異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー

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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百四十八話 地獄の審判

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 物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
 伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
 5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。

 私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
 その日までは。



『お姉様今日もお勉強?』

『ええ、ミリアレナ』

 その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。

『遊んでくれないの?』

『ごめんなさい、今日はダメなの』

 その日は後でねとは言ってくれなかった。
 どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。

『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』

 困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。

『何の騒ぎだ』

 外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
 メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。

『遊んでやればいいだろう。
 妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』

『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』

 ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。

『だからなんだ!
 また改めて呼べばいいだろう!
 なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
 利己的なのもいい加減にしろ!』

 大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
 そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退あとずさる。
 どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。

『お父様、怖い……』

 そう訴えると一転して笑顔に変わる。
 その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。

『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』

『……承知しました』

 悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
 私のせいだ。私がわがままを言ったから。
 いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
 静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。

『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』

 優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。

『……やっぱりいい』

『ミリアレナ?』

 お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
 お姉様を困らせたくない。

『遊ばなくていい』

『ミリアレナ……』

 困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。

『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』

 これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。

『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』

 にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
 うれしくって満面の笑みを浮かべる。

『でも夕食の前だから小さいケーキね。
 ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』

 ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
 手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。 
 きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
 お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
 そう約束してお姉様の部屋から出た。
 自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
 お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
 だからお姉様はお勉強が好き。
 好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。


 それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
 お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
 一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
 難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
 お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
 私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
 お姉様の頭は撫でてくれてない。
 出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
 けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。 
 二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。



 些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
 それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。


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