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第四章 メルザの里帰り

第三百八十五話 カカシの足が心配で

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 ライラロさん、ハクレイと共に温泉まで来ると、かなりの人たちが利用を終えたようだ。
 ここの管理はモラコ族が基本行ってくれている。よく働く素晴らしい種族。
 そして彼らもまた、ルーンの町を安息の地として活動している。基本的にはどこを掘ろうが
どこを泳ごうが自由だが、ムーラさんのいう事をしっかり聞いて色々手伝ってくれる。

 何より温泉受付のモラコ族を見るだけでも癒される! 

「あれ、タオル新しくなったのか? ずいぶんふわふわだな」
「フォニーさんが作ってくれたのー」
「たのー」
「……のー?」
「そうか。そりゃ助かる。お礼に……そうだ。ロブロード用の駒をベルローゼ先生風にしたのを
提供しよう。あの様子だと大ファンに違いない」
「それ欲しいー!」
「欲しいー!」
「……しいー?」
「ああ。お前たちにもちゃんと作ってやるから待っててな」
「わーい!」

 モラコ族の子供たちとにこやかに会話していると、ハクレイがとても羨ましそうに見ていた。
 別に話しかけたらいいと思うんだが……。

「わしの大陸に喋る獣のような種族があまりおらんでな。その手の種族はみな奴隷になっておる。
悲しいことじゃ」
「獣人、亜人は奴隷か……このトリノポートが亜人たちにとって暮らしやすいだけなのかもしれない。
キゾナ大陸はもっとひどかったように思える。
俺はここら一体を亜人や獣人にとって住みやすい場所にしたい。それはイーファ王も同じ考えだ」
「しかしこの国の王は無くなったと聞いたぞい。姫も行方不明という話じゃ。いつ攻め入られても
おかしくはなかろうて。いやはや、恐ろしい事じゃ」
「……」

 イーファとは面識がないのか気づかなかったようだ。しかしこの国へ進出した円陣は失敗した。
あの地は今どうなっているか……メルザの里帰りがてら様子見したいものだが、空中から
行くのは危険だろう。こちらも泉経由で行く必要があるな。

「おい貴様。いつまで経っても来ぬではないか。何をしている! ふやけるではないか!」
「あれ、ブネ。まさか温泉でずっと待ってたのか?」
「当然であろう。あの場所は至高。実に落ち着く場所だ。貴様と今後の話をするにはちょうど良いだろう」
「俺も話したい事があったんだが、別に温泉じゃなくても。それにブネは全裸って言ってたから
ちゃんとタオル巻いてくれよ! 頼むから」
「ふうむ。このブネの美貌を拝めるのはありがたい事だと思うぞ」
「これでも嫁がいる身の上なんだよ。その辺は察してくれ」
「よいではないか。嫁共々見るがよい」
「神の遣いってのはこんなんばっかりか。はぁ……」
「女神じゃ! 本物の美の女神様がおる! わしゃもう、死ぬかもしれん」
「ほら見ろ、この老人はわかっておる!」
「それはいいから。この爺さんの話を聞いてやってくれ。ハーヴァルに伝えたい事があるらしくて。
忙しいんだよ、俺」

 ブネに爺さんを押し付け、ささっとカカシのいるであろう北エリアに向けて移動する。
 ライラロさんは再び温泉に入るのか、いなくなっていた。相変わらず神出鬼没だ。

「しかしあの爺さん、あんないで立ちだけど戦えるのかな。シフティス大陸か……」
「行ったことない場所は冒険のにおいがするの! まみむめもまみむめもヤ、ユ、ヨ!」
「うぉぉお! 誰だ、びっくりさせるな! あれ? エーナか?」
「やっと邪魔されず喋れた。あなたはいつも私の楽しみを遮るから」
「何でここにいるんだ? こっちに来たのはブネとエプタだけだろ?」
「イネービュ様の命令で来た。ロブロードの模様を多く作るためあなたの知識を借りてこいと」
「おいおい、どんだけ夢中になったんだあの神様は。これから畑と牧場に行く予定だ。一緒に
くれば刺激を受けるかもな」
「それじゃついていくことにする」
「エーナちゃんでごじゃろ! 可愛いでごじゃろー!」
「……絶対出てくると思ったぞ。なぁ、こいつもロブロードのデザインにしたらどうだ。
世界に二つとない名剣……なんだろう?」
「アーティファクトを駒とするのはいい発想。でもアーティファクトは壊れない」
「ダメージを与えてゲットするってのに反するか……うーん。それなら場にあると効果を発揮する
エンチャントとして配置できるおはじき役にしたらどうだ? はじいて場外へ落とせばエンチャント
効果は消えるが、そのおはじき自体はゲーム内で入手不可とか」
「それはいい考え。提案してみる」

 エーナとあーだこーだと話しながら歩いていると、あっという間に畑と牧場エリアについてしまった。
 かかしと……おや、フォモルさんかあれは。
 
「やぁフォモルさん。カカシも。ちょっとだけいいか?」
「ルインか。主との結婚、おめでとう。わし、参加できなくてすまんのぅ。見ての通りじゃからな」
「随分と足を痛めてるようでしてねぇ、どうにか手助け出来ないか考えてたところでして」
「カカシ、お前随分と無茶してたんじゃないか? 落月のナイフじゃもう回復しないのか?」
「難しいのぅ。わし、随分と長く生きていたからな。きっとわし自身、マジックアイテムなんじゃよ」
「そーいやカカシの出自とか、一切知らないんだよな、俺。この足の部分て普通の木じゃないよな」
「こりゃ霊木ですぜルインの旦那。そんじょそこらの霊木とはわけが違う。数千、いや数万年は生きた
大樹の木のものでやしょう」
「その木があればカカシの足、治してやれそうか?」
「そりゃ多分できるでしょうけど、そんな木、妖魔皇国でもそうそうお目にかかれませんぜ」
「探してみるさ。これからあちこち行かなきゃいけないんだ。カカシも俺にとっては最初のころからの
付き合いが長い家族だ。だから見つかるまで、あんま無理しないでくれよ」
「ルインよ。わしの事より主を頼むぞ。わしゃとっくに死んでたはずじゃ。
もう助けられた身じゃし、自分たちの事を……」

 俺はすっとカカシにしがみついた。それ以上は言ってほしくない。

「いつも領域を見ててくれてありがとう。本当は一緒に旅したいのに、出来なくて辛かっただろう。
時折しか顔を出せてやれなくてすまない。でもさ、俺もメルザもちゃんと、カカシの事を
気にかけてるんだぜ」
「ルイン……わしゃ嬉しくて嬉しくて。このふしくれの手じゃどうしてやることもできん。
じゃが美味い作物はわしに任せろ。それにここは多くの者が訪れる。寂しくはないぞ。
戦闘で手伝ってやれんのは悲しいがのう」

 何言ってる。ここにいてくれるだけで十分嬉しい。
 いつも通り作物をある程度受け取ると、モンスター牧場へ行き、再び出せるようになったモンスターたちを
確認する。こいつとこいつ、それからこいつはばっちり使えるな……。
 しかしここも随分と増えたもんだ。
 めいいっぱいスライムを集める人の気持ちも、わからなくもないな。

 さて、俺も戻って少し寝るとしよう。
 明日からの里帰りに備えて。
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