上 下
552 / 1,085
第四章 メルザの里帰り

第五百六話 銀髪の女狐《ジョコ》

しおりを挟む
 コーネリウスに別れを告げた俺たちは、馬車へと乗り込み青いコインを見せ、そのまま
第七領区へと向かうように告げると、御者は青い顔をして馬車を走らせる。
 来るときと似たような光景だ。
 この青いコインがよほど怖いらしい。
 伯爵ともなれば国家においてそれなりの重鎮にあたる。
 侯爵などが市民や兵士にかかわる事はまずない。
 そう考えればおのずと理解できる立ち位置だ。

 揺れる馬車の中、三人ふぅとため息をつく。

「しかしよぉ、シー。お前のあの腕、なんなんだ? 魔王種みたいな腕だったけど」
「恰好いいであります! 自分の腕と交換して欲しいであります!」
「無茶言うな。これは修行中の秘密兵器ってことで、それ以上は聞かないでくれ」
「そうだな。悪い。トループ同士の詮索は無しだったな。俺も突っ込んで聞かれると困るし」
「お互い話す時になったら話す。それでいいだろ、ビー。お前とは仲良くしたいものだ」
「同館だ。俺たち案外気が合うしな。このままお前らとトループやっていくのが案外、いいのかもな……」
「その言い方だとビーはトループを辞めようとしていたでありますか?」
「そんなところだ。少し……旅に出ようと考えていた。色々あって」
「旅……ね。それも悪くない」
「自分はトループ以外の事はあまり知らないであります。もちろん未知の世界には興味が
あるでありますが……」

 そんな話を三人で交わしているときだった。突如馬車が急停車し、ガクンと酷い揺れが起こる。
 一体なんだ? 辺りの風景は森林街道のようだが。

「ひやあああああああああああ、おお、お助けぇーーー!」
「何事だ!」

 御者の悲鳴が鳴り響き、慌てて外に出ると、どう見ても普通じゃなさそうな者たちに
ぐるりと取り囲まれていた。

「へっへっへ。金目の物全部おいてけ」
「おいおい、こりゃトループ様だぜぇ。しかも弱そうだ」
「おうおう、そこそこ高く売れそうな装備あるじゃねえか。全部ひっぺがそうぜ」
「……なんだこの頭の悪そうなやつらは。今何領区あたりだ?」
「あの木は確かゼッペルの木でありますから、第九領区あたりであります」
「エー、お前木見ただけで場所わかるのか。凄いな」
「地形把握が得意であります! 偵察任務はお手の物でありましたので!」
「おいこら! 無視してんじゃねえ! 死なすぞてめぇら!」
「金置いてけば命までは取らねえでやろうと思ったが、無しだ。全員殺るぞ」
「へっへへー。お宝あるかなぁ……」

 懐から短剣や射撃武器などを取り出し、ゆっくり近づいてくるごろつき共。
 こんな奴ら相手にもしたくない。

「待て! 貴様ら何をしている! 物取りか!? 恥を知れ端を! 
全員捕えろ!」
「え? 銀髪の女狐ジョコ? ほ、本物か?」
「ひえぇ、命ばかりは! 魂ばかりは!」
「お、お助けくだせぇ。ほんの出来心で……へへ」
「黙れしれ犬どもめ! それ以上喋れば反逆罪に処す!」

 突如現れた銀色の長い髪に狐の面を付けた……女性? と思われる人物と兵士により、ごろつきどもは
全て捕えられた。戦わずに済んだのはラッキーだ。

「早くしろ! 全員捕えろと言ったはずだぞ!」
「はっ! さぁ貴様らも来い! 早くしろ! 怪しい動きはするなよ。
俺たちは第九トループだ。さぁさっさと歩け!」
「いや俺たちはちが……」
「黙れ! 反逆罪に処するぞ!」

 嘘だろ。こんなところで騒ぎは起こしたくない。
 しかし喋ったら反逆罪? 冗談じゃない。おとなしくする以外できないじゃないか。
 せっかく少し休めると思ったのに。
 ラッキーどころかとんだアンラッキーだったようだ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

処理中です...