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第四章 メルザの里帰り
第四百九話 シュイールウェニオンとメルフィール
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「シュニオン先生、失礼するよ」
「ルイン君、お待たせしてすみません。落ち着きました。何か飲み物でも?」
「俺は平気だ。先生、気を遣う役割が違うぜ。何か飲むか?」
「ふふ。君は変わっていますね。まさか自分の治癒院で飲み物を勧められるとは思いませんでした。
それでは茶を。使い方などはわかりますか?」
「直ぐ入れる。これでも癒しを与えるあらゆるノウハウを研究したことがある。えーと……どうにか
なりそうだ」
綺麗に清掃はされているものの、いい設備とは言えない。やかんのような物と古い茶葉。煎じる道具。
火をくべる道具などはある。火術が使えるようになった今では、割と簡単に着火出来るが。
手早く煎じた茶葉を入れ、古い欠けた湯呑に茶を注ぐ。
温度が大事! ではあるんだが、いかんせん茶葉が古い。
香りもあまりよくはない。いい物を飲ませてやりたい……今はこれが限界か。果物の皮でも向いて
入れればもう少しマシになりそうだけど……ダメだな。ちゃんとした茶室にでも招待したいくらいだ。
「はい。今はこれくらいしか出来ないや」
「何を言ってるんですか。お心遣い、ありがとうございます」
「なぁ先生。この町の風習などは聞いた。それに……ジェネストから少しだけ、女性の事も」
「……そうですか。彼女はメルフィール。奇病に侵され、もう長い事……あの状態のままなんです」
「少し拝見しても?」
「……はい」
案内され布をめくると……思わず息をのんだ。
右半身が鉄のような色となり、目が開いたままだ。そしてその眼は赤い。
しかし、呼吸はしている。確かに、生きていると言えるかわからない状態だ。
スラっとした髪の長い女性。先生の恋人かな?
「これは……呪いか何かの類か?」
「わからないんです。散々手を尽くして凡例を探しました。結果は不明です。もう……諦めかけていた。
その時にあなたたちが来た。お名前を聞いた時、私は凍り付いてしまった。そして……メルザさんの……笑顔を見て私は……私は! メルの……メルフィールの笑顔を思い出してしまった。うぅっ……すみません
すみません。もう一度、もう一度でいいから。メルフィールの笑顔が、見たかったんです」
崩れ泣く先生の肩をぎゅっとつかんだ。ばか野郎。こんなになるまでなぜため込んでいた。
自分一人、出来る事は多くないんだ。この町の……いや、この町にいたらダメなんだ。ここから
二人を出してやる必要がある。
発熱したメルザを、苦しそうなメルザを見ているからこそ痛いほどにわかる。
「先生、俺も協力する。協力させてくれ。その人の笑顔とうちのメルザの笑顔、可愛さで
勝負ってところだな!」
「っ! なぜ、あなたはそこまで、他人に優しく出来るのですか」
「そう、されたからさ」
先生はその場で凍り付いた。たったそれだけの事で……そう思っているのかもしれない。
だけど、それだけで人は大きく変われるものだ。その人のようにありたいと。そう思えるようになる
人はいる。
そして、医者である先生は最初から、他人のために尽くしている。
そんな先生だからこそ、尚更支えてやりたいと思う。
「……お人好し過ぎますね。あなたは……いえ、先ほどのジェネストさんも含めて。
あなたに似てきてしまうのでしょうか」
「さぁな。けどさ、俺の仲間は本当に個性的で。外見も中身もとにかく個性に溢れてる。
見た目や性格に捕らわれず、わだかまりなく。時には喧嘩したり笑いあったり、泣き会ったり。
そりゃイネービュも喜ぶだろうよ。俺たちみたいなのこそ、まさに人、そのものだろうから」
「イネービュ……おとぎ話の海星神イネービュですか?」
「驚くかもしれないが、あれはおとぎ話なんかじゃないよ。実在する神だ」
「っ! では、ではなぜ神はこのような所業を! なぜ人々は平等ではないのですか。
なぜ多くの苦しむ方がいるのですか! なぜ、なぜ……メルはこんな状態に……なぜ、なぜ……」
「先生。イネービュと対談したからこそ分かる。神は人の善悪、喜怒哀楽などの感情などに疎い。
神が最も恐れるもの。それは世界の平行さ……バランスってやつだ。だからこそ悪神と言われる、この
ゲンドールのバランスを崩される事を恐れ行動している。確信でいうならただの人間が死のうが苦しもうが
どうでもいいという事だ」
「そんな……いえ、そうかもしれません。人が死ななくなれば世界はとっくに崩壊しています。
あなたの言う事はわかります。ですが……」
「だからこそ。俺たち人はあがなう強さがある。どんな死病、奇病にも立ち向かってきた文化、科学が
ある事を俺は知っている。諦めなかったからこそ、人は滅んでいない。
一つ当てがある。うちの領域にはマァヤがいるからな」
「マァヤ? 何か凄い能力でもお持ちなのですか?」
「うん? 先生は知らないか? そうか。えーと確かマァヤ・アグリコラだったかな」
「アグリコラ!? ほ、本当にご本人なのですか? 行方もまったくわからず、処刑されていると
いう話しか聞いていなかった」
「偶然……いやあれは偶然だったのか。エッジマールにしてやられた感はあったんだけど。
今じゃ俺たちの町でお婆ちゃんしてるな。孫可愛がり過ぎて困るくらいだ。明日、ルクス傭兵団に頼み
連れてこれないか連絡を……」
「ど、どうか、どうか私をそこまでお連れください! 来て頂くのだって大変でしょう! お願いします」
「そういえばマァヤは人族に物凄い恨みを持ってるからな……ここに連れてくるのは苦か。
しかし俺もメルザも留守の間に先生一人連れてくわけにも……うーん。そうだ先生。
出かけられるってことはメルフィールさんを誰か別の人に見て置いてもらう事は出来るんだよな?」
「はい……それは勿論です……数日程度であれば特に何もしなくても……大丈夫です。
……栄養剤だけ補充して……置く必要があります……が」
「あれ、少し歯切れが悪いが……それならさ。少しの間、俺たちと冒険しないか?」
「ルイン君、お待たせしてすみません。落ち着きました。何か飲み物でも?」
「俺は平気だ。先生、気を遣う役割が違うぜ。何か飲むか?」
「ふふ。君は変わっていますね。まさか自分の治癒院で飲み物を勧められるとは思いませんでした。
それでは茶を。使い方などはわかりますか?」
「直ぐ入れる。これでも癒しを与えるあらゆるノウハウを研究したことがある。えーと……どうにか
なりそうだ」
綺麗に清掃はされているものの、いい設備とは言えない。やかんのような物と古い茶葉。煎じる道具。
火をくべる道具などはある。火術が使えるようになった今では、割と簡単に着火出来るが。
手早く煎じた茶葉を入れ、古い欠けた湯呑に茶を注ぐ。
温度が大事! ではあるんだが、いかんせん茶葉が古い。
香りもあまりよくはない。いい物を飲ませてやりたい……今はこれが限界か。果物の皮でも向いて
入れればもう少しマシになりそうだけど……ダメだな。ちゃんとした茶室にでも招待したいくらいだ。
「はい。今はこれくらいしか出来ないや」
「何を言ってるんですか。お心遣い、ありがとうございます」
「なぁ先生。この町の風習などは聞いた。それに……ジェネストから少しだけ、女性の事も」
「……そうですか。彼女はメルフィール。奇病に侵され、もう長い事……あの状態のままなんです」
「少し拝見しても?」
「……はい」
案内され布をめくると……思わず息をのんだ。
右半身が鉄のような色となり、目が開いたままだ。そしてその眼は赤い。
しかし、呼吸はしている。確かに、生きていると言えるかわからない状態だ。
スラっとした髪の長い女性。先生の恋人かな?
「これは……呪いか何かの類か?」
「わからないんです。散々手を尽くして凡例を探しました。結果は不明です。もう……諦めかけていた。
その時にあなたたちが来た。お名前を聞いた時、私は凍り付いてしまった。そして……メルザさんの……笑顔を見て私は……私は! メルの……メルフィールの笑顔を思い出してしまった。うぅっ……すみません
すみません。もう一度、もう一度でいいから。メルフィールの笑顔が、見たかったんです」
崩れ泣く先生の肩をぎゅっとつかんだ。ばか野郎。こんなになるまでなぜため込んでいた。
自分一人、出来る事は多くないんだ。この町の……いや、この町にいたらダメなんだ。ここから
二人を出してやる必要がある。
発熱したメルザを、苦しそうなメルザを見ているからこそ痛いほどにわかる。
「先生、俺も協力する。協力させてくれ。その人の笑顔とうちのメルザの笑顔、可愛さで
勝負ってところだな!」
「っ! なぜ、あなたはそこまで、他人に優しく出来るのですか」
「そう、されたからさ」
先生はその場で凍り付いた。たったそれだけの事で……そう思っているのかもしれない。
だけど、それだけで人は大きく変われるものだ。その人のようにありたいと。そう思えるようになる
人はいる。
そして、医者である先生は最初から、他人のために尽くしている。
そんな先生だからこそ、尚更支えてやりたいと思う。
「……お人好し過ぎますね。あなたは……いえ、先ほどのジェネストさんも含めて。
あなたに似てきてしまうのでしょうか」
「さぁな。けどさ、俺の仲間は本当に個性的で。外見も中身もとにかく個性に溢れてる。
見た目や性格に捕らわれず、わだかまりなく。時には喧嘩したり笑いあったり、泣き会ったり。
そりゃイネービュも喜ぶだろうよ。俺たちみたいなのこそ、まさに人、そのものだろうから」
「イネービュ……おとぎ話の海星神イネービュですか?」
「驚くかもしれないが、あれはおとぎ話なんかじゃないよ。実在する神だ」
「っ! では、ではなぜ神はこのような所業を! なぜ人々は平等ではないのですか。
なぜ多くの苦しむ方がいるのですか! なぜ、なぜ……メルはこんな状態に……なぜ、なぜ……」
「先生。イネービュと対談したからこそ分かる。神は人の善悪、喜怒哀楽などの感情などに疎い。
神が最も恐れるもの。それは世界の平行さ……バランスってやつだ。だからこそ悪神と言われる、この
ゲンドールのバランスを崩される事を恐れ行動している。確信でいうならただの人間が死のうが苦しもうが
どうでもいいという事だ」
「そんな……いえ、そうかもしれません。人が死ななくなれば世界はとっくに崩壊しています。
あなたの言う事はわかります。ですが……」
「だからこそ。俺たち人はあがなう強さがある。どんな死病、奇病にも立ち向かってきた文化、科学が
ある事を俺は知っている。諦めなかったからこそ、人は滅んでいない。
一つ当てがある。うちの領域にはマァヤがいるからな」
「マァヤ? 何か凄い能力でもお持ちなのですか?」
「うん? 先生は知らないか? そうか。えーと確かマァヤ・アグリコラだったかな」
「アグリコラ!? ほ、本当にご本人なのですか? 行方もまったくわからず、処刑されていると
いう話しか聞いていなかった」
「偶然……いやあれは偶然だったのか。エッジマールにしてやられた感はあったんだけど。
今じゃ俺たちの町でお婆ちゃんしてるな。孫可愛がり過ぎて困るくらいだ。明日、ルクス傭兵団に頼み
連れてこれないか連絡を……」
「ど、どうか、どうか私をそこまでお連れください! 来て頂くのだって大変でしょう! お願いします」
「そういえばマァヤは人族に物凄い恨みを持ってるからな……ここに連れてくるのは苦か。
しかし俺もメルザも留守の間に先生一人連れてくわけにも……うーん。そうだ先生。
出かけられるってことはメルフィールさんを誰か別の人に見て置いてもらう事は出来るんだよな?」
「はい……それは勿論です……数日程度であれば特に何もしなくても……大丈夫です。
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