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第四部 主と共鳴せし道 第一章 闇のオーブを求め

第五百十七話 一握りの知人

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 女狐に案内され、正式に客として迎えられたエー、ビー、シー。
 既に眠気が強く、今日はここで宿泊することとなる。
 せっかく脱出したのだから、そのまま七領区へ戻りたいと言うエーの意見ももっともだったが、どうしても
今日中に話しておきたいという女狐の願いに、従う事となった。

「部下は下がらせてある。本当にすまなかったと思う。そして……私の名はアウグスト・ラトゥーリア・メナスという。別に女狐でも構わない。でもできれば、メナスと呼んで欲しい」

 狐の面を外すと、端正な顔立ちの、線の細い美しい女性の姿が露になった。
 しかし、頬に大きな傷がある。女性としては致命とも言えるほどに。

「醜いものを見せてしまう。だが面をつけたままの願いなぞ、聞き入れられまい」
「俺たちはそんなこと気にしない。それより眠いんだ。早く要件を伝えてくれ」
「そういうこと。俺たちなんだかんだで今日知り合ったばかりだけど、気が合うんだよ」
「そうであります。落ち着く仲であります」
「今日あったばかり? とても信じられぬ。見事な連携ぞ……それより、話は病について。
あれは……伝染する。致し方なく部下を隔離しているが、後どれくらい持つか……」
「ええっと、メナス殿。この国の医者は?」

 首を横に振る女狐。

「殿もいらぬ。手は尽くしたが治療にあたれる医者は……おらぬ。貴族以外、手厚い医療を受けられる程
数は多くない」

 シーは思案する。医者不足なんてどの世界でも同じか……と。
 ましてやシュイール・ウェニオン。あのような類まれなる医者、そうはいるはずがない。

「医者なら心当たりがある。だがその前に、伝染病なら万全を尽くさねばならない。
最悪……助けられないかもしれない」
「ツイン・シー。励ましは感謝ぞ。だがそんなに都合よく医者なぞおらぬ。
ましてやここは第九領区。よからぬ噂を随分と立てた。人は近寄らぬ。
伝染する病がここで終わるなら、それがこの国のためぞ」
「国ってのは何で出来ているか知ってるか?」
「……主と、民であろう」
「違う。人々の意思だよ」
「人の……意思?」
「そうだ。いつの時代でも国とは、人の意思が動かしていく。どれだけ賢き王でも、どれだけ統治が上手く
政を行う者でも、寿命はくる。しかし国とは、それらの意思を組み、変え、成長していく。
国のため? 違うな。伝染病を患ったのは人じゃない。国そのものだ。だから統治者は諦めてはいけない。
戦うんだ。ここに伝染病がもたらされたなら、国全体に蔓延していると考えるべきだ。
かかったやつが死ねば終わり? 伝染病はそんな甘いものじゃない」
「ではどうしろと。貴族から落ちた私に、貴族を説得し調査しろと?」
「事によっちゃ協力しようと考えた。俺たちだって伝染病に感染してる可能性だってある。
エアロゾル感染するなら尚更だ。実態は調べないとわからないけどな。
俺があんたへ怒鳴ったのは、管理者として国を滅ぼしかねないからだ。別にこれは、今後学べばいい。
決して自分の能力が低いなどと思うなよ。あんたはあれだけの部下に慕われてるんだ。
知識と経験。それが足りないだけだ」

 ぴしゃりと言い放つシーに、全員が目を丸くする。
 よほど頭にきていたのだろう。あれほど喋るシーを見たのは初めてだった。

「ツイン・シー。あなたの言う通りぞ……私は、愚かであった……」
「メナス。あんたをそう呼ぶ変わりに俺たちはのことはそれぞれ、エー、ビー、シーと呼んでくれないか。
二人とも。協力、してくれるか?」

 無言で親指を立てる二人。本当にこいつら……だめだ。思い返してはいけない。今は前に進まないと。
 
 ぐっと何かをこらえたシーは、天井を仰ぎ見る。
 未だその道には遠い。自分を心から支え、戦わせてくれた者の姿も近くにない。
 ただひたすらにそのもののために生きた。
 あいつが戻るまで俺は……あいつの分も、あいつらしくいよう。
 目に映るものは構わず助け、考えるのは全て……ルインに任せる。
 そんなあいつのように。
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