上 下
598 / 1,085
第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百三十一話 ルートビー 一領区

しおりを挟む
 気絶してしまったエーを休ませ、先に旅立つルートビー一行。
 下町からアクセスできる、一領区へと向かう。
 下町から十の門があり、それぞれのトループが管轄するエリアへ通ずる上、一領区から
十領区へは、どのような市民でも道は開かれている。
 そこから先の貴族街である十二領区から十九領区へは、特定の馬車か、通行許可証が必要となる。

「一領区へ来るのは久しぶりだな」
「来た事があるのか?」
「一から五領区は比較的行きやすい。六から十領区は治安が悪いんだ」
「つまり管理者が有能……か。コーネリウスには悪いと思うが、父の伯爵は
そこまで有能な人物ではないということなのかな」
「そのあたりはメナスの方が詳しいんじゃないか?」
「……その通りぞ。本来であれば私があちらのルートへ向かうべきであろう?」
「いや、目立ちすぎるだろう。あっちはレニーが適任だよ。あいつの能力はおっかないくらいだ」
「そんなに優れた女性だったのか? 気付かなかった」

 恐るべきは声を、特徴をまねる力だ。何度いたずらをされただろうか。
 本人としては励ましているつもりだと思う。
 しかし今の俺には厳しい励ましだった。

「それにあちらにはアネさんもいる。彼女の能力とエーの地形把握能力。
この組み合わせは絶妙だろうな」
「絶妙に危うい組み合わせにも思えるけど、頑張って欲しいな」
「そうだな……まもなく一領区だな。トループらしき人物が見える」
「ん? 警戒中か? 珍しいな。何かあったんだろうか」

 一領区にさしかかったところで、数人のトループが何かを探しているようだった。
 物取りにでもあったのだろうか? 
 ここはなるべく普通に通り過ぎたいところだが……二領区から入るべきか? 

「おっと。腕っぷしの強そうなのいるじゃん。ちょっと来てくれよ。金が稼げるぜ」
「いや、先を急いでる最中なんだ」
「一領区から先にか? 貴族には見えないけど」
「呼ばれていて、用事が」
「あれ、そんな話聞いてないけどな」
「極秘なんだよ」
「それなら尚更腕っぷしで証明しないと。御者以外は必要条件じゃん?」
「……参ったな」
「いいぜ。それですんなり通れるはずだ」
「トループの鉄則ってやつか……仕方ない。わかった。短時間ですませてくれ」
「ああもちろんだ。今腕相撲大会をやっててな。ここを通る腕っぷしの強そうなやつ全員に
声かけてんの。賞金は……金貨八枚だな。どうする? そっちの兄ちゃんと……随分と背が高い兄ちゃん? 
後、おかしな帽子の姉ちゃんもやるか?」
「私はいいっしょ。汗臭いのは嫌い」
「遠慮しようぞ」
「じゃあ俺とビーかな」
「俺もでるのか? あんまり腕相撲は得意じゃ……ああ、そういうことか。わかった」

 さすがにくみ取ったようだ。早めに負けて興味をなくさせる。その間
俺以外の空気を薄くする。目立つのは一人でいい。
 最悪俺がばれても三人は通過出来るだろう。

「よー-し、相手は八人抜きしてる、ゴボレオ、ゴンザレスだ! 見ろ、この二頭筋! 
そして腕相撲に大事な大胸筋を! 一気にぶっとぶぜぇ!」
「早くしてくれ。手ーでけぇな。何食ったらこんなでかくなる?」
「へっへっへ。女みてぇな小さい手だな。折れても文句言うなよ」
「用意……はじめ!」

 わぁーっと一斉に歓声が上がる。
 あれ、けろっとしてるな、ビー。どうしたんだ? 
 ふぅとため息をついて必死に押し倒そうとするゴンザレスが徐々に優勢になる。
 そしてパタリとあっさり負けた。

「ゴンザレウ九人抜き! いよいよ十人抜きか!」
「ぜぇ、ぜぇ……やるじゃねえか。驚いたぜ。だが俺の方が強い!」
「そ、そうだな。もっと鍛えておくよ。それじゃな」

 どう考えてもわざと負けたな……見せかけの筋肉だったようだ。
 しかも単純な力比べだけしてもビーにはあまり意味がないだろう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...