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第三章 幻魔界

第六百一話 狭い庵の中で

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 敗北はしなかったが魔の底を見据えて魔になりきれないってのはざまぁねえな。
 お前の力あんなものかよ。

「るぁ……」

 舌も何もかもズタズタ。五感も働かず役立たず。
 無能で無力、無価値な存在。


「ぅるぁ……」

 はぁ。おめぇが左塔であのエルゲンとかいうやつをぶっ殺せていれば、俺が中央塔で
瞬殺してやれたのによ。情けねぇ情けねぇ。こんな半魂ごめんだぜ、くそが。


「にぃ……なに」

 まともに喋れねえのにたてつくつもりか。ハッ! 根性だけは認めてやるよ。
 しかし、今回のはまじで危なかったな。
 ククク。おめえの仲間を取り込もうとしたが見つかっちまった。
 まぁいいけどよ。
 おめえはしばらく出てこれねえ。
 
「好きにさせてもらうぜ……おめえは休んでな」
「……気が付いたか殿方殿。いや、もう一人の御仁」

 ゆっくりと起き上がった彼は、手や目、体の感覚を確かめる。

「まだ動かぬ方がいい。傷口が開く」
「おめえを取り込めば……ダメだな。精神体か」
「よくご存知で。あなたは、何者ですか?」
「ふん。おめえの言う通りまだ寝ててやる。俺はベリアルだ。ソロモンの悪夢、最強の魔。
そう恐れられていた者の魂魄だ」
「ソロモンの悪夢、ベリアル殿か。殿方殿とはお話叶わぬかな」
「あのヘタレ野郎は五感を殆どやられている。回復に時間がかかるだろうな」
「あの傷だ。あなたがそう喋っていられることが不思議でならない」
「俺はよ、結構喋るのが好きなんだぜ? こいつときたら無口だろ?」
「ふふっ。そうですな。殿方殿は確かにあまり喋らない。自分の事も語ったりはほぼしない。
無口な殿方殿とお喋りな御仁か。実にお似合いではないかな?」
「けっ。好き好んでこいつと魂魄を合わせているわけじゃねえよ。タルタロスの野郎……あいつの
せいだ。それよりここは亜空間だな。おめえが構築したのか?」
「いいや。ここを構築したのは闇の賢者ブレアリア・ディーン。別名、バラム・バロム」
「何だよバラムのやつか。道理で嫌な瘴気を発してやがると思ったぜ」
「幻魔界は過酷な環境故。この庵以外では継続して傷を負うでしょうな」

 少し肩を回し腕を挙上させたりするベリアル。
 再びゆっくり起き上がると、辺りを見渡す。
 殺風景な部屋で、必要最低限の物しかない。
 こんなところにずっといれば、頭がどうにかなってしまいそうだ。

「おめえはここで何してやがるんだ?」
「招来されるのをただじっと、待っている。それが私の役目」
「俺をここへ連れてきた仮面のやつはどうした」
「一度戻った後、御仁の傷を治すための更なる薬材料を取りに向かい、まだ戻らぬようです」
「……ちっ。結局あの仮面に取り込みを防がれ、仮面の奴に助けられたのかよ。仮を作るのはご免だね」
「返す方法はわかっていますかな」
「ああ。バラムのやつを復活させればいいんだろ」
「察しのいいところは殿方殿と同じか。そろそろジェネストも戻って来るでしょう。
今は暫くお休みなされよ」
「わかったようるせえな。それより傷が少し癒えたら相手させろ。
おめえ、相当やるだろ」
「おや奇遇ですな。こちらからお伝えしようとしましたのに。
あなたの戦い方を少々拝見してみたくてね。どれほど殿方殿と違う戦い方をするのかを」
「あんなへっぴり腰と一緒にされちゃかなわねえな。お優しい国で産まれたお優しい戦士なんだろうよ。
いい肉体があるってのにまるで活かせてねえ」
「……表裏一体。あなたの力を引き出せれば、殿方殿はもっと強くいられる。
そう思うのだが、違うかな?」
「……ふん。興味ねえな」
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