遣わせたのだろう。
こちらの護衛は娘たちに任せる。貴様はそろそろ行け」
「へいへい。そういやエーナは死零族のところまでアレを持ってったらしいな。
俺にも少しわけてもらうぜ。潜入道具にするからよ」
「構わんが、次はどのあたりに向かうつもりだ?」
「パトモスとかいうここからずっと北西にいった場所だ。しばらくはここにいんだろ?
その間に周辺全部調べておいてやるよ。そんじゃな」
すーっと消えるように部屋から出ていくエプタ。
ブネはその後姿を見ていない。
彼女が見ているのは自分の腕。
何かを愛惜しむかのように腕を撫でていた。
「野蛮なやつだが本当に貴様を心配しているのだな。
お主を妹分と重ねてみている姿、まるで兄のようだった。
不思議なものだ。もう少しでお前に会えると思うと嬉しく思う。
その反面、別れを告げるのが悲しくもあるな……メルザよ」
ゆっくり立ち上がると、楽器を手に取り音楽を奏でだす。
時折窓の外から歓声が聞こえてくる。
この国には現在、娯楽があるとすれば、美味しい食事を作ってくれる店と
音楽くらいのもの。
人々はブネと、もう一人の奏でる音楽に、心を支えられていた。
――――暫くして部屋の扉を叩く音が聞こえ、一度楽器を止めると、一言声をかけた後
美しい女性が入って来る。
「レナ。今日も練習に来たのだな」
「はい。じっとしていられないのと……その……」
「ふむ。あの青年を元気付けたいか。殊勝な心掛けだ」
「私に出来る事が少なくて……でも、きっと帰ってきますよね」
「当然だ。このブネが言うのだ。間違いない。だから安心して子を産むのだぞ」
「ええっ!? なな、何を突然……」
「子はいいものだ。たくましく育てるように」
かぁーっと真っ赤になるレナに、自分の持つ楽器を渡すと、さらにもう一つの楽器を
手に取り、演奏を開始する。
レナも直ぐに身を引き締め、ブネに合わせるように楽器を奏でだした。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

【スキルコレクター】は異世界で平穏な日々を求める
シロ
ファンタジー
神の都合により異世界へ転生する事になったエノク。『スキルコレクター』というスキルでスキルは楽々獲得できレベルもマックスに。『解析眼』により相手のスキルもコピーできる。
メニューも徐々に開放されていき、できる事も増えていく。
しかし転生させた神への謎が深まっていき……?どういった結末を迎えるのかは、誰もわからない。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる