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第三章 幻魔界
第六百話 引きずり込まれる幻魔の地と血
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幻魔界……そこは幻魔の血を用いて開く領域より入れる場所。
誰しもが入れるわけでは無く、また、入ったとしても簡単に出られるわけでもない。
その領域は過酷な環境下であり、地面からは瘴気が噴出している。
さらにこの領域では、時の流れが非常に遅く、地上との時間乖離が激しい。
「クリムゾン、あなたなら彼を救えると思い連れてきました」
「無茶を言う。この状態では万に一つも助からんだろう」
「……いいえ。恐らく生贄となる何かがあれば、助けられるのでしょう。
それを証拠に……初めて私と対峙した時のもう一人の彼が出て来ようとしていました」
「妖魔の吸収能力か……しかし、取り込もうとしたのを防いだのか? なぜ」
「彼の……仲間を取り込もうとしたからです。そして、あの娘は甘んじてそれを
受けたでしょう。止められるぎりぎりのタイミングでした。私に気づいて彼は
ひっこんだようですが……時間があまりないのでここへ連れてきたのです」
「彼……とは殿方殿に眠るもう一つの力か」
「ええ。凶暴性そして、残忍性をもっています」
「この状態であるなら、猿次棋王クラスの魔物でなければなるまい」
「猿次棋王ですか……容易い相手とはいきませんね」
「仕方あるまい。私が殿方殿の一部になりたいところだが、そうもいくまい」
「あなたは仮初の精神体。取り込んでも無意味でしょう。この状態、あとどのくらい持ちますか?」
「幻魔時刻で二刻か、或いは一刻か……かな。殿方殿に封印されていた鳥型の魔物は既に取り込んだようだ」
「ホークフレイムですか。彼が大切にしていた仲間のうちの一匹ですね……ショックを受けるでしょう。
パモは、無事ですか?」
「獣の方は無事……というより硬く封印されているな。そうでなければ恐らく取り込まれていただろう。
ドラゴンへは手をださなかったのが不思議だが」
「あれは死竜。恐らく手を出しても効果がないのでしょうね」
「ふむ。そういうことか。どちらかというと捕食ではなく融合だな。私はここで殿方殿の
傷を塞いでおく。なるべく急げよ」
「あなたに言われずともそうするつもりです」
「ふっ……」
「何がおかしいのです?」
「いや。お前が殿方殿のためにそこまで動くとは思わなくてな」
「何を言うかと思えば……彼が死ねば私も死ぬ。だからこそです。ディーン様に再び会う前に死なれては
困りますから」
「ふふっ……これ以上はよそう。さぁいけ、ジェネスト。猿次棋王は気性が荒い。
あまり挑発しすぎず倒してこい」
庵を後にするジェネスト。ちらりと血だらけのツイン、シーを見る。
裂傷、切り傷、火傷。特に目の周りがひどい傷だった。
死んでいると言われても頷ける状態。
だが彼はまだ生きている。それだけは確かだ。
外へ出ると遠目に見える山へ向け走り出す。
せめてウォーラスがいればと、少し後悔していた。
だが地上は地上で大変だろうとも考える。
いつから自分は他者の心配をそこまでするようになったのか。
気づけば彼と似たように、他人のために動く存在へとなり替わっていた。
「不思議なものですね。人というのは。いえ、彼が不思議なのかもしれない。
こんなホムンクルスの私でさえ大きく変えてしまうのだから」
誰しもが入れるわけでは無く、また、入ったとしても簡単に出られるわけでもない。
その領域は過酷な環境下であり、地面からは瘴気が噴出している。
さらにこの領域では、時の流れが非常に遅く、地上との時間乖離が激しい。
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「……いいえ。恐らく生贄となる何かがあれば、助けられるのでしょう。
それを証拠に……初めて私と対峙した時のもう一人の彼が出て来ようとしていました」
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受けたでしょう。止められるぎりぎりのタイミングでした。私に気づいて彼は
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「ええ。凶暴性そして、残忍性をもっています」
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「仕方あるまい。私が殿方殿の一部になりたいところだが、そうもいくまい」
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「幻魔時刻で二刻か、或いは一刻か……かな。殿方殿に封印されていた鳥型の魔物は既に取り込んだようだ」
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パモは、無事ですか?」
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ドラゴンへは手をださなかったのが不思議だが」
「あれは死竜。恐らく手を出しても効果がないのでしょうね」
「ふむ。そういうことか。どちらかというと捕食ではなく融合だな。私はここで殿方殿の
傷を塞いでおく。なるべく急げよ」
「あなたに言われずともそうするつもりです」
「ふっ……」
「何がおかしいのです?」
「いや。お前が殿方殿のためにそこまで動くとは思わなくてな」
「何を言うかと思えば……彼が死ねば私も死ぬ。だからこそです。ディーン様に再び会う前に死なれては
困りますから」
「ふふっ……これ以上はよそう。さぁいけ、ジェネスト。猿次棋王は気性が荒い。
あまり挑発しすぎず倒してこい」
庵を後にするジェネスト。ちらりと血だらけのツイン、シーを見る。
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だが彼はまだ生きている。それだけは確かだ。
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だが地上は地上で大変だろうとも考える。
いつから自分は他者の心配をそこまでするようになったのか。
気づけば彼と似たように、他人のために動く存在へとなり替わっていた。
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