上 下
651 / 1,085
第二章 仲間

第五百七十九話 サーカス団イーニーの披露

しおりを挟む
 メイズオルガを馬車で休ませつつ、そのまま移動を開始する俺たち。
 正面奥には背中に槍を持つリトラベイが一人いるだけ。
 場へは真っすぐ続く一本の道があり、外壁はとても高い。
 
 メイズオルガが馬車から出てこない事態でも、顔色一つ、動き一つ変えてなどいないのだろう。
 すべては成り行き通り。そんな雰囲気がこの男にはある。

「それじゃ、開始しようか。先陣は俺が……」
「だめだよ。君はいつもそうやって味方を頼ろうとしない。先陣はドーニーと私が行く」
「ちみは後方支援にまわりなさい」
「私とサニーも続くわ。置いていかれたから暴れたりないの」
「相手が一人じゃ取り合いじゃない」
「共に戦おうぞ。もう、後戻りは出来ぬ……後悔も未練もない」
「落ち着けって。まずはサーカスだ。王女が来て、サーカスの隙をつき正体を暴こう」

 そんな話をしながら進んでいるときだった。上空を竜が飛び始める。
 あの時見た黄竜だけではなく、赤、黒、青い竜が数匹羽ばたいていた。
 側近のような者がもう一人見える。

「ようやく来てくれたのね。歓迎するわ。さぁ私に最高のサーカスを見せて」
「あれが、王女……? 姿はあのときみたものと同じだ」

 サーカス団を呼ぶくらいだ。さぞかし大勢のトループが見る中で行われると思ったが……王の
姿もない。見物人は王女を含めてたったの三人だ。

「開園が待ち遠しいの。早く支度をしてくださる? 馬車の中にいる兄は預かりますわ」
「すぐに支度をして参ります。ですが……メイズオルガ様は容態が優れぬためこちらでお預かりしたいと思います」

 上空の王女に向けて声を発する。その目は怪しく輝き、口角は吊り上がっていた。

「まぁ大変。仕方ありませんわ。待ちきれないのでサーカスを始めてくださる?」
「……それが大変な親族へ心配する顔かよ」

 馬車内のブネに合図を送り、音楽を奏でさせ始める。
 それに合わせてレッジとレッツェルが魔術を行使し始めた。
 下町で見たものとは違い、炎を両手で紐のように持ち上げ輪っかにするレッジの輪炎へ、虎の形をした
炎を飛ばしていく。

 その後ろでは、ファニーが投げるナイフをサニーが邪術釣り糸で吊るしあげている。
 そのナイフを念動力でドーニーが動かす。
 それらを的として正確にビーが打ちぬいていく。
 キンキンと高い音が鳴り響き、ブネが奏でる音楽と調和していった。
 跳ねたナイフをイーニーが空中で受け取り、全て俺へと投げつける。
 
「氷塊のツララ」

 全てを氷塊のツララで叩き落すと、貫通した氷のツララが王女の脇を掠めた。
 しかし満面の笑みのまま。むしろ益々口角が吊り上がっていく。
 
「全然楽しくないですわね。わたくしが見たいのはそんなものではありません。
そのまま続けるおつもりかしら? それともまだ、あの時襲った力を隠すおつもりかしら?」
「あんた一体何者だ。隠しているのはどっちだよ。いい加減正体を表したらどうだ!」
「主に対して無礼な物言いは許しませぬ!」
「……」

 俺の物言いに不服そうな男二人がこちらを睨む。一人はリトラベイ。
 装甲車のような鎧と、長い槍をたずさえている。
 もう一人は黒い軽装の無口そうな男。鋭い目つきを持ち、短槍を握りしめている。

「二人とも、ダメだよ。うふふふ、教えてあげてもいいけどその前に話をしたいの。
お近づきになってもよろしくて?」
「ダメに決まってるじゃない! うちの旦那に何するつもり?」
「そーよそーよ! 主ちゃんがいなくなってからというもの、ちっとも近づけないんだから!」

 息まくファニーとサニーの頭を後ろから撫でると、王女には聞こえないようにこう囁いた。

「怪しい動きを見せたら、俺ごと殺すつもりでやってくれ。頼む」
「……出来るわけないでしょ、そんなの……」
「それで俺が死ぬと思ってるのか? 二人とも」
「……わかったわよ。ちゃんとご褒美はもらうからね!」
「ああ、頼むよ」

 ゆっくりと地上へ降り、竜も下げさせた王女に近づく。
 傍らに控えるリトラベイと短槍の男はこちらを凝視している。

「リトラベイ、ターレキフ。下がりなさい」
「し、しかし……」
「あら。いう事が聞けないのかしら?」
「……承知しました」

 おずおずと下がる二人。これでこいつと二人。
 口角はまだ、吊り上がったままだ。

 さて、こいつは俺に一体どんな用なのか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

欠損奴隷を治して高値で売りつけよう!破滅フラグしかない悪役奴隷商人は、死にたくないので回復魔法を修行します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
主人公が転生したのは、ゲームに出てくる噛ませ犬の悪役奴隷商人だった!このままだと破滅フラグしかないから、奴隷に反乱されて八つ裂きにされてしまう! そうだ!子供の今から回復魔法を練習して極めておけば、自分がやられたとき自分で治せるのでは?しかも奴隷にも媚びを売れるから一石二鳥だね! なんか自分が助かるために奴隷治してるだけで感謝されるんだけどなんで!? 欠損奴隷を安く買って高値で売りつけてたらむしろ感謝されるんだけどどういうことなんだろうか!? え!?主人公は光の勇者!?あ、俺が先に治癒魔法で回復しておきました!いや、スマン。 ※この作品は現実の奴隷制を肯定する意図はありません なろう日間週間月間1位 カクヨムブクマ14000 カクヨム週間3位 他サイトにも掲載

処理中です...