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第四章 メルザの里帰り

第四百十四話 ルインとレェンの出会い ロブロードを託す~

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 同行者レミさんを加えた俺は、しばらく依頼の束を眺めていた。なんかドラゴン退治にまで
サインが入っていた気がするが、気のせいだろう。

「なぁなぁルイン、俺様……」
「腹だな。わかっている。腹が減ったんだよな。おいジェネスト、俺ここで待ってないといけないから
メルザ連れてこれで食べ物一緒に食べに行ってくれ」
「ほう。人間がどのように買い物をするのかは興味がありますね。いいでしょう」
「えー、ルインは食わねーのか?」
「そうですよルインさん。あなたはそれなりに背丈が高いですが、食事量が少なく思います。医者としては
見過ごせませんね」
「食べるときは食べるんだが、何分忙しくて……シュイオン先生も一緒に行ってきてくれるかい? 
ついでに俺が何か食べれそうな物も買ってきてくれよ」
「わかった! いっぱい買ってくるからな!」

 パタパタとレンズを後にする三人。そのあとを私もと追いかけていくレミさん。
 一気に静かになるレンズ……やはり女性が多いと華があるものだ。男しか残らなくなった途端静まり
かえっている。

「……それで、アビオラさんだったかな。何か話したい事でもあるのかい?」
「ふう。やっぱり俺の視線にも気づくか。只者じゃないとは思ったが、その目は異常すぎるな」
「ここまでかなり揉まれてきたもんでね」
「お前さん、転生者だろう」

 とんでもない事を口にするアビオラ。レンズでは公開していない情報だ。それに転生というワード。
 こいつはもしかして……。

「あんた、何者だ? まさかあんた、転生者なのか」
「いいや。俺は転生者じゃない。だが知り合いにいる。詳しい事は教えられないがな」
「なぜ俺が転生者だと思ったんだ?」
「お前さんの行動が普通じゃないからだ。この世界の人間でないことは間違いないだろうな」
「それはどういう……」
「食い物だよ。食い物に無関心のやつなんて本来いるわけがない。安定した食事の供給源があり
食べるのにまったく困らない。そんな国、このゲンドールには存在しない。食える時に食う。
それがゲンドールの世界の常識だ」
「……なるほど。さっきのはかなりの失言だったようだ。気を付けよう」
「お前さんとは今後も関わりがあるだろう。レミの事、よろしく頼む」
「ああ。だが俺はまだ信用したわけじゃない。我が主はあんな感じで寛大でね。何でも受け入れてしまう。
そこは変わって欲しくはないが、やっぱり俺がしっかりしてないといけないんだ」
「そうだな。あのお嬢さんは危うい。今後も苦労するだろうよ」
「甘んじて受けるさ。すべては我が主のために」
「大した忠誠心だ。おっと、お連れさんがきたようだぜ」

 エレギーとルシアが同時に入ってくる。ルシアがつれているのが例の子かな。二人いる。

「待たせたなルイン。こいつがさっき話していたガキ共だ。ほら、挨拶しな」

「は、初めまして。僕はアルン。こっちは弟のレェンです」
「初めまして。レェンです。ルシアお姉ちゃんから話は聞いています。凄い人だって」

 そのレェンという少年は、両目に深い傷があり、塞がっていた。
 後天性の失明か。それとも先天性でその後の後遺症による傷か……どちらにしろこの子の目はもう……。

「二人とも初めまして。ルイン・ラインバウトだ。ここは少々話しづらいから移動しよう。
もうすぐメルザたちも戻ってくる。エレギーもそれでいいか?」
「弟よ。わても話したいことがあるのだ」
「ルインさんのお兄さんなんですか? じゃあもっと凄い人?」
「おいエレギー! やっぱりややこしくなったじゃないか! 弟はやめろって!」
「ふうむ。ならば……弟はわてらの間でディーと呼ぶ。ルインディー、わてはそう呼ぶことにしよう!」
「なんかツインビーみたくなった……まぁいいか」
「お兄さんではないんですね。残念だなぁ」

 がっかりするレェン。いやいや、お兄さんだったとしてもがっかりされたような気がするぞ。
 そう考えていると、果物をめいいっぱい頬張りながら戻ってくるメルザ。
 小さい口が横に広がっている。そんなに入れなくても食べ物は逃げやしないよ! 

「おっと、ちょうどいい。これで全員だ。先生、治癒院に一度戻って今後の話をしたいんだけどいいかい?」
「ええ、構いませんよ。かなり大所帯になりましたね」
「ああ。すまない。あまり悠長に話している暇もない。行こう」

 急ぎ治癒院に戻り話を進める。ルシアの方は、モンスターに襲われている所を助けた
二人の子供の話。エレギーの方は、待っていたはずの仲間は既に違う依頼を受けて旅立ってしまい
合流は難しいとのこと。一度ルーンの町に戻り弟たちの安否を確認したいそうだ。
 ルシアも許可がもらえれば子供を送りに町へ戻るとのこと。
 俺はこの子のために一つ、提案をしてみることにした。

「レェン。君にお願いがあるんだ。聞いてくれるかな」
「お願い? ルインお兄さんが僕なんかに? 僕、何の役にもたてないよ」
「……いいかい。君は役立たずなんかじゃない。これは恐らく君に最適任だ。本当だよ」
「本当に? ルインお兄さんは僕に役割を与えてくれるの? 僕なんかに?」
「違うよ。役割を与えるんじゃない。お願いしたいんだ。命令とかじゃない。嫌なら断ってくれても
構わない。決して危ない事じゃないけど、他の人の力も借りなきゃいけないんだ」
「それじゃ迷惑かかっちゃうよ。お願いなんて」
「レェン! いつも言ってるだろ。兄ちゃんは別に迷惑だなんて思ってない。
お前は大切な家族なんだ!」
「でも……」
「レェン。その気持ち、俺には……俺には痛いほどわかるよ。けどな……今のアルン
お兄ちゃんの表情、教えてやろうか? 凄く悲しくて、辛そうな顔だ。なぜだかわかるか?」
「……なんで?」
「お前を、大切に思い、愛しているからだよ」
「……あ、い?」
 愛とは、恋愛以外の方が基本多く存在している。何一つ見返りを求めない愛。
 前世の人にはかなり見受けられた。そして自分自身もそうでありたいと思った。
 私利私欲に塗れる人も多くいる。そんな中で無償の愛を施してくれる人がいる。
 もし生まれ変われるのなら、自分が与えてやれる側になれるのならば。
 今度は自分が助けてあげる番だ。この子の兄は必死に弟を助けようとしてくれている。
 俺は見守りながらそっと、この子たちを手助けしてやろうと、決意した。
 
「レェン。俺が考案したロブロード。今後世界で流行するであろうこのゲームの先駆者として
一から覚え、やってもらいたい。レェンが望むなら、きっと俺の仲間たち全員、力となるだろう。
そしてレェン自身がそのゲームを楽しみ、生き甲斐となってくれたら……そう考えて、託す事にしたんだ」
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