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第二章 仲間

第五百九十八話 恐怖でなく、希望

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「メナス……悪い。離れてて、くれ……紫電清霜……。俺のありったけを……あんたにぶつけるから
……あんた、知ってるか? 俺の……生まれた国にさ。二人静っていう凄く、綺麗な色が……
あるんだ。紅紫色のそれをさ……いつかあいつとお揃いにして、髪を結ってやるんだ……そうだよ。
こんな色さ……紫電のような紫色に……ルージュのような紅が混ざった……」
「くっ……なぜ死なん! 頭も本当におかしくなったか!? もういいさらばだ青年! 裂傷破無音剣!」
「紫電清霜・二人静……」

 闇を斬り割く稲妻が、暗く渋い紅紫色の斬撃となりその場の闇を崩壊させた。
 それと同時に城の中央塔は真っ二つに裂け、オズワルは剣と顔、両腕のみを残し消滅してしまう。
 全身から血を噴き出し落ちゆくツイン・シー。
 メナスは必死に彼を支え、地上へと落下し始める。そのまま叩き落されれば間違いなく死ぬ。
 だが彼女はそれでいいと考えた。
 もう……どう見ても彼は助からない。そう考えていた。
 しかしオズワルの腕が彼女をつかみ、剣とオーブを押し渡して、崩れていない場所へ放り投げた。

「な……なぜ、これを……」
「恐怖ではなく、希望の死をありがとう青年。先に、あの世で待っている。願わくば
青年の生あらんことを……」

 だがメナスの目からは涙が止まらなかった。どう見ても助からない。助けられないような状態だと。

「無理ぞ……私には治癒魔法なぞ使えぬ。無能で無力な私には、どうやっても救ってやれぬ。
何度も助けられたのに。何度も励まされたのに。服で血を拭ってやることしかできぬ。
もう、シー無しで生きてたって何も出来ぬぞ。それならいっそ、ここから……」
「よしなさい! よく……彼を助けてくれましたね。少々遅れ、間に合わないところでヒヤヒヤしまsした」
「……? あなたは誰ぞ?」
「ジェネストと申します。時間がありません。はやく彼をこちらへ! 幻魔の国へ一時的に連れていきます。
あなたは体が動くなら、彼らと共に仲間の許へ案内し、事情を説明なさい……まったく、なんて
無様なやられようですか」
「どうやって、ここまで……いや、本当に助かるぞ? 本当に、彼は……助かるぞ?」
「わかりません。ですが急がなければ助かるものも助からなくなる。さぁ、早く!」

 自分とは違う、仮面をつけた女性。美しい長身、そして自分とは違い、顔に傷は見えなかった。
 恐る恐る大切なシーを彼女に渡すと、彼女は首につけている何かを急ぎシーにつける。
 六指の剣のうち、三指の剣で左腕を突き刺すと、大量の青色の血が流れ出る。

「血が……青ぞ」
「私は幻魔人形。ホムンクルスとも呼ばれます。人ではありません。では、あとは頼みましたよ。
ウォーラス。それにレウス」
「大ピンチだな! でもこいつならきっとだいじょぶだ。な?」
「そうかべ。信じて待つかべ」
「あなたたちは魔物ぞ? この国でそこまでの魔形態のものでは捕まってしまうかもしれない」
「大丈夫かべ。あっちの町はそれどころじゃないかべ」
「いやー、にしても、べっぴんなお嬢さんだ! 俺と結婚するか? な? な?」
「主以外に魂をささげるつもりはない。すまぬぞ……」
「ふられた! ふられちまったよ! だっはっはっは!」
「二人とも、僕がいることを忘れてない? 忘れてるよね? 絶対忘れてるよね、そーだよね? 
ここまで急いで運んであげたのにさ!酷いや! ヒヒン!」
「セーレもいるかべ。彼が運んでくれるかべ。さぁ乗るかべ」

 呆気にとられるメナスをぐいぐいと壁で押すウォーラス。
 セーレに乗ると勢いよく上空を駆け巡り、下町方面へ飛んで行った。

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