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第四章 メルザの里帰り
第四百八話 シュイオン先生の苦悩
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「うう……私には、私には救う事が出来ないのか。メル……」
「シュイオン先生! メルザに、メルザに何かあったのか!?」
急ぎ足で治癒院に戻ると、入口付近の庭で、シュイオン先生は頭を抱えながら泣いていた。
その会話内容を聞いて俺の背中に冷や汗が走る。
「ルイン君? いや、これは……」
「そこをどいてくれ! メルザぁー---!」
大慌てで勢いよく入口を開けた……が。
「ルイン? やっと戻って来た! しんぱいさ……」
「あ……れ? 平気……なのか?」
「うん? だってルインが助けてくれたんだろ? 変な奴仲間にして」
「わても助けられたようだ。弟よ。生涯感謝しよう」
「さっき、メルって……別の人、なのか?」
「すみませんルイン君。勘違いさせてしまったようで」
「い、いや。謝るのはこっちの方だ先生。きっと聞いちゃまずかった事だよな」
「いいえ、あなたがメルザさんを思う気持ちの強さと似たようなものですから。今は元気な姿をした
メルザさんをねぎらってやってください」
「ルイン……でも俺様、だいじょぶだ。それより、そんな顔した先生を放っておくなんて
俺様やルインにはできねーだろ?」
「先生。奥で話を聞きます。俺でよければ力になるから。そんな疲れた顔で辛そうにしてるやつ、俺たちが
放っておけるわけないだろ!」
「く……すみません。すみません。でもあなたたちを見ていたら、どうしても思い出してしまって。
落ち着くまで少しだけ、少しだけ待ってもらってもいいですか」
「ああ。落ち着いたら声をかけてくれればいい。ジェネスト、奥まで運んであげれるか?」
「いいでしょう。こういう時は私の方が適任でしょうから」
ジェネストに肩を借りて奥の部屋へと行くシュイオン先生。
どれだけため込んでいたんだ、あの人は。
医者というのは悪意をぶつけられたり、やるせない感情をぶつけられたりされやすい。
前世でもそういった悲しい事件はいくつもあった。
人の生死に触れる職業を誰よりも近くで、何十年も見る機会があった。
医者を悪く言う人もいる。けど俺にはそんなこと、絶対出来ない。
俺の担当医だった人は……自分の父が亡くなっても、たった一日忌引き休暇が取れるかどうかだった。
本当の意味で医者として活動する者がどれほどの苦境なのか。俺は知っている。
お金なんかじゃ到底変えられない。そんな苦しみの中で彼らは、苦しんでいる者を助けたい。
そう思って働いているのだから。
「ルイン、ちょっといいですか?」
「ジェネスト。どうした?」
「このままだとあの方は死にます」
「……どういうことだ」
「ろくに睡眠をとっていない。いや、取れない精神状態にあるのでしょう。
あの方の知人と思われる女性。その姿を見ました。生きているのか死んでいるのか。
定かではない状態です」
「さっきこぼしていたメル……というのはその人のことか。どうにか、助けてあげられないか?」
「私では何とも。確かルーンの町に著名な薬師がいると聞きましたが?」
「そうか! マァヤだ! 医者と薬剤。揃って初めて一つの医療となりえる。しかし参ったな。
ここからセーレで飛んで戻って連れてくる……うーん」
「なぁなぁ。ルクス傭兵団に頼めばいーんじゃねーか?」
「ん? そういえばルクス傭兵団がレンズに来てたって言ってたし、連絡手段はあるか。
ナイスだメルザ!」
「へへ。でもさ、俺様まだちょっとよくうごけねーんだ。あちこち痛くてよ」
「当たり前だ。相当な高熱をだした後だぞ。エレギーもメルザも数日はここで休んでいけ。
俺はそれまでに出かける支度をすませたり、マァヤを連れてきたりする手配をするから」
「ああ。あの先生よくなるといいな。俺様の町に来てくれねーかなー」
「どうかな。だがこの町にいるより先生は俺たちの町に来てくれた方がいいかもしれない。
何せこの町は……治療を求めていない人だらけのようだ」
「そーなのか? 変なとこだな」
「そういう宗教なんかもあったりする。人は何が正しいとか、これが絶対だという事はない。
救いたいという気持ちも時には、無駄になる事もある。だからこそ神は……」
「ルインさん。お待たせしました」
「ああ。今行くよ先生。 メルザ、ちゃんと休んでいてくれ」
「わかった。あのよ、後で……」
「ああ。行ってくる。おっと! 我が主のために、用意しておいたものがあった。お願いばっかりで
済まないがジェネスト。これをメルザに」
「仕方ないですね。ちゃんとつけておきますからね」
「……働きで返します。いや、お金もあるから何か買って返します!」
メルザの頭を撫でてやり、奥の部屋へと向かった。起きて真っ先に他人の心配をする。
腹減ったが一番最初だと思ったけど、こいつは相変わらずだ。本当に。
ここに来て俺は、誰かに頼ってばかりの自分に気付いた。
どれだけ実力が上がろうと、人一人の力なんてそんなものだ。何でも出来る訳なんてない。
だからこそ協力し合い、助け合い生きていくんだ。
「シュイオン先生! メルザに、メルザに何かあったのか!?」
急ぎ足で治癒院に戻ると、入口付近の庭で、シュイオン先生は頭を抱えながら泣いていた。
その会話内容を聞いて俺の背中に冷や汗が走る。
「ルイン君? いや、これは……」
「そこをどいてくれ! メルザぁー---!」
大慌てで勢いよく入口を開けた……が。
「ルイン? やっと戻って来た! しんぱいさ……」
「あ……れ? 平気……なのか?」
「うん? だってルインが助けてくれたんだろ? 変な奴仲間にして」
「わても助けられたようだ。弟よ。生涯感謝しよう」
「さっき、メルって……別の人、なのか?」
「すみませんルイン君。勘違いさせてしまったようで」
「い、いや。謝るのはこっちの方だ先生。きっと聞いちゃまずかった事だよな」
「いいえ、あなたがメルザさんを思う気持ちの強さと似たようなものですから。今は元気な姿をした
メルザさんをねぎらってやってください」
「ルイン……でも俺様、だいじょぶだ。それより、そんな顔した先生を放っておくなんて
俺様やルインにはできねーだろ?」
「先生。奥で話を聞きます。俺でよければ力になるから。そんな疲れた顔で辛そうにしてるやつ、俺たちが
放っておけるわけないだろ!」
「く……すみません。すみません。でもあなたたちを見ていたら、どうしても思い出してしまって。
落ち着くまで少しだけ、少しだけ待ってもらってもいいですか」
「ああ。落ち着いたら声をかけてくれればいい。ジェネスト、奥まで運んであげれるか?」
「いいでしょう。こういう時は私の方が適任でしょうから」
ジェネストに肩を借りて奥の部屋へと行くシュイオン先生。
どれだけため込んでいたんだ、あの人は。
医者というのは悪意をぶつけられたり、やるせない感情をぶつけられたりされやすい。
前世でもそういった悲しい事件はいくつもあった。
人の生死に触れる職業を誰よりも近くで、何十年も見る機会があった。
医者を悪く言う人もいる。けど俺にはそんなこと、絶対出来ない。
俺の担当医だった人は……自分の父が亡くなっても、たった一日忌引き休暇が取れるかどうかだった。
本当の意味で医者として活動する者がどれほどの苦境なのか。俺は知っている。
お金なんかじゃ到底変えられない。そんな苦しみの中で彼らは、苦しんでいる者を助けたい。
そう思って働いているのだから。
「ルイン、ちょっといいですか?」
「ジェネスト。どうした?」
「このままだとあの方は死にます」
「……どういうことだ」
「ろくに睡眠をとっていない。いや、取れない精神状態にあるのでしょう。
あの方の知人と思われる女性。その姿を見ました。生きているのか死んでいるのか。
定かではない状態です」
「さっきこぼしていたメル……というのはその人のことか。どうにか、助けてあげられないか?」
「私では何とも。確かルーンの町に著名な薬師がいると聞きましたが?」
「そうか! マァヤだ! 医者と薬剤。揃って初めて一つの医療となりえる。しかし参ったな。
ここからセーレで飛んで戻って連れてくる……うーん」
「なぁなぁ。ルクス傭兵団に頼めばいーんじゃねーか?」
「ん? そういえばルクス傭兵団がレンズに来てたって言ってたし、連絡手段はあるか。
ナイスだメルザ!」
「へへ。でもさ、俺様まだちょっとよくうごけねーんだ。あちこち痛くてよ」
「当たり前だ。相当な高熱をだした後だぞ。エレギーもメルザも数日はここで休んでいけ。
俺はそれまでに出かける支度をすませたり、マァヤを連れてきたりする手配をするから」
「ああ。あの先生よくなるといいな。俺様の町に来てくれねーかなー」
「どうかな。だがこの町にいるより先生は俺たちの町に来てくれた方がいいかもしれない。
何せこの町は……治療を求めていない人だらけのようだ」
「そーなのか? 変なとこだな」
「そういう宗教なんかもあったりする。人は何が正しいとか、これが絶対だという事はない。
救いたいという気持ちも時には、無駄になる事もある。だからこそ神は……」
「ルインさん。お待たせしました」
「ああ。今行くよ先生。 メルザ、ちゃんと休んでいてくれ」
「わかった。あのよ、後で……」
「ああ。行ってくる。おっと! 我が主のために、用意しておいたものがあった。お願いばっかりで
済まないがジェネスト。これをメルザに」
「仕方ないですね。ちゃんとつけておきますからね」
「……働きで返します。いや、お金もあるから何か買って返します!」
メルザの頭を撫でてやり、奥の部屋へと向かった。起きて真っ先に他人の心配をする。
腹減ったが一番最初だと思ったけど、こいつは相変わらずだ。本当に。
ここに来て俺は、誰かに頼ってばかりの自分に気付いた。
どれだけ実力が上がろうと、人一人の力なんてそんなものだ。何でも出来る訳なんてない。
だからこそ協力し合い、助け合い生きていくんだ。
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