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第三章 幻魔界

第六百十七話 幻中の|白丕《びゃくひ》

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 白丕に案内されたベリアルたちは、虎の口より建物の中へと入る。
 絢爛煌びやかな室内には地面に座する形式の食事処が用意されている。

 美しい虎のいで立ちをした女性が幾人もおり、最奥へと白丕は腰を掛ける。
 ベリアルは少し首を傾げつつ腕を組み、思考していた。

「これは俺たちのために設けた席か? その割には随分と支度が整ってる。
一体誰を呼ぶつもりだった席だ?」
「幻深の朱の遣いだ。して、貴様は何用でこちらへ来た」
「一言でわかりやすく言うならおめえを取り込みに来た」
「……それは冗談か何かか?」

 席に着いた途端、おかしなことを言うベリアル。
 室内の空気が一変する。
 しかしベリアルは平然としたまま話を続けた。

「俺ぁよ。この領域事地上へ取り込みてえんだ。
こんな瘴気くせぇところにいるより、地上へ出てぇとは思わねえのか? ここは
バラムの野郎が作った領域だろう」
「そんなこと出来るはずなかろう。おかしなことを言う奴だな」

 再び青白い虎と黒い虎が左右から現れうなり声をあげはじめる。
 一瞥するとつまらなそうにそっぽを向くベリアル。

「おめえこそつまらない奴だな。まだビュイの方が面白ぇぞ。
地上に興味が無えならこの話は無しだ。おめえはやめて他の二匹を取り込むとするか」
「まさか朱と青に挑むつもりか……命知らずな奴だな」

 その話をするかどうかのところで、冷静な判断をすると思われる青白い虎がベリアルへとびかかった。

 それを予測していたかのように、ベリアルの口角が吊り上がる。

「くくく、そうでなくっちゃな。冷静な奴が判断を見誤るってのはいつ見ても楽しいねぇ……ブラックヘイロー!」

 黒い輪が青白い虎の首へはまり、ラーヴァティンの先端へとそれは繋がれる。
 青白い虎を助けようと突進した黒虎にも同様にブラックヘイローがはめ込まれ、黒い鎖の
ように繋ぎ止められた。

『ぐぉ……』
「沖、彰! く……入口での一撃はほんのあいさつ代わりか……」

 更に白丕へ向けても同様の攻撃を行う……が、こちらは虎の手で弾かれてしまう。
 侍女たちが所持してきた食事に手をつけながら、更に力を行使するベリアル。

「俺は操ったり取り込んだ者の力を増幅して行使するのが得意でね。ほらよ!」

 青白い虎と黒い虎は勢いよく白丕へとびかかる二匹の虎。
 しかしシュルシュルとすぐ人型へと変化していく。

「ぐ……主を傷つけるわけには!」
「おのれぇ! 離しやがれこの長髪野郎が!」

 大暴れするのは美丈夫。青白い衣服で身を包んだ男性と
黒い強面の大柄な筋肉質の男性。

 両者は懸命にブラックヘイローを外そうとするが、まったく外れない。

「ようやく姿を現したか。敵の懐に迂闊に突っ込むとどうなるかはわかってたんじゃねえのか?」
「ぐっ……」
「こんなもの、引きちぎってやる!」
「……よせよ。ラーヴァティンにつなげてんだぞ。死んでもおかしくねえぜ、そりゃよ」
「弟たちを、離してくれ……」
「姉御ぉ!」
「主と呼べと言っているだろう! 彰!」
「でもよぉ……」
「われらはどうなってもいい。だが主に危害を加えるのは勘弁願えるだろうか」
「危害を加えるつもりは鼻っからあったわけじゃねえ。
言ったろ。取り込みてぇだけだ。悪いようにするわけじゃねえし地上にも出せる」
「なぁ。ご主人様はなんで取り込むっていうだ? ナナーは取り込まれたって聞いた時、最初は
死ぬと思っただ。でも死ぬどころか快適だ」
「ふむ。こやつは話をするのが苦手なのだ。察してやれ」

 襲われていたベリアルとは違い、ナナーとビュイは黙々と食事を取っていた。
 結果もどうなるかわかっていたようで、食事位置から微動だにしていない。

「んじゃなんていえばこいつらに伝わるってんだ?」
「うーん。美味しいごはんが食べれるとこにつれてってもらえるだ」
「暴れて遊べるところへいつでもいける! ではないか?」

 両者の発言に、白い虎の姿から変化していく白丕。
 その姿は、顔に猫の毛のようなものが生えた、真っ白なすらっとした立ち振る舞いの女性だった。
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