642 / 1,085
第二章 仲間
第五百七十話 バンドールの焦り
しおりを挟む
こんな時にいい医者が手に入るとは、まったくもって運がいい。
しかもコーネリウスを無事男に出来れば、我が領区も安泰だ。
フィルミナのお陰で随分と事が上手くいったわい。
しかしあいつめ。一体どうやって性別転換の秘薬など手に入れたのか……。
試し飲みさせる薬のほうは間違いなく性別変換が起こった。
かなりの金額を要求されたが、仕方あるまい。
それにしても問題はエビルイントシケートの方だな。
我が領区にこれほど蔓延しておるとは。
族に入った娘も面白い能力を持っておった。
まんまと食事に盛った睡眠薬で眠ってくれたが、紛れもない竜種だろう。
美しい緑髪の娘は逃げられたが、惜しいことをした。
「伯爵様。エビルイントシケート用の薬、追加調合が完了しています。
スピアはまだ眠っていて起きないのですか?」
「おや先生。これはどうも。お連れの方はまだ起きませんな。
調子が悪いのでしょうが、先生は特効薬制作でお忙しい身。
そちらは我々で看病しますから」
「いえ。この納品分で依頼分は全てです。忙しい身の上、助手をたたき起こさねば
なりません。案内してもらえませんか?」
「ええ!? もう全部お作りに? いやぁ、そういえばもっと必要だったような」
「残念ながら材料がありません。材料の判別も私が行わなければならず、外の者に
持たせてあるのです。お返し願えませんか」
「それはもちろん! ですがその前に先生もお疲れでしょう。お食事などお取りになり
休憩を。なんでしたら侍女にも相手をさせますから……」
「いいえ。遠慮いたします。先ほどもお伝えした通り忙しいのです。荷物をまとめて参ります」
「あっ……先生!? ……くそ、このまま手放してなるものか」
部屋に戻ってしまった先生を逃したくないバンドールは、少し思案してポンと手を打つ。
どうせなら先生の性別を変えてしまい、この世に同じ人物がもう存在しないことに
すればよいと考えた。あわよくば自分の侍女として屋敷で飼い殺しにするのもありとの算段。
「絶対に手放さんぞ。あれほどの医者、そうは転がっておらん!」
フィルミナにもらった性別変換薬の残りを手に取ると、ゆっくりシュイオンの部屋へ向かうバンドール。
バンドールの今いる部屋は、普段執務を執り行う部屋の奥であり、入り口は一つしかない。
また、かなり奥まった部分にあり、静かに作業をすることを好むため、部屋の入口に衛兵などは
配備していなかった。
「なっ!? なんだ? 扉が開かぬ。ええい、どうなっている!」
どんどんと叩くがまったくびくともしない。そして、バンドールは異様なほど部屋が寒い事に
気付いた。
「なな、なんという寒さだ。凍え死んでしまう!」
急激な寒さに襲われると、人は自然と震えという生命の恒常性現象が起こる。
手にしていた性別変換薬の残りを床に落としてしまったバンドール。
「ああ! 貴重な性別変換薬が! 一体何が起こっている!」
「君はさ。腹黒いよね」
「なな、何だ?」
「しばらくそこで、寒さに震えて過ごすといいよ。考えなしの行動が招いた結果を
反省する意味でもね」
ぶるぶる震えながら何度もドアを開けようとするバンドール。
手は凍傷し、歯をガチガチさせている。
「アネさん。そのくらいで。こいつを殺すわけにはいかない。
聞き出す事が沢山ある」
「しょうがないね。お尻を触られた仕返しをしたかったんだけど。
後で引っぱたくくらいはいいかな?」
「ああ。それくらいなら」
「なな、何者だ! 男の声? だだだ、誰だ」
「殺……す」
「ひっ……こここ、コーネリウス? ななな、そんな馬鹿な! なぜここへ!
男性化はまだまだ時間がかかるはずだぞ?」
「はぁ? 何言ってるんだ、こいつは。ドア開けるぞ。捕縛の準備はいいか?」
「平気だよ。後ろ、逃げようがないだろう?」
バンドールがいる扉が開くと、カチカチのバンドールが勢いよく飛び出てくる。
すぐさま取り押さえられ、押さえつけられた。
「イ、イライザ!? お前がこいつらを連れてきたのか!? 一体何を……コーネリウス!
なんだその顔色は!? しっかりしろ! 貴様らがコーネリウスを!?」
「いいや。犯人は恐らくお前自身だ」
しかもコーネリウスを無事男に出来れば、我が領区も安泰だ。
フィルミナのお陰で随分と事が上手くいったわい。
しかしあいつめ。一体どうやって性別転換の秘薬など手に入れたのか……。
試し飲みさせる薬のほうは間違いなく性別変換が起こった。
かなりの金額を要求されたが、仕方あるまい。
それにしても問題はエビルイントシケートの方だな。
我が領区にこれほど蔓延しておるとは。
族に入った娘も面白い能力を持っておった。
まんまと食事に盛った睡眠薬で眠ってくれたが、紛れもない竜種だろう。
美しい緑髪の娘は逃げられたが、惜しいことをした。
「伯爵様。エビルイントシケート用の薬、追加調合が完了しています。
スピアはまだ眠っていて起きないのですか?」
「おや先生。これはどうも。お連れの方はまだ起きませんな。
調子が悪いのでしょうが、先生は特効薬制作でお忙しい身。
そちらは我々で看病しますから」
「いえ。この納品分で依頼分は全てです。忙しい身の上、助手をたたき起こさねば
なりません。案内してもらえませんか?」
「ええ!? もう全部お作りに? いやぁ、そういえばもっと必要だったような」
「残念ながら材料がありません。材料の判別も私が行わなければならず、外の者に
持たせてあるのです。お返し願えませんか」
「それはもちろん! ですがその前に先生もお疲れでしょう。お食事などお取りになり
休憩を。なんでしたら侍女にも相手をさせますから……」
「いいえ。遠慮いたします。先ほどもお伝えした通り忙しいのです。荷物をまとめて参ります」
「あっ……先生!? ……くそ、このまま手放してなるものか」
部屋に戻ってしまった先生を逃したくないバンドールは、少し思案してポンと手を打つ。
どうせなら先生の性別を変えてしまい、この世に同じ人物がもう存在しないことに
すればよいと考えた。あわよくば自分の侍女として屋敷で飼い殺しにするのもありとの算段。
「絶対に手放さんぞ。あれほどの医者、そうは転がっておらん!」
フィルミナにもらった性別変換薬の残りを手に取ると、ゆっくりシュイオンの部屋へ向かうバンドール。
バンドールの今いる部屋は、普段執務を執り行う部屋の奥であり、入り口は一つしかない。
また、かなり奥まった部分にあり、静かに作業をすることを好むため、部屋の入口に衛兵などは
配備していなかった。
「なっ!? なんだ? 扉が開かぬ。ええい、どうなっている!」
どんどんと叩くがまったくびくともしない。そして、バンドールは異様なほど部屋が寒い事に
気付いた。
「なな、なんという寒さだ。凍え死んでしまう!」
急激な寒さに襲われると、人は自然と震えという生命の恒常性現象が起こる。
手にしていた性別変換薬の残りを床に落としてしまったバンドール。
「ああ! 貴重な性別変換薬が! 一体何が起こっている!」
「君はさ。腹黒いよね」
「なな、何だ?」
「しばらくそこで、寒さに震えて過ごすといいよ。考えなしの行動が招いた結果を
反省する意味でもね」
ぶるぶる震えながら何度もドアを開けようとするバンドール。
手は凍傷し、歯をガチガチさせている。
「アネさん。そのくらいで。こいつを殺すわけにはいかない。
聞き出す事が沢山ある」
「しょうがないね。お尻を触られた仕返しをしたかったんだけど。
後で引っぱたくくらいはいいかな?」
「ああ。それくらいなら」
「なな、何者だ! 男の声? だだだ、誰だ」
「殺……す」
「ひっ……こここ、コーネリウス? ななな、そんな馬鹿な! なぜここへ!
男性化はまだまだ時間がかかるはずだぞ?」
「はぁ? 何言ってるんだ、こいつは。ドア開けるぞ。捕縛の準備はいいか?」
「平気だよ。後ろ、逃げようがないだろう?」
バンドールがいる扉が開くと、カチカチのバンドールが勢いよく飛び出てくる。
すぐさま取り押さえられ、押さえつけられた。
「イ、イライザ!? お前がこいつらを連れてきたのか!? 一体何を……コーネリウス!
なんだその顔色は!? しっかりしろ! 貴様らがコーネリウスを!?」
「いいや。犯人は恐らくお前自身だ」
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
女王直属女体拷問吏
那羽都レン
ファンタジー
女王直属女体拷問吏……それは女王直々の命を受けて、敵国のスパイや国内の不穏分子の女性に対して性的な拷問を行う役職だ。
異世界に転生し「相手の弱点が分かる」力を手に入れた青年セオドールは、その能力を活かして今日も囚われの身となった美少女達の女体の弱点をピンポイントに責め立てる。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる